喜劇王藤山寛美の娘で女優の藤山直美が初主演を果たした、阪本順治監督による犯罪コメディ映画。殺人を犯した女性の逃避行を、人間味とユーモアを織り交ぜて描く作品。
主演藤山直美、共演大楠道代、豊川悦司、佐藤浩市

あらすじ

尼崎のクリーニング店。父が死んで以来、母常子が一人で切り盛りしている。娘が二人おり、妹由香里は東京に出てホステスをしているが、姉正子は裁縫の腕は一流だが、実家に引き篭もりがちで陰気くさい。そんな姉を母は可愛がり、一方妹は姉を疎んじていた。
久しぶりに帰ってきた由香里は正子をいつものようにバカにする。正子は家を飛び出し、気が付けば福知山線から福井県に来ていた。駅から降り立つと雪が降っている。セールスマンらしい男が靴下姿の正子を気にかけて声をかける。その男の面影を真子は忘れられなかった。

母が突然死する。正子はショックで葬儀の日も部屋に引き篭もってしまい、由香里が喪主代理となる。葬式が終わると、リミッタが外れた由香里は正子と大喧嘩する。翌朝になると、額から血を流して由香里が死んでいた。正子が殺してしまったのだ。正子は香典を持って逃亡する。
数日後の1995年1月17日、隠れていた正子を阪神・淡路大震災が襲う。幸い無事で済むが、梅田で水商売風の女から困っているならうちで働かないかと声を掛けられる。

正子は別れた弁天町の父親のもとへ向かう。しかし道が分からず交番にも警官がいない。うとうとしていると運転手風の男にレイプされてしまう。正子は行き着いたラブホテルの社長花田に拾われ、そこで働く。

ある日、警官が回ってきて手配書を置いて行く。てっきり自分のことかと思ったら、地震直後に声を掛けられた女(福田和子)が殺人犯として手配されていた。正子は優しい声を掛けてくれる花田に自転車を乗れるようになりたいと告白する。その夜、花田は正子の自転車の練習に付き合ってくれる。
その後、借金で首が回らなくなった花田が、首を吊って死んでいるのを発見する。警察が到着するのを恐れた正子はホテルから逃亡する。

顔を隠して正子は電車で九州方面に逃げた。車中で雪の福井で話しかけてくれた男、池田と同席する。池田は正子に話しかけてくれる。池田はリストラされて実家に帰ると告げた。別府駅で待っていた妻と子供に出迎えられて池田は降りるが、正子もそこで降りる。そして空き店舗に潜り込んで自殺を図ろうとするが、死に切れず中上律子というクラブのママに助けられた。仕事のない正子はホステスとして働かせてもらう。

ママの弟洋行は元ヤクザだったが、どこか影のある正子を嫌い、ママが同窓会でいない晩に常連客狩山から金をもらって正子を抱かせる。正子は初めこそ嫌がったが、途中から観念する。ところが、ことの最中に妻が殴り込んで来て、亭主を連れ帰る。その夜、明るくはしゃぐ正子を見て、洋行はケジメをつけようと決心する。その後、正子は洋行と駅でばったり出会う。洋行は正子に律子のことを頼むと告げて、姿を消す。

ある日、正子は池田に再会する。正子は再会を喜び、お店へ誘う。酔った池田は正子に自身のことを語り出す。妻には逃げられて、息子と二人で暮らしている、リストラされた会社を恨んで機密データを盗み、会社を脅迫していると自嘲気味に言う。正子は、それでも池田のことが嫌いになれない。
その後、駅前の廃ビルで洋行がヤクザに殺される。現場を見た正子は、警察が事情聴取し始める前に姿を消す。その夜、狩山の経営する映画館に行った正子は泳げないと言って、狩山に平泳ぎを教えてもらう。翌日は、動物園で池田にも正体を明かした上で別れを告げる。

大分県の沖合いにある姫島にフェリーで正子は逃げてきた。やがて海辺の老婆の元に手伝いとして潜り込み、暮らし始める。
姫島では伝統の盆踊りが催されていた。そこに正子を探し出す捜索隊が動き出す。正子は危機を察知して一旦山に隠れるのだが、山狩りが始める気配に思わず逃げ出す。
一人の男が正子の姿を発見する。彼女は浮き輪を抱いて必死に泳いで島から逃げようとしていた。

雑感

2000年度キネマ旬報・日本映画ベスト・テン1位、読者選出日本映画ベスト・テン1位、監督賞、主演女優賞、助演女優賞(大楠道代)、脚本賞、他に各映画賞を受賞したオフビート・コメディ

今の米国化したフランス映画より、北欧映画や東欧映画の風味を持つ不思議な映画だった。国内で絶賛されながら、何故か海外で賞を取らなかった。製作者が国際進出を全く考えておらず、英語翻訳が全く下手で通じなかったのか。そうだとすると、勿体なさ過ぎる。

藤山直美は父親寛美同様に舞台での鋭いツッコミが上手な人だが、まさかのオフビート・コメディでも面白かった。
映画の冒頭は目が死んでいた。それが妹を殺したばかりに、家から逃亡して初めて人との様々な出会いを果たす。そして次第に人間らしさを取り戻していく。しかし性格が明るくなった途端に、警察の追手が迫り、また逃げ出す。そんなときに限って、妹の亡霊が現れ姉を呪う。それでも敢えて逃げ続ける。捕まっても模範囚であれば10年以内に刑務所を出られる程度の刑だと思うが、一度警察から逃げてしまうと、さらに逃げてしまう。

東京スポーツ映画大賞授賞式でビートたけしが言っていたが、藤山直美本来の良さが出るような映画をまた撮って欲しい。
オフビートコメディで抑え気味に演技しているが、やはり藤山直美の地は人目を引いてしまう。男性共演者は問題なく、影が薄くなった。当時飛ぶ鳥を落とす勢いの豊川悦司でさえそうである。同年に豊川悦司は「新・仁義なき戦い」の主役を務めた。

一方、共演の女優陣は出番は少なかったが、皆印象に残った。特に最もベテランの大楠道代は世話好きなママを演じて、映画賞の助演賞を多数受けた。藤山との相性が良かったのだろう。そういえば、1992年前期朝ドラ「おんなは度胸」(脚本橋田壽賀子)で敵役を演ずるが、その時の相方がベテランの園香也子だった。
個人的には福田和子役の内田春菊と、この作品の次に撮った「新・仁義なき戦い」が結局遺作になってしまった早乙女愛が印象深かった。牧瀬里穂はファンだっただけに早々に殺されてショックだった。

 

 

福田和子の起こしたホステス殺人事件とは、公訴時効直前にテレビで警察がキャンペーンを張って、逮捕、起訴した事件で、無期懲役刑が確定した。福田和子自身は2005年刑務所内で病死する。

スタッフ

監督 阪本順治
製作 宮島秀司 、 石川富康 、 寺西厚史 、 中沢敏明 、 椎井友紀子
プロデューサー 椎井友紀子
原案 宇野イサム
脚本 阪本順治 、 宇野イサム
撮影 笠松則通

キャスト

吉村正子  藤山直美
池田彰    佐藤浩市
中上洋行  豊川悦司
中上律子  大楠道代
狩山健太  國村隼
妹吉村由香里  牧瀬里穂
母吉村常子  渡辺美佐子
山本俊郎  十八代目中村勘三郎
花田英一(ラブホテル主人)  岸部一徳
福田和子   内田春菊
狩山の妻咲子  早乙女愛

 

 

 

顔 2000 松竹製作 東京テアトル配給 藤山直美渾身のオフビート・コメディ

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