1947年急死した製作者マーク・ヘリンジャー最後の作品である。製作者でありながらナレーターのつとめてドキュメンタリー風味に拘った名作クライム・ストーリーだ。
彼が起用したスタッフは、後に赤狩りでアメリカを追われヨーロッパで見事に復活を遂げたジュールス・ダッシンと即興のように音楽を場面場面に散りばめたミクロス・ローザら。
800万都市ニューヨークの高級マンションでジーンという美女が溺死体で発見される。浴槽で溺れさせられたらしく、貴重品が紛失していた。マルドゥーン警部補はハロラン新米刑事を連れて捜査に当たる。彼女に睡眠薬を処方したことのあるストーンマンという医師と友人のルースに会って、捜査線上に浮かんできたのはヘンダーソンという謎の初老の男とフランク・ナイルズという大学出の女たらしだった。ひとまずフランク・ナイルズを釈放するが、盗品を売るというボロを出した。しかもフランクはジーンから宝石を奪ったのではなく、ジーンも共犯だったのだ。宝石はストーンマン医師の顧客リストを使って手に入れていた。殺人事件は窃盗団の仲間割れが原因だったのだ。しかしジーンを殺した実行犯はまだ別にいた。
ほぼ全編ニューヨーク・ロケというドキュメンタリー・タッチをふんだんに織り込んだ作品。オスカー俳優バリー・フィッツジェラルド以外はハリウッドでは無名の俳優か素人を起用している。このあたりはイタリアのネオ・レアリズモの影響だろうか。
ただし、ネオ・レアリズモと本格的なクライム・ストーリーを組み合わせたのはイタリアではなくアメリカの方が先だったようだ。ピエトロ・ジェルミの「刑事」(イタリアの名作警察映画)はずいぶん遅く1959年製作だった。
「裸の町」が先鞭を付けて、他の実録風警察映画や、テレビ番組でいうと禁酒法時代にアル・カポネと財務省捜査官エリオット・ネスの対決を描いた「アンタッチャブル」へと続いていった。
日本でもこの映画は1949年に上映されたので、黒澤明の警察映画「野良犬」や市川崑の「暁の追跡」などに直接の影響を与え、さらにテレビ時代に入り「事件記者」、「七人の刑事」、「特別機動捜査隊」にも大きく影響したと考えられる。
それぐらいヘリンジャーとダッシンの製作者・監督のコンビは凄かった。ヘリンジャーの急死は実に残念だ。
この映画を最後に見たのは30年ぐらい前のテレビの深夜映画だったと思う。あのときもあまりカットしていなかった。
今見直しても全く色あせない。ただ主演バリー・フィッツジェラルドは老獪だが解答へ直進する名探偵タイプでなく、案外「主任警部モース」のような試行錯誤型だった。その辺りもリアリティを追求していたのだ。
監督ジュールス・ダッシン
脚色アルバート・マルツ、マルビン・ウォルド
製作マーク・ヘリンジャー
撮影ウィリアム・H・ダニエルズ
音楽ミクロス・ローザ
配役
バリー・フィッツジェラルド(「我が道を往く」でアカデミー助演男優賞)
ハワード・ダフ(ナイルズ)
ドロシー・ハート(ルース)
ドン・テイラー(ハロラン)
テッド・デ・コルシア(ガーザ)
ハウス・ジェームズン(ストーンマン)