藤原審爾原作小説「庭にひともと白木蓮」を加藤泰山田洋次が共同脚色して、山田洋次が監督した人情喜劇。山田洋次は、監督として「下町の太陽」に続く第三作目だった。
撮影は当時新人だった高羽哲夫(のちに「男はつらいよ」全四十八作の撮影監督になる)。

主演はハナ肇
共演は桑野みゆき、長門勇、花沢徳衛、犬塚弘
カラー映画。

ストーリー

戦後、シベリヤから復員して瀬戸内の小さな町にやって来た松本安五郎は仏像泥棒を捕まえたために、浄念寺に寺男として住まわせてもらう。和尚の長男もシベリアに出征していまだに復員していなかった。安五郎は、長男の妻夏子を恋い慕った。また次男坊の清十郎は、安五郎によく懐いた。
腕力がある安五郎は、主水屋の主人に頼まれ、娘を拐かした怪力プロレスラーをとっちめた。主水屋は喜び、安五郎に一軒の家を与え、やがて八郎という乾分もできた。
町の工場で労働争議が起きた。安五郎は、工場の煙突の上で赤旗を振る与助を下ろしに登っていくが、自分が降りられなくなって与助に降ろしてもらう。おかげで与助も煙突から降りる羽目になって、労働組合に安五郎は恨まれる。そこで安五郎は、工場の赤木会長に面談し、工員の賃上げ要求を認めさせ、最後は労働組合と「人生劇場」を合唱していた。
町に芝居小屋が立ち、「無法松の一生」を上演することになる。安五郎が早速観に行くと、自分と夏子のことを演じているようで感動してしまった。特に最後の松五郎の台詞「俺は汚れちまった」という言葉が心に刺さった。

町長選挙があり、工場が推す革新波の浦上が当選したことから町は急変した。新年の賭場開きをしようとした主水屋と安五郎は、賭博罪で逮捕されてしまう。さらに、夏子との関係が噂となり安五郎は、浄閑寺から出禁を申し渡されてしまう・・・。

雑感

この作品は、山田洋次にとって重要な作品だ。彼は、映画監督としてシリーズ化できる作品に初めて出会ったのだ。そのチャンスを生かし、ハナ肇主演「馬鹿シリーズ」を次々とヒットさせる。さらに、渥美清主演「男はつらいよ」シリーズにつなげていくのだ。
その原点は1943年阪東妻三郎主演「無法松の一生」にあった。それがあって「馬鹿まるだし」があり、毎度主人公を死なせるのも勿体無いので「男はつらいよ」となるのだ。
しかし。プログラム・ピクチャーを描くということは、役者に他の役を演ずることを制限することで、渥美清は苦しかったと思う。もっといい芝居をして、歴史に残る映画をとれたはずなのにと思うこともある。
山田洋次監督は、賞取り映画をとる一方、役者を消費するだけの映画も撮る自分勝手な監督だと思う。

初代マドンナ役の桑野みゆきは、当時まだ22歳だったが、着物が似合い、落ち着きが出て一番いい頃だと思う。良いタイミングで、エポックメイキングな映画に当たった。
渥美清藤山寛美は、わずかな特別出演だったが、共にハナ肇とのガッチリ絡みが見られて感動した。
クレイジー・キャッツのメンバーでは、犬塚弘が乾分役で目立っていた。植木等は、東宝との契約があったのでノン・クレジットだが、全編のナレーターと成人して結婚している次男清十郎役を演じている。他のメンバーは、東映で「図々しい奴」を撮影中の谷啓を除いて出演している。
もう一つあげると、ハナ肇と長門勇(警官役)の絡みも好きだった。(65)

 

スタッフ

製作  脇田茂
企画  市川喜一
原作  藤原審爾 「庭にひともと白木蓮」
脚色  加藤泰
脚色、監督  山田洋次
撮影  高羽哲夫
音楽  山本直純

キャスト

安五郎  ハナ肇
夏子(嫁)  桑野みゆき
浄閑和尚  花澤徳衛
きぬ(和尚の妻)  高橋とよ
静子(辰巳屋の娘)  清水まゆみ
小万(芸者)  関千恵子
八郎(子分)  犬塚弘
主水屋  三井弘次
辰巳屋  石黒達也
伍助(労組員)  桜井センリ
日之出巡査  長門勇
万やん  渥美清(特別出演)
宮さん  藤山寛美(特別出演)
赤木会長  小沢栄太郎
清十郎/ナレーター  植木等(ノン・クレジット)

 

***

ダイナマイトを持った脱獄囚三人組が、辰巳屋の静子を誘拐して裏山に籠った。ダイナマイトの前に警察は役に立たず、辰巳屋が頼ったのが安五郎だ。彼は夏子に対する名誉挽回を賭けて、ダイナマイトの降る中、裏山に突っ込み静子を救った。しかし、帰り道の足元でダイナマイトが爆発してしまう。

十年後、浄念寺の跡を継いだ清十郎は、安五郎の訃報を八郎からもらう。安五郎はダイナマイトで盲目になってもしばらく生きていたのだが、ついに帰らぬ人となったのだ。
ダイナマイト事件の一年後、夏子の夫の戦死公告が来て、さらに1年経って縁談が持ち上がり大阪の家に嫁いでいったのだ。
その嫁ぐ前日の夏子の前に、ぶらりと安五郎が白杖をついて現れた。そして婚礼の祝いを述べ、涙ながらに「あっしは汚れちまった」というのだった。夏子の涙に濡れた眼差しが安五郎に向けられていたが、彼はそれを見ることはなかった。

馬鹿まるだし 1964 松竹大船製作 松竹配給 ハナ肇「馬鹿シリーズ」第一弾

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