(☆)太平洋戦争末期にアナタハン島で起きた、謎の連続男性怪死事件にインスパイヤされた飯沢匡の戯曲「ヤシと女」を川島雄三が脚色・監督した風刺艶笑喜劇
出演はの森繁久彌、フランキー堺。共演は桂小金治宮城まり子・八千草薫・淡路恵子、岸田今日子、三橋達也ら。
カラー映画で、撮影は岡崎宏三

雑感

アナタハン島事件については、ハリウッドの巨匠ジョセフ・フォン・スタンバーグ監督が撮った東宝映画「アナタハン」(主演・根岸明美)を参照して頂きたい。マリワナ海溝にある孤島アナタハンに軍人、軍属、民間人と一人の若き女性が取り残され、やがて男同士で殺し合いが起きると言う凄惨な事件である。
昭和31年になり劇作家の飯沢匡がアナタハン島事件を基にして、戦争末期に孤島に閉じ込められた男性4人女性9人が巻き起こす風刺喜劇を上演した。
その三年後にその戯曲を川島雄三監督が映画化した。
描かれているグラマ島とは、かつて米国により水爆実験が行われたビキニ島をもじったものだ。一方、アナタハン島はグアム島の北だが、さらにグアムからはるか東に行ったところにマーシャル諸島があり、ビキニ環礁もその一部である。

川島雄三監督の喜劇の割には、切れ味が悪くてあんまり面白くなかった。
ともに風刺劇を得意とする作家同士なのだが、85歳まで生きた飯沢匡と違って、厭世観が漂い早死にした川島喜劇とは相性が悪かったらしい。

 

キャスト

森繁久彌  香椎宮為久(やる気のない航空司令海軍大佐)
フランキー堺  香椎宮為永(軍司令部付参謀陸軍大尉)
桂小金治  兵藤惣五郎(御付陸軍中佐)
三橋達也  ウルメル(平和主義者、カナカ族原住民?)

浪花千栄子  佐々木しげ(慰安婦監督)
轟夕起子  北川たつ(従軍慰安婦)
桜京美  太田みよ(従軍慰安婦)
左京路子  矢田もよの(従軍慰安婦)
春川ますみ  内田まさ(従軍慰安婦)
宮城まり子  名護あい(従軍慰安婦)
八千草薫  上山とみ子(戦争未亡人)
淡路恵子  香坂よし子(報道班員詩人)
岸田今日子  坪井すみ子(報道班員画家)

加藤武  赤井八郎左衛門(米軍通訳)

スタッフ

製作  滝村和応、佐藤一郎
原作  飯沢匡
脚色、監督  川島雄三
撮影  岡崎宏三
音楽  黛敏郎

 

あらすじ

太平洋戦争末期、香椎宮家の兄である為久と弟為永、そして御付武官の中佐兵藤は、乗り込んだ輸送船を撃沈され、報道班員で詩人の香坂よし子、同じく画家の坪井すみ子、佐々木しげに引率された従軍慰安婦たつ、みよ、もよの、まさ、あい、さらにこの島にかつて住んでいた戦争未亡人とみ子と共にグラマ島に漂着する。
無気力な宮様等男性三人は、女性をこき使ってバナナや野良豚を捕まえて自給自足を始めた。兵藤中佐は、年増のたつを愛人にして一軒の家を持たせる。兄宮は理知的な坪井報道班員に惹かれるが、バイタリティのない兄宮は相手にされない。そのうち、いつもハンモックで扇いでくれるあいと出来てしまい、妊娠させてしまう。弟宮もとみ子を愛するが、とみ子は現地人の逞しいウルメルを慕っている・・・。
しかし、あいの子供は、栄養失調で亡くなってしまう。
すると、実質的に女性陣の権力を握っていた、たつへの報道班員の反感が高まり、食糧がなくなったこともあり、両者の空気は険悪になる。
報道班員たちは、落下したB29の落していった缶詰等をもって慰安婦を味方に付けたため、弟宮は捕らえられた。脱出した兄宮は、B29の残骸からピストルを発見し、兵藤は女たちを脅かす。現地人ウルメルが兵藤を阻止しようとするが、撃たれて海に落ちる。
再び兵藤が権力を持つが、たつに飽きて、詩人の香坂に乗り換える。そこに再びウルメルが現れ、兵藤と戦い、ついにウルメルが勝利する。兵藤はこのときのショックで死んでしまう。

宮様と女たちは、弟宮を委員長とする民主的な「自治運営委員会」を結成して、新たな生活がはじまった。弟宮は、近くの島に向けてみんなで脱出するため、カヌーを作る。いよいよ、進水式という日に兄宮は、あいと二人だけで島を脱出した。
ある日、アメリカ軍将校が上陸して、戦争が終ったこと、兄宮がすでに帰国していたことを告げる。この地に残るウルメル(実は脱走した日本兵)ととみ子を残して、皆は引き上げた。
1934年、作家になった坪井すみ子の書いた「グラマ島の悲劇」がベストセラーとなる。その頃、グラマ島では、アメリカが水爆実験をするという。まだ、グラマ島にウルメルととみ子が残っていることを誰も知らない。慌ててもと弟宮の為永が、政府に陳情するが、時既に遅し。キノコ雲が大空に上っていった。

グラマ島の誘惑 1958 東宝東京製作 1959.1 東宝配給 「アナタハン島事件」を基にした飯沢匡の戯曲を川島雄三が映画化

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