原作はミステリの女王アガサ・クリスティの1949年度長編小説。ポワロもミス・マープルも現れないノン・シリーズの一作で、クリスティがもっとも愛した作品として知られる。しかしある意味で時代を先取りする内容から今まで映像化されたことはなかった。(ラジオドラマは2008年に放送されたことがある)
今回、著作権を握る原作者の孫マシュー・プリチャードが製作にGOサインを出し、原作通りノン・シリーズという形式(探偵不在劇)で、映画化された。

 
監督は「サラの鍵」で東京国際映画祭観客賞を受賞したフランス人ジル・パケ=ブランネール、脚本は「ダウントン・アビー」の製作者ジュリアン・フェロウズ。主演はマックス・アイアンズステファニー・マティーニで、共演はグレン・クローズ、テレンス・スタンプ、ジリアン・アンダーソン(「X-ファイル」)。
 

 
原題 “Crooked House” は、マザー・グースの童謡 “There was a crooked man”(ねじれた男がおりました)の歌詞 “in a little crooked house” に由来する。
 

あらすじ

 
英国で「ねじれた家」と呼ばれる屋敷に住むギリシャ人大富豪レオニデス氏が毒殺される。孫娘ソフィアはかつて外交官としてエジプトで諜報活動をしていた探偵チャールズに捜査を依頼する。亡父の親友タヴァナー主任警部からも警察がすぐ捜査に入るとスキャンダルになるので、チャールズは事前調査を依頼される。
彼は早速「ねじれた家」に行き、聞き込みを開始する。容疑者と目される後妻ブレンダと家庭教師ローレンス以外、ソフィアの両親もイーディス大伯母も、彼に対して協力的でない。ソフィアの妹ジョセフィン(12歳)に至ってはホームズのように思わせぶりな態度を取り、チャールズをワトソン扱いする。
遺言状の不備で、妻であるブレンダに全財産が行くことになった。みんなはブレンダがローレンスと結婚したいがために夫を殺害したと考えた。しかしアリバイ的には誰もが(ソフィアでさえも)犯人になることが出来た。
突然ギリシャ人の旧友が新たな遺言書を持って現れ、ソフィアがほぼ全財産を遺贈されることになる。チャールズはソフィアを通して事件関係者と見なされ、捜査から遠ざけられる。
そんなとき遊んでいたはしごの吊り縄が故意に傷つけられて、ジョセフィンが落下するという事故が起きて彼女は入院する。その隙にチャールズが、ジョセフィンが隠したブレンダからローレンスへの書簡を見つけ出したので、タヴァナー主任警部は二人を逮捕する。
しかし事件は意外な展開を見せる。ジョセフィンは全快して病院から帰宅するが、彼女が飲むはずだったココアを飲んでジョセフィンの乳母であるジャネットが毒殺された。チャールズがジョセフィンに質問しようとすると、イーディスがチャールズにタヴァナーが呼んでいると教えた。ジョセフィンからチャールズが目を離した隙にイーディスは彼女を連れ出し、車で採石場の崖から飛び降りて二人とも死んでしまう。祖父と乳母を殺した真犯人はジョセフィンだった。それを気に病み、大伯母のイーディスがジョセフィンを連れて心中したのだった。

 

 

雑感

 
アガサ・クリスティのミステリは全て読み終えているが、この作品が最後に読んだ作品でいまだによく覚えている。
推理小説は映像化して面白くなることはないのだが、この映画は主人公の背景こそ違えども、原作に大筋で合致しているので、及第点を与えられる。

また超人的な探偵不在というのも、松本清張作品のように、観客の視点が探偵のそれとほぼ同じであり、安心して見続けられた要因だろう。
 
もちろん、アクションがなければ映画でないという人にはオススメしない。

主人公二人のロマンスに関してはオープンエンド(未解決)になっているが、おそらくこの終わり方では別れるだろう。
 
この原作は、アメリカの1932年に書かれた某有名探偵小説に似ていると言われている。某小説はアメリカ本国より日本で大変人気が出てしまい、石坂浩二主演でテレビドラマにもなった。
両方の作品とも悪い血統を強調していたため、今まで英米で映画化されなかった。しかしテレビドラマのポワロシリーズとミス・マープル・シリーズが終わってしまい、新機軸を展開したい孫マシュー・プリチャードと古典推理小説を映画にしたい制作陣の期待が一致したため、6年もの歳月を掛けて今回の映画化に漕ぎつけた。
 
ただし、残念なことに犯人の意外性は現在では失われてしまった。同種の犯罪がしばしば報道されるせいだ。
 
コナン・ドイルのシャーロック・ホームズ譚に「唇のねじれた男」と言う短編推理小説がある。この「ねじれた唇」は Twisted Lip だから、この映画のCrooked とは少し違うが、道を踏み始めかけていることは同じ。しかし Twisted の方は注意だけで無罪放免になり、Crooked はもっとエグかったな。

 
原作のレオデニスは特定のモデルはいるか不明だが、映画のレオデニス氏はオナシスを模していると言われる。ブレンダは愛人だったマリア・カラスになろうか。

スタッフ・キャスト

 
監督 ジル・パケ=ブランネール
脚本 ジュリアン・フェロウズ、ティム・ローズ・プライス、ジル・パケ=ブランネール
原作 アガサ・クリスティ「ねじれた家」
製作 ジェームズ・スプリング、サリー・ウッド、ジョー・エイブラムス
製作総指揮 ポール・B・エンバーリー他11名
音楽 ヒューゴ・デ・チェア
撮影 セバスティアン・ウィンテロ
 
配役
チャールズ・ヘイワード:マックス・アイアンズ
ソフィア・レオニデス:ステファニー・マティーニ
イーディス・デ・ハヴィランド:グレン・クローズ
タヴァナー主任警部:テレンス・スタンプ
フィリップ・レオニデス:ジュリアン・サンズ
ジョセフィーン・レオニデス:オナー・ニーフシー
ロジャー・レオニデス:クリスチャン・マッケイ
クレメンシー・レオニデス:アマンダ・アビントン
マグダ・レオニデス:ジリアン・アンダーソン
ブレンダ・レオニデス:クリスティーナ・ヘンドリックス
 

アガサ・クリスティー ねじれた家 Crooked House 2017 イギリス製作 KADOKAWA配給

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