ローマ共和国時代の第三次奴隷戦争を描いたハワード・ファストの原作をダルトン・トランボが脚色し、スタンリー・キューブリックが監督した歴史劇。
主演、製作総指揮はカーク・ダグラス。
共演はトニー・カーティス、ジーン・シモンズ、ローレンス・オリヴィエ、ピーター・ユスティノフ。映像はカラーの70mmのワイドスクリーンで「ベン・ハー」を意識している。
あらすじ
ローマがまだ共和政を行なっていた頃(紀元前一世紀)、トラキア(トルコ)から来た奴隷スパルタカスは、バチアツスの経営する剣闘士養成所に売り飛ばされた。それは奴隷をローマのコロッセオで闘う剣闘士を育て上げる場所だった。スパルタカスは、ブリタニア出身の痩せ細ったが気品のある女奴隷バリニアと知り合った。
ローマの元老院議員クラスス将軍一行が、突然バチアツスを訪ねた。クラサスは、嫌がるバチアツスに対して金に明かしてスパルタカスと黒人奴隷ドラバの真剣勝負を所望する。三又槍のドラバが勝負に勝ったが、スパルタカスにトドメを刺さないどころか、貴族であるクラススに槍を向けた。しかしドラバは背中から撃たれ、最期はクラススに返り討ちに遭う。
バリニアを気に入ったクラススは、愛人にするつもりでバチアツスに金を払ってローマに送るようと命じた。バリニアを愛していたスパルタカスは貴族を憎み、バチアツスがローマに出張している間に他の剣闘士たちとともに反乱を起した。
スパルタカスと奴隷の軍隊は、貴族の荘園を次々に襲いさらに奴隷を解放した。そしてベスビオス火山に本拠地を置いた。輸送中に荷車から飛び降りて逃げたバリニアも、スパルタカスのもとに加わった。
当時のローマの元老院では、クラススとグラックスが覇権を争っていた。クラススがローマを離れているうちに、グラックスはクラサスの力を削ぐ目的で、クラススの部下グラブルスのローマ警備隊の六中隊を奴隷討伐に派遣し、かわりにジュリアス・シーザーを警備隊長代理に任命しローマの警備を任せた。
スパルタカスは、クラススの奴隷アントニヌスが脱走したので、彼の知性を買って参謀に抜擢した。スパルタカスの野望は、奴隷解放であった。奴隷軍はイタリアの踵に当たる港町ブルンドゥシウムに向かっていた。そこから海賊商人ティグラネスとの交渉で海賊船に乗り、アフリカ大陸に渡るつもりだ。
奴隷軍は警備隊の寝込みを襲って、幾多の武器を略奪する。スパルタカスは、隊長グラブルスを生捕にして、奴隷に自由を寄こせばローマから出ていくと言う伝言とともに彼をローマに帰した。
(休憩)
クラススはグラブルスを警備隊長に任命した責任を取って、一旦公職から引退した。一見貴族らしく潔いと見えた。しかしグラッススは、クラススが独裁者になることを諦めていないと唱えた。
スパルタカスは、大勢の奴隷たちを連れて7カ月間の南進を続けた。そのうち、バリニアもスパルタカスの初子を孕む。
ローマの民衆はクラスス将軍の再登板を請い、ローマの執政官になることを条件に討伐軍を引き受けた・・・。
雑感
アカデミー賞は助演男優賞(ピーター・ユスチノフ)、カラー美術賞(アレグザンダー・ゴリッツェン他3名)、カラー撮影賞(ラッセル・メッティ)、カラー衣装デザイン賞(ヴァレズ、 ビル・トーマス)と4部門を受賞した。予算は掛かっているが、前年度の映画「ベン・ハー」の9部門制覇に及ばなかった。完全版は上映時間3時間17分である。
映画を観たアメリカ人はスパルタカスの反乱戦争をローマ人から自由を求めた独立戦争と考えただろう。結果的に二人しか自由に出来ず同朋を何千人も死なせてしまったことを彼らはどう考えたのだろう。
それぐらい独立運動は、どんな国でも割に合わないものなのだ。日本人はと言うと、いつの間にか達成してしまったから、その有り難みがわからない。
世界史を学ぶと混乱してしまうが、グラックスとクラススは同時代人ではない。護民官だったグラックス兄は紀元前133年に殺され、グラックス弟は紀元前121年に自ら死を選ぶ。クラススは紀元前115年生まれで執政官となり、ポンペイウス、カエサルと三頭政治を行ったがもっとも早く戦死する。
製作総指揮でもあるカーク・ダグラスの作った映画と言える。赤狩りで干されていた脚本家ダルトン・トランボはこの作品で公に復活したが、一度書いた脚本はピーター・ユスチノフらによって書き直され、トランボは撮影に参加させられず撮影終了後に戦争シーンの撮り直し分を書き直した。
最初は監督にアンソニー・マンを招いていたが、撮影し始めてからカーク・ダグラスとの関係が修復できなくなり、映画「突撃」を撮ったスタンリー・キューブリックと交代させた。しかしスタンリーも雇われ監督に過ぎず、出来に満足しなかった。
しかし評論家には、高い評価を付けられている。ときのケネディ大統領が映画館で鑑賞して好意的な感想を述べたことで大ヒットになった。個人的には、「ベン・ハー」は長いだけの作品でありスペクタクル映画に過ぎない。それと比較して「スパルタカス」の方が、映像も脚本も俳優も見応えがある。
そもそも前年度に製作された「ベン・ハー」(1959)は、ユダヤ人(ウィリアム・ワイラー監督の父母はユダヤ人)を描きながら、チャールトン・ヘストンを使ったために全くユダヤらしさを感じさせない。
一方、「スパルタカス」はトルコ人奴隷の話なのに、ユダヤ人のカーク・ダグラス、アンソニー・マン、スタンリー・キューブリックが作っているために、イスラエル独立運動の苦難を示唆した映画になっているという皮肉だ。ちなみに同年にはポール・ニューマン主演、ダルトン・トランボ脚本、オットー・プレミンジャー監督の「栄光への脱出」も製作された。
アントニヌス(トニー・カーティス)がクラスス(ローレンス・オリビエ)に奴隷の身分でありながら重用されたのは、ホモ・セクシャルの関係にあったためだが、当然ながらぼやかしている。後に映画「セルロイド・クローゼット」でトニー・カーティスが語っていた。
「ベン・ハー」にも同性愛を匂わせるシーンは描かれていたが、その部分の脚本を書いたゴア・ヴィダル(「去年の夏突然に」「パリは燃えているか」)はクレジットされていない。右翼のチャールトン・ヘストンは同性愛を公言するゴア・ヴィダルの作品参加を公に否定した。
アレックス・ノースが書いたサウンドラックの完全版が、2010年に発売されている。
スタッフ
監督 スタンリー・キューブリック、(アンソニー・マン)
製作総指揮 カーク・ダグラス
製作 エドワード・ルイス
脚本 ダルトン・トランボ
原作 ハワード・ファスト
撮影 ラッセル・メッティ(アカデミー撮影賞・カラー)
音楽 アレックス・ノース
美術 アレグザンダー・ゴリッツェン、エリック・オーボム、ラッセル・A・ゴーズマン、ジュリア・ヘロン (アカデミー美術賞・カラー部門)
衣装デザイン ヴァレズ 、 ビル・トーマス(アカデミー衣装デザイン賞・カラー部門)
キャスト
奴隷スパルタカス カーク・ダグラス
奴隷アントニヌス トニー・カーティス
元老院議員クラッスス ローレンス・オリヴィエ
女奴隷ヴァリニア ジーン・シモンズ
元老院議員グラックス チャールズ・ロートン
バチアツス ピーター・ユスティノフ(アカデミー助演男優賞)
守備隊長カエサル(シーザー) ジョン・ギャビン
ヘレナ ニナ・フォック
ティグラネス(海賊の使者) ハーバート・ロム
クリックス ジョン・アイアランド
警備隊長グラブルス ジョン・ドール
マルセルス チャールズ・マッグロー
クラウディア ジョアンナ・バーンズ
ダビド ハロルド・J・ストーン
黒人奴隷ドラバ ウッディ・ストロード
ラモン ピーター・ブロッコ
ガニクス ポール・ランバート
***
クラススはまず海賊を買収し、海岸にローマ正規軍を上陸させた。奴隷軍は前後をローマ軍に挟まれ、スパルタカスは行き先を北に取り、ローマへの進撃を命じた。
ついにカプア近郊の大平原でクラススの軍と奴隷軍は戦火を交えた。優勢だった奴隷軍はポンペイウス軍が参戦したことにより、逆転され壊滅された。
バリニアは、クラススの愛人になった。しかしバリニアは貞節を守り、クラサスの意に敢然として従わなかった。生き残った男奴隷は、街道の両側に磔にされた。最後にスパルタカスはアントニヌスと剣闘士として決闘をさせられた。2人は涙をのんで戦い、スパルタカスが勝ってアントニヌスは死に、スパルタカスは磔となった。
クラススの勝利を受けて失脚した民主派のグラックスは、バチアツスに命じてバリニア母子を誘拐させた。グラックスは、バリニア母子にローマ市民権を与え、自分は自殺した。バチアツスはバリニア母子と馬車に乗って城門を出た。
磔になり瀕死のスパルタカスに歩み寄ったバリニアは子供を高くさし上げ、自由になったと涙ながらに告げた。そしてバチアツスとともに旅立っていった。