オール読物に掲載された高原弘吉原作推理小説「あるスカウトの死」を田口耕三が脚色、瑞穂春海が監督したミステリ映画である。
主演は宇津井健
共演は藤由紀子、河野秀武、倉石功、神山繁。白黒映画

あらすじ

ルビーズの信越地区担当スカウト柏木は、イーグルスの名スカウト浜田の娘しず枝に振られて腐っていた。そこへルビーズの左腕のエースが故障したという知らせが入る。スカウト部長は柏木に高校随一の左腕投手菊川を獲得しろと命令した。予算は600万円までだ。
新聞記者を撒いて長野に乗り込んだ柏木に、菊川の高校教諭羽田野は菊川の行方がわからないと言う。その頃、菊川は親族会議を開いてどの球団に入るか決めていたのだ。柏木に菊川の父親からお世話になりますと連絡があった。会ってみると手に包帯をしていたが、犬に噛まれただけだと言う。

翌日、やはり菊川を取ろうとして長野に来ていた浜田スカウトの死を知らされる。浜田は、柏木をプロ野球選手としてイーグルスに誘ってくれった恩人であった。警察は、菊川獲得失敗の責任を取っての自殺と考えた。娘しず枝は、女性への贈り物に使う高級腕時計の領収書を遺留品から発見したことから、事件の裏に女性ありと考えていた。柏木は、しず枝に浜田の死の謎を探ると約束する。

しず枝の元にレントゲン写真が送られてきた。浜田が生前東京の病院で鑑定を依頼したもので、大男の複雑骨折した左腕の写真だった。そんなとき、菊川が消えたと父親から連絡があった。浜田の死に責任を感じて家出したのだ。
急いで行ってみたが菊川はケロリとして帰ってきた。柏木は、心配する羽田野の前で、菊川にピッチングをさせて肩に異常はないことを確かめる。ではあの写真は誰のものか。

新聞記者に連れて行かれた場末のバーで柏木は、浜田の購入した時計と同じものをしているユカリという女を発見した。翌日、柏木としず枝はユカリを訪ねたが、既に彼女は転居していた。しず枝は、ユカリが本当に父を愛していたことを悟った・・・。

雑感

1956年の南海穴吹事件を元にした松竹映画「あなた買います」と同じ、ドラフト制度発足以前のプロ野球スカウトをテーマにした物語。
新人選手の争奪戦に絡んで名スカウトが謎の死を遂げる。その謎を追うのが、他球団のスカウトであるという面白そうなプロットである。
犯人が意外な人物だったのは良かったが、やや動機に無理があったように感じた。その辺りを補強すれば、もっと面白くなっただろう。

試走車、報告書、札束に次ぐ「黒のシリーズ」第四作にあたる。上映当時は、黒のシリーズを「真昼の罠」、「背広の忍者」を含む「サラリーマン・スリラー・シリーズ」と混同していたため、ナンバリングの仕方に混乱が見られて、第七作と呼ぶものもあった。
宇津井健、神山繁、倉石功の「ザ・ガードマン」トリオが揃って出演している。神山繁の演技は実に自然だった。
大映女優陣からは、ヒロイン役の藤由紀子とそれとは対照的なポジションの近藤美恵子が登場する。近藤美恵子はプライドだけ高いが場末のバーに流れ着いた薄幸の女役で、昭和29年ミス・ユニバース日本代表だった彼女らしいと思った。

スタッフ

企画  原田光夫
原作  高原弘吉 
脚色  田口耕三
監督  瑞穂春海
撮影  中川芳久
音楽  池野成

キャスト

柏木茂久(ルビーズのスカウト)  宇津井健
浜田信一(イーグルスのスカウト)  河野秋武
浜田しず枝(浜田の娘)  藤由紀子
菊川浩(新人投手)  倉石功
菊川浩三(父)  春本富士夫
菊川浩助(叔父)  遠藤哲平
羽田野透(教諭)  神山繁
芦沢(新聞記者)  杉田康
女中お芳  村田扶実子
ホステスのユカリ  近藤美恵子
竹村健太郎(高校三年生)  風間圭二郎
祖母そで  浦辺粂子
スカウト部長末松  北原義郎
外科医犬塚  菅井一郎
捜査係長  村上不二夫

***

柏木は、浜田が生前に108mの遠投記緑について語ったのを思い出し、県の体育課で記録を調べてみた。該当したのは、竹村健太郎ただ一人だったが、彼は骨折して三角巾をしていた。健太郎を診断したのは近所の外科医犬塚だった。走り回った柏木は、犬塚が羽田野教諭の叔父であること、羽田野がユカリにご執心だったこと、さらにユカリの弟が竹村健太郎であることを掴んだ。

浜田は健太郎をイーグルスで取ろうとしていた。その一方、ユカリと浜田は愛し合うようになっていた。ところが羽田野もユカリを愛していたため、浜田を恨んだ。そして羽田野は、健太郎のかすり傷を犬塚に偽レントゲン写真を使って誤診させて浜田に諦めさせ、他球団に売りつけようとした。しかし浜田が諦めなかったため、羽田野は母の経営する温泉宿に呼び出し殺害した。柏木の追及に、病魔に冒されていた羽田野は全てを認めて、喀血し果てた。

シーズンが始まって、ルビーズ菊川の先発したイーグルス戦で、リードした9回2死1塁3塁のピンチから初登板の竹村健太郎がリリーフに立ち、後続を見事に抑えた。柏木と一緒に球場で見ていたしず枝は、スカウト柏木の苦労を分かち合う覚悟を決めて、柏木のプロポーズを承知した。

 

 

 

黒の死球 1963 大映東京製作・配給 宇津井健主演「黒のシリーズ」第四弾

投稿ナビゲーション