昭和31年度キネマ旬報グランプリ作品。
巨匠今井正と脚本家橋本忍の黄金コンビが、
実際にあった冤罪事件(八海事件 やかいじけん)を取りあげた問題作。
既存の映画会社では取れないのでインディーズを利用した。
☆ネタバレ注意
松山照夫は老夫婦を強殺し、警察でも自白した。
警察は単独犯ではないとの見込みから、草薙幸二郎矢野宣、他二名も逮捕して、
拷問を加え、自白を強要し、共同正犯として起訴する。
下級審は松山だけ無期懲役、他の四人は死刑の判決が下った。
早速弁護側、検察ともに控訴した。
高裁では緻密な証拠調べが行われ、当地の駐在がアリバイの証人になる事がわかった。
その駐在下元勉は証言を二転三転させ、最後は「警察へ提出した上申書に間違いございません。」と偽証するのだった。
草薙幸二郎の内縁の妻・左幸子もその晩一緒にいたことを証言したが、取りあげられなかった。
左幸子は結局、草薙と別れて他の男と結婚する。
内藤武敏弁護士には検察の矛盾を突けば、この裁判は勝てると思った。
犯罪時間が余りに短すぎるのである。
全員が被害者宅へ走りながら、押し込みの相談をしている。
なたでめった打ちにしたことになっている、主犯草薙の衣類に血痕が全くなかった。
盗んだ金銭の配分が全くナンセンスで、松山が全体の半分を取ったことになる。
しかし菅井一郎内藤武敏弁護士の努力の甲斐なく、高裁でも有罪判決が出た。
草薙と母飯田蝶子は面会するが、何も言えない。
母はいたたまれず、出てゆく。
その後ろ姿を追って、「まだ最高裁判所がある。」と草薙は叫ぶ。
クレジットとあらすじ
八海事件
まだ事件が終ってない時点で、映画にした意味はよくわかる。
今井正としては、この裁判が馬鹿馬鹿しかったんだ。
警察が得点稼ぎで犯人の数を水増していることは誰の目にも明らかである。
世間に訴えて、警察や検察の横暴を明らかにするつもりだったのだ。
原作者であり弁護士でもある正木ひろしは戦前からのやり手弁護士。
地裁の判決が馬鹿馬鹿しかったので、この本を出した。
それに対して裁判官も反論の書を上梓する騒ぎになり、検察もメンツを潰され後には引けなくなった。
最高裁は差し戻し判決、高裁では無罪判決、最高裁で再び差し戻し判決、再度高裁で有罪判決。
そして最高裁で無罪判決がようやく出た。
その間、警察と検察のメンツのためだけに証人を呼んで、偽証罪で起訴したりしている。
実際に判決が確定し四人が自由の身になったのは昭和43年である。
映画から12年もかかっている。
どうして映画を作って、なおこれほどまで長い時間がかかってしまったのか?
当然、無能な警察の見込み捜査を黙認して、まともな捜査を行わなかった検察に第一の責任がある。
証拠が自白以外にない裁判なんか今どき維持できるわけがない。
しかし昔はそれを意地でも維持した。
昔の裁判とは、かようにいい加減なものだった。
また弁護士正木ひろしのやり方も問題があった。
検察上層部を刺激して必要以上に抵抗を受けた。
(残された母親たちは心労も大きかったと思う。)
でもさすが今井正橋本忍だ。
こんな猟奇的犯罪映画でも、笑える場面をいくつも用意している。
そして誰もが無罪を信じていたとき、判事は有罪と判決を下す。
一転して場面は深刻になる。
これぞ映画だという作りだ。
俳優では松山照夫が印象的だった。
罪もない仲間を売ることで自分の死刑を免れる。
人に罪を被せて平気でいる。
裁判中は死んだような目、精気のない目で虚空を眺めている。
松山照夫渾身の演技だと思う。
(この人は、今では時代劇の悪役専門だ。)
被告の母親役の北林谷栄飯田蝶子夏川静代も良かった。
草薙幸二郎の主演作は初めて見た。
名バイプレーヤー矢野宣もこれがデビュー作。
日本の裁判制度がいかにいい加減だったか、しっかり覚えておかなければならない。
また警察は都合の悪いことを隠すことも忘れてはならない。