パンドロ・S・バーマンが製作した、連邦捜査官が犯罪者の妻との不倫愛と任務の間で大きく揺れ動くフィルム・ノワール。フレデリック・ネーベルの原作を女流脚本家マーゲリット・ロバーツが脚色し、ロバート・Z・レオナードが監督した。音楽はミクロス・ローザ。
主演はロバート・テイラーとエヴァ・ガードナー。共演はチャールズ・ロートン、ヴィンセント・プライスジョン・ホディアクら曲者揃い。白黒スタンダード映画。国内上映は1955年。
あらすじ
アメリカのリグビー捜査官は戦争余剰品横領の容疑者タグ・ヒンテンを追って、中米のリゾート地カルロタ島まで来ていた。しかし嵐の夜にホテルの部屋で容疑者の家宅捜査を行うように地元警察に通報するかどうか迷っていた。
ーーー戦後、オークションに出されるアメリカ軍のスクラップに紛れて航空機エンジンが密輸出されているとの情報が入り、刑事リグビーが隠密捜査官として中米カルロタ島に派遣される。表向きは休暇で海釣りに来たことにするが、地元警察と連携している。行きの飛行機では偶然カーウッドという男と隣り合わせる。ホテルでは真丸男と呼ばれているビーラーを見かけるが、この男もエンジン横領一味の容疑者だ。
容疑者タグ・ヒンデンの周辺を探っていて、クラブ歌手として島で働く妻エリザベスと出会う。リグビーは彼女の美しさに惹かれて、夫タグの留守中に逢瀬を楽しむ。
ある日カーウッドが舞い戻り、時を同じくしてビーラーがリグビーに近付く。男はリグビーの正体を知っており、犯罪を見逃せば1万ドルを与えると言うのだ。翌日カーウッドはリグビーとカジキ釣りに出かける。リグビーは海に突き落とされるが、助けようと飛び込んだ船頭エミリオが代わりにサメに食べられる。船頭の父パブロはエミリオの仇を取りたいと申し出る。
タグが心臓発作で倒れる。この持病のせいでパイロットをクビになり自棄になって犯罪に手を染めたのだ。エリザベスはリグビーと別れ、夫の看病に専念する。翌日タグのボートが出航する。乗っているのは組織のウォーカーだ。リグビーはパブロに後を追わせてエンジンの隠し場所を発見する。ホテルに戻るとビーラーがいてエリザベスも共犯だと告げる。エリザベスの元へ行くと、既にビーラーにリグビーの正体を知らされた彼女はリグビーに冷たい態度を取る。ーーー(回想終)
翌日晴天になったが、リグビーの心は晴れなかった。リグビーはついに地元警察に連絡できなかった。そこへエリザベスが来て、カーウッドの命令でウィスキーに睡眠薬を盛った。リグビーは一口飲んで急に眠ってしまう。一方、カーウッドは足手まといになった病人タグを殺した。リグビーは夕方パブロに助けられ、地元警察に通報しエリザベスの楽屋を訪ねる。そこへビーラーが銃を持ってやって来た。しかし平和主義者のビーラーにリグビーが撃てない。リグビーは銃を奪い、ビーラーからエリザベスは事件に無関係との証言を得た。
ビーラーを味方に付けたリグビーは、カーウッドを誘き出させる。リグビーはカーウッドに警察を辞めたことを告げて、脅しで銃を撃つ。近所は祭りで爆竹が鳴らされているため、誰も気が付かない。慌てたカーウッドは電気を消して部屋から逃げ出し、リグビーが追う。そして群衆の真ん中で銃撃戦が始まり、花火の真ん中に逃げ込んだカーウッドはリグビーを撃つが狙いを外し、ついにカーウッドが倒れる。
ビーラーが二階に隠れていると、誰かが一階にやってくる。ビクビクして階下を覗くとリグビーが無事に帰って来る。「What happened to Karwood? おいおい、カーウッドはどうなった」と尋ねるが、リグビーと出迎えたエリザベスは熱いキッスを重ねている。それを見て事件が解決したことを知ったビーラーは「リグビー、手が空いたら(自首するから)警察を呼んでくれよな」と言って、また二階に引き下がる。(終)
Last lines: “When you get around to it, Mr. Rigby, you might call a cop.”
雑感
1930年代スターのスタイルを守る髭のロバート・テイラーと1950年代を前にブレイク直前の若きエヴァ・ガードナーが出会い不倫愛に悩み、旦那が都合よく犯罪者の仲間割れで始末され、ハッピーエンディングを迎えてしまうラテン・フィルム・ノワール。
1940年映画「哀愁」でビビアン・リーと一斉を風靡したロバート・テイラーは、意外に長く1968年まで俳優生活を続けていた。映画「ロシアの歌」を1944年に作って以来、下院非米活動委員会(赤狩り委員会)に召喚されて転向してしまい、その後は裏切り者扱いされてB級作品出演が多かった。
ヒロインのエバ・ガードナーは女優活動期としては初期にあたるが、この作品の後1年空けて1951年に3本まとめて公開される。その中にはミュージカル映画「ショウ・ボート」のリメイクがあり、彼女は一流スターとしてブレイクする。
スタッフ
監督 ロバート・Z・レオナード
製作 パンドロ・S・バーマン
原作 フレデリック・ネーベル
脚色 マーゲリット・ロバーツ
撮影 ジョセフ・ルッテンバーグ
音楽 ミクロス・ローザ
主題歌 「Situation Wanted(求職広告)」作曲ナシオ・ハーブ・ブラウン 、作詞ウィリアムズ・カッツ、歌エヴァ・ガードナー(吹替アイリーン・ウィルソン)
キャスト
リグビー捜査官(語り手) ロバート・テイラー
歌手エリザベス・ヒンテン エヴァ・ガードナー
小悪党ビーラー チャールズ・ロートン
カーウッド ヴィンセント・プライス
横領犯タグ・ヒンテン ジョン・ホディアク
ウォレン医師 サミュエル・S・ハインズ
上司ギブス ジョン・ホイト
船頭エミリオ・ゴメス ティト・レナルド
父パブロ・ゴメス マーティン・ガララーガ