有馬頼義の原作を、青山民雄が脚色し、若杉光夫が監督した、16歳の純愛映画。
昭和35年11月9日封切りの吉永小百合の長編初主演作である。共演は浜田光夫。
後に後藤久美子が吉田栄作とリメイクした作品でもある。
白黒映画。
あらすじ
地元の漁師が、少女の遺体が本栖湖に浮かんでいるのに気付いた。
話は、数ヶ月前に遡る。
陽一と晴代は中学の同級生だったが、卒業後、陽一は町工場に就職し、靖代は高校に進学した。
ある日、二人は四谷駅で出会い、喫茶店で旧交を温める。
靖代の義父杉太郎は大学助教授を勤めている。靖代の帰宅時間が遅いと、義父は、相手は男ではないか、女は結婚するまで純潔でないといけないと言って、口うるさい。父親でないからこそ、父親らしくしなければいけないと思っていたのだろう。母親里子は二人の間に挟まれて何時も困っていた。
陽一は家庭は、四人家族だが、弟は幼く、父親は病気で寝込んでいた。家族は困窮していて、母親が働きに出ていた。陽一が、工場をサボると、ガミガミうるさい。
ある時、靖代は陽一と後楽園遊園地で遊んで帰宅した。義父は、酒を飲んで上機嫌で靖代に、北大の教授になると言った。そのとき、義父に男性を感じた靖代は、本能的に避けた。
翌日、彼女は学校へ行かず、陽一の家を訪れた。陽一は、靖子に自分の暗い家庭のことを打ち明けた。二人は、違う世界に生きているのだ。二人は、電車に乗ってどこか静かな所へ行くことにした。
雑感
吉永小百合はこの映画で初の長編映画主役を張った。相手役は、これから数知れぬほど名作を作る浜田光夫だ。16歳の吉永小百合は、今よりもずっとあどけない。
どちらも自分の演技の型を持っていない、まだ初々しい演技を見せている。後にどちらも型にハマりすぎることがあったから、この映画の二人は新鮮でよかった。
ただし、脚本に穴があるのか、編集が無能なのか知らないが、矛盾が多かった。
心中場所のロケ地は本栖湖である。
それなのに、幸せな後楽園遊園地シーンの映像は別撮りで、小百合、光夫コンビはスタジオでデートシーンを撮って合成するという貧乏くさい手法を使っていた。当時はテレビがよくこういう合成映像を流していたが、まだ昭和35年には、こんなことを低予算映画でもまだやっていたのだ。
それだけ、当時は吉永小百合の人気が上がってきていて、遊園地ロケを行うのが難しかったのだろう。
スタッフ
原作 有馬頼義
脚色 青山民雄
監督 若杉光夫
撮影 井上莞
音楽 木下忠司
キャスト
靖代 吉永小百合
靖代の父杉太郎(大学教授) 信欣三
靖代の母里子 轟夕起子
陽一(工員) 浜田光夫
陽一の父儀助 大森義夫
陽一の母ます 小夜福子
先輩工員中村 草薙幸二郎
先輩工員松造 稲垣隆史
町工場社長 佐野浅夫
中村の恋人春江 南風洋子
靖代の同級生 水原英子
***
都心を離れて本栖湖までやって来た二人は、ボートを漕ぎ出した。話すこともなくなって、いつしか絶望感から、死の話をするしかなくなった。靖代は義父が仕舞っていた薬箱からくすねた睡眠薬を取り出した。二人は薬を飲むと、横になって空を見上げた。「私は、純潔なんだから、心中じゃないわよね」「そうだよ・・・」。(←これも心中です)
そして翌日、ボートが転覆したため、靖代が湖水に浮かんで発見されたのだ。
義父は、靖代が死んだことを悔やんだ。彼は、純潔よりもっと大切なものがあることを教えていなかったのだ。