世界初の外科ホラー映画らしい。超常現象やクリーチャーもの以外にはホラーの語を使いたくないので、SFスリラー外科スリラーと呼びたい。

ヌーヴェルヴァーグの真っ盛りで古典的スリラーに新しい息吹を与えたこの作品と名だたる出演者のみなさんとスタッフには、賞賛の拍手を送りたい。我々にとって1960年のフランス映画≠ヌーヴェルヴァーグという事を改めて教えてくれた映画だ。

 

外科医ジェネシエは自ら起こした交通事故で娘クリスティアーヌの顔面を破壊してしまう。ジェネシエは皮膚移植が必要だと考えて愛人ルイーズに命じて攫って来させた娘の顔面を剥ぎ、自分の娘に移植するが、失敗する。攫った娘も死んでしまい、クリスティアーヌが自殺したように見せかけ葬儀を行い埋葬してしまう。

続いてルイーズはスイス出身のエドナに近付き、仕事があると言ってジェネシエの自宅に誘き寄せ、麻酔を嗅がせて昏倒させる。クリスティアーヌは普段白い仮面をかぶっているが、エドナの顔を見に行き素顔を晒す。エドナが目を覚ますが、クリスティアーヌのあまりの醜さに再び卒倒する。そして移植手術が行われ順調に皮膚はクリスティアーヌに適合する。一方、好きを見つけて逃げ出したエドナは二階の窓から転落して死亡する。ジェネシエは彼女の死体をクリスティアーヌの墓(最初の犠牲者が埋められている)に埋葬する。クリスティアーヌの皮膚も数日経って拒否反応を示し壊死し始めたので、結局全て取り除く。

ある日、クリスティアーヌの元婚約者ジャックのもとに死んだはずのクリスティアーヌらしき女性から電話があった。顔の似た女性の連続失踪事件に頭を悩ませていた警察は、その証言を重視し囮捜査を開始する。医師のいる病院に似た娘ポーリーヌを送り込んで、医師や愛人が食いつくのを待つのだ。その娘は退院と同時に消えてしまった。手術直前、警察から面会申し込みがあったジェネシエは会わざるを得ない。父親の実験台にされたくないクリスティアーヌはルイーズを殺し、娘を解放し、ついでに飼っていた実験用の犬たちも離してやった。手術室に戻ってきたジェネシエを獰猛な犬たちが殺し、顔が跡形も無くなってしまった。やっと自由を得て外の空気が吸えるクリスティアーヌは、森に彷徨いでるのだった。

 

むき出しの真皮を晒していて、思った以上にグロかった。でも仮面を被ったクリスティアーヌが美しく見えるのは不思議。美術が凄いんだろうな。

アリダ・ヴァリ(夏の嵐、第三の男)やジュリエット・メニエル(いとこ同志)ら主演女優級を使う映画とは思えないが、当時の映画界での期待は大きかったのだろうか?もしやこれはA級映画だったのか。

いまどき珍しくない顔面復元手術だが、当時は免疫抑制剤も無かったのだろう。拒絶反応を避けるため、血を抜いて放射線を当てるという無茶が考えられていたらしい?

脚本にはサスペンス作家として有名なボワロー&ナルスジャックが参加している。

横溝正史「犬神家の一族」安部公房「他人の顔」など日本には顔に絡んだ文芸娯楽作品がある。犬神家は昭和26年の作品で、他人は昭和39年の作品だ。小説「犬神家」の佐清がフランス映画に影響を与えていないと思うが、1976年市川崑監督「犬神家の一族」第1作には影響を与えただろう。おそらく安部公房の小説にも顔面移植の発想は影響を与えたに違いない。

映画音楽家モーリス・ジャール初期の作品として知られる。フランス映画だから当然なのだが、アメリカ映画で聴き慣れている彼にしては珍しく静かな作品だ。

監督 ジョルジュ・フランジュ
製作 ピエール・ローラン
原作 ジャン・ルドン
脚本 ボワロー&ナルスジャック 、 ジャン・ルドン 、 クロード・ソーテ
台詞 ピエール・ガスカル
撮影 オイゲン・シュフタン
音楽 モーリス・ジャール

配役
ジェネシエ医師  ピエール・ブラッスール
ルイーズ アリダ・ヴァリ
クリスティアーヌ エディット・スコブ
エドナ  ジュリエット・メニエル
ポーレット  ベアトリス・アルタリバ
ジャック  アレクサンダー・リニョオ

 

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顔のない眼 1960 フランス+イタリア

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