ブエノスアイレスを舞台に退廃的ゲイ・カップルの愛と苦悩をリアルに描き出した映画。
製作・監督・脚本はウォン・カーウェイ

映像はクリストファー・ドイル
主演は香港出身の人気俳優トニー・レオン、レスリー・チャン

あらすじ

ファイはゲイの相手ウィンと何度も別れようとするが、ウィンに「やり直そう」と言われると、寄りを戻してしまう。
二人はアルゼンチンの名勝地「イグアスの滝」を見に行く。しかし道中で痴話喧嘩を始めた二人はそのまま別れてしまう。
ウィンが一人で金を使ったので、ファイに帰国旅費が残されていない。ファイは、ブエノスアイレスでドアマンの仕事を始めた。ある晩ファイがドアマンを勤めるバーにウィンがやって来て、白人ゲイと熱いキスをする。
その後ファイは、殴られて血まみれになって現れたウィンを自宅に泊めてやり、世話をするようになる。ファイはウィンのわがままを何でも聞いてやった。

ファイは、中華料理店で働き始める。その店で台湾人のチャンがバイトに入る。チャンはとても耳が良く、声音の違いで人の心まで読めた。ある日、チャンがファイの電話に出て、ウィンはファイを疑い始める。ウィンは怪我が治ると、ファイが働いているときに奔放に遊び始める。ファイも発展場に出入りして、欲望の吐口を求めた。
ウィンは、自分のパスポートがないことに気づく。ファイが秘かに隠しており、返そうとしない。怒ったウィンは、部屋中荒らしてから出て行く。

ファイのヤケ酒に付き合ってくれたのは、ノンケのチャンだけだった。チャンは、アルゼンチンの南端ウスワイヤへ行くのを目標にしていた。そこに悩み事を忘れさせる、伝説の灯台があった。チャンは、ファイに悩みをレコーダーに吹き込んでくれ、灯台にテープごと捨ててくるからと言う。それを聞き、ファイは嗚咽をあげる。ファイは翌日南に向かって旅立って行く。

雑感

筋書きは単純だ。ファイが暮らした部屋で最後にウィンだけが暮らしているのは、ウォン・カーウァイ監督の「恋する惑星」の第二部(トニー・レオンとフェイ・ウォンが出会う話)で最初フェイ・ウォンがいた店にトニー・レオン扮する警官が買いに来たのに、最後はその店でトニー・レオンが働くところにスチュワーデスになったフェイがやって来るところを思い出した。

この映画の見どころは何と言っても映像美だ。しかもブエノスアイレスという地の果てのゲイバーのような耽美的な場所で照明を使って映す映像もあって、イグアスの滝の幻想的シーンを俯瞰で撮ったものもある。中でも、夜のくすんだ藍色の海の波が揺蕩うシーンがある。この色は美しいわけではないが、劇場でもテレビでもあんなに夜の波をはっきり見たことがなくて印象的だった。

主演はトニー・レオンだが、ゲイの役は嫌がっていた。現場に行くまでは違う話だということにして、アルゼンチンまで行ってから実は「話に変えましたと制作側が言い出してトニーを騙した」そうだ。
レスリー・チャンはコンサートツアーが入っていて、途中で撮影から抜けた。
そこで軍に入隊直前で休業していたチャン・チェンらを招集して脚本に手を入れた。
結果的にウォン・カーウァイカンヌ国際映画祭監督賞を受賞し、トニー・レオン香港電影金像奨主演男優賞を受賞した。

 

スタッフ

製作・監督・脚本 ウォン・カーウァイ
製作総指揮 チャン・イーチェン
音楽 ダニー・チョン
撮影 クリストファー・ドイル
編集 ウィリアム・チョン
衣装 菊池武夫

キャスト

レスリー・チャン:ウィン
トニー・レオン:ファイ
チャン・チェン:チャン

ネタばれ

ファイは、孤独に耐えかねて故郷の台湾に帰りたくなる。ファイは香港で父親の友人の会社に勤めていたが、アルゼンチンへの旅費を横領してしまった。父親に金を返すという手紙を書き、屠殺の仕事を転職する。ウィンからたびたび連絡があったが、あえて無視した。
ファイは部屋を出て、1人でイグアスの滝へ向かう。滝に着いたファイは、壮大な自然のドラマを見ながら一緒にいるはずのウィンを思い出していた。
また、ファイのいない部屋に戻ってきたウィンには、もはや虚しさしか残っていなかった。
伝説の灯台にたどり着いたチャンは、ファイのテープを聞いたが、泣き声が聞こえるだけだった。

1ヵ月後、ファイは台北の夜市を歩いていた。立ち寄った屋台で、ファイは灯台に立つチャンの写真を目にする。この店がチャンの両親の経営する店だった。ファイはその写真を一枚盗んだ。これでチャンと、いつでもまた会えると思った。

 

 

ブエノスアイレス (春光乍洩) 1997 英領香港春光映画製作 ブレノンアッシュ配給

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