ヴァル・リュートンが制作した一連のホラーを「リュートン・ホラー」と呼ぶ。怖そうなコスチュームやメイクアップに頼らず、心理的に観客を追い込むタイプのホラー映画で一定の評価を得た。現代でも特撮やVFXに頼らないサイコホラーがあるが、その先駆けのような存在だ。
この「吸血鬼ボボラカ」では、吸血鬼は決して現れない。だいたい吸血鬼ではなく、ボボロカとは悪魔の一種だ。この映画はギリシャの土着悪魔信仰から起きる悲劇を描いている。

 

 

Synopsis
1912年、バルカン戦争(ギリシャ、バルカン諸国連合対オスマン・トルコの間で起きた戦争)が終結してギリシャ軍は戦勝気分に浸っていたが、海岸に展開していた部隊はその地方で発生した伝染病対策に頭を悩ませていた。
部隊を率いるニコラス将軍は早くに妻を亡くしていた。向こう岸に見える島に久々に渡り墓参に赴き、従軍記者のアメリカ人オリバーも付いていく。

しかし墓は荒らされ中身は無くなっていた。近くにいた学者アルブレヒトに尋ねると、宝物狙いの盗掘が行われていると言う。旅行者の宿には、アルブレヒトと家政婦キーラ、英国外交官セントオービン夫妻と介護婦シア、ブリキのセールスマンがいて、将軍とオリバーは一晩泊まっていく。

 

翌朝、セールスマンが死んでいるのが発見される。早速軍医を呼んで原因を調べさせると、流行している伝染病だった。将軍は流行が収束するまで一行を島内に足止めする。
しかしセントオービン氏軍医自身も亡くなり、将軍は死の恐怖にかられるようになる。そこに迷信を信じるキーラが、悪魔ボボロカに乗り移られた人間がこの中にいるはずだと吹き込む。初めは信用してなかった将軍も心理的に追い込まれ、シアがボボロカでないかと疑い始める。
そんなとき、シアがお世話をしていたセントオービン夫人が亡くなり、復活を恐れて石棺に一時的に埋葬される。

 

しかしセントオービン夫人は奇跡的に息を吹き返し、重たい石棺から1日かけて自力脱出するが、自分をこんな目に合わせたキーラに対して、寝ているところをトライデント(三又槍)で串刺しにして殺す。
将軍はキーラが殺されているところを発見して、犯人をシアと勘違いし襲いかかるが、彼も夫人に背後から腹を刺される。そこへようやくオリバーとアルブレヒトが駆けつける。

 

 

 

 

映画をインスパイヤさせたものは、はじめの方のシーンで描かれた島の背景画だ。これはベクリンの描いた「死の島」と言う有名な絵を基にしている。この絵についてはナボコフの小説に描かれているし、ラフマニノフは「死の島」という交響詩を遺している。とくにナチス・ドイツの持つ厭世観に共鳴している。

 

この映画のおかげで再び現代ギリシャ史を勉強させてもらった。この映画で描かれたバルカン戦争は第一次世界大戦以前のオスマン・トルコ帝国の退潮を表す戦争の一つで、その後第一次大戦にもトルコは事実上破れ、帝国は滅亡に瀕していた。
この機に領土を拡大しようとギリシャが調子に乗って起こしたのが1919年のギリシャ・トルコ戦争であり、その結果として弱体化したオスマントルコ帝国から強いトルコ共和国が自立することとなり、小アジアに住むギリシャ人とギリシャに住むトルコ人を住民交換することなどを定めたローザンヌ条約が成立して、今に至るギリシャの苦難の原因の一つとなっている。

 

マーク・ロブソン監督はヴァル・リュートンに見出され、その後出世して70年代まで名作映画を撮った。
主演のボリス・カーロフは生粋の英国人で舞台出身だが、あえて悪役のドイツ姓を名乗り、トーキー開始後の恐怖映画に多数主演した。代表作は「フランケンシュタイン」「ミイラ再生」などである。
ヒロインのエレン・ドリューは、1938年から1943年までパラマウントの大スターだったが、その後人気は下降線をたどる。

 

 

監督 マーク・ロブソン
製作 ヴァル・リュートン
脚本 アーデル・レイ
撮影 ジャック・マッケンジー
音楽 リー・ハーライン

 

 

出演
ボリス・カーロフ (ニコラス将軍)
エレン・ドリュー (シア)
マーク・クライマー (オリバー)
キャサリン・エメリー (セント・オービン夫人)
ジェイソン・ロバーズ・Sr (アルブレヒト)

 

 

吸血鬼ボボラカ 1945 RKO リュートン・ホラーの傑作

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