(◎☆)黒澤明監督、初のワイド・スクリーン作品。
戦国時代に、敗軍の侍大将がお姫様と黄金二百貫を持って敵陣を突破して逃亡する。
脚本は菊島隆三・小国英雄・橋本忍・黒澤明の合作で山崎市雄の撮影である。
主演は三船敏郎、千秋実、藤原釜足。
共演は藤田進、上原美佐。白黒映画。
ストーリー
時は戦国、秋月の殿様は山名家と戦って敗れて死ぬ。秋月家の侍大将真壁六郎太は、殿の忘れ形見、雪姫を擁して数名の残党と隠し砦にこもっていた。近くの泉には、軍資金黄金二百貫を隠してあった。
そこに紛れ込んだのが、秋月の雑兵として駆り出された太平と又七であった。山名領から隣国の早川領への逃げ方を二人から教えられた六郎太は、彼らの金に対する強欲さを利用しようと考える。軍資金の黄金を薪の間に挟み、三人で馬に乗せて運ぼうとする。六郎太は雪姫を聾唖者の娘にして、太平・又七とともに砦を出る。出発後、砦に残った秋月の老将長倉和泉たちは、すぐ山名勢に討たれて死ぬ。
山名の関所で、太平と又七は浮き足立つが、六郎太は黄金を一本だけ山中で拾ったと訴え、騒ぎになったその隙に関門から出ていた。宿場に泊まった六郎太は、人買いに買われた秋月の百姓娘を、姫が救ってくれというので馬を手放した代金で買った。
一行は、山道で山名の騎馬武者に発見されてしまう。六郎太だけがわざと捕まり、雪姫たちを逃した。山名の侍大将、田所兵衛が六郎太の前に現れた。二人は、昔馴染みらしい。決闘が開始され、やがて六郎太は兵衛の槍を叩き折った。首を差し出した兵衛に「また会おう」と言って、六郎太は馬にとび乗って去って雪姫たちと合流した・・・。
雑感
久方ぶりの黒澤明監督娯楽時代劇。何度も撮影期間がずれ込んで、田所兵衛役の松本幸四郎(初代松本白鴎)のスケジュールと合わなくて降板となり、非常に残念だった。
この本編を作るにあたって、あまり撮影期間が延長されるので、プロデューサー藤本真澄は責任を取って東宝を辞めるつもりだった。会社としては、黒澤明を翌年東宝から独立させ黒澤プロダクションを作らせることで矛を収めた。結果として興行的に大ヒットした。
スター・ウォーズ第一弾「スターウォーズ4/新たなる希望」を作るときにジョージ・ルーカス監督は、「七人の侍」のアイデアを拝借したことを黒澤明に喋って怒られたそうだが、実はC3POとR2D2の凸凹アイデアやレイヤ姫を連れて逃げる話は「隠し砦の三悪人」の方をパクっている。
雪姫役をはじめはオーディションで選ぼうとした。その中には若林英子や、結局百姓娘役を演じることになった樋口年子も入っていたが、監督のメガネには合わなかった。
そこで今度は東宝社員総出でスカウトに出て、あの徳川義親家に出入りしていた、超絶美人の上原美佐を見つけてきた。ノーメイクは穏やかな顔だが、映画の中では厳しい形相を続けている。演技力はまるで乏しいが、ほとんどを聾唖で過ごしているから、セリフは最小限で良い。戦国のお姫様にはピッタリの人選だった。大映の叶順子と似てるかなと思ったが、現代劇の顔立ちはもっと上品だ。
上原美佐は、徐々に演技力も身につけて2年ほど主役級女優として東宝のスクリーンを賑わせたが、「才能がない」と言ってあっさり辞めてしまった。(好きな俳優に振られたかな?)引退作は加山雄三主演「大学の山賊たち」だった。東宝が彼女とコンビで売り出したのに、一年先輩だが東宝入社が同じ時期ということで水野久美がいる。
スタッフ
製作 藤本真澄
製作、脚本、監督 黒澤明
脚本 菊島隆三、小国英雄、橋本忍
撮影 山崎市雄
音楽 佐藤勝
キャスト
真壁六郎太(秋月家の侍大将) 三船敏郎
太平 千秋実
又七 藤原釜足
雪姫(秋月家の世継ぎ) 上原美佐
娘(秋月領の百姓) 樋口年子
田所兵衛(山名家の武将) 藤田進
長倉和泉(秋月家の老将) 志村喬
秋月家の老女 三好栄子
秋月の郎党 中丸忠雄
人買いのおやじ 上田吉二郎
バクチの男 沢村いき雄
血みどろの落武者 加藤武
秋月の雑兵一 小杉義男
秋月の雑兵二 大村千吉
秋月の雑兵三 中島春男
山名の番卒 三井弘次
橋の関所奉行 小川虎之助
山名の足軽一 中山豊
山名の足軽二 佐藤允
六郎太を捕える足軽一 谷晃
六郎太を捕える足軽二 堺左千夫
峠の関所の番卒一 笈川武夫
峠の関所の番卒二 藤木悠
早川方の騎馬侍 土屋嘉男
***
この辺りの百姓は火祭りの時節だった。火祭りの様子を見ながら、六郎太一行がその行列にまぎれこんで逃げるのを待った。山名勢に気づいた太平と又七が離れようとする。六郎太は、それを押し止め、炎の中に薪を投げこみ、一行は百姓たちとともに踊り狂った。
翌朝、金の延棒を拾いあげていた一行を怪しむ山名の雑兵が、通報した。六郎太や雪姫は捕まり金二百貫を奪われ、太平・又七は逃げた。
山名と早川の国境にある関所の牢に、雪姫と六郎太はいた。そこに兵衛が再び現われた。六郎太に敗れたため、主君に弓杖で打たれて顔に字があった。
雪姫・六郎太・百姓娘の三人は馬にのせられて、黄金を積んだ五頭の馬と共に連行されていた。すると、兵衛が現われ黄金を積んだ馬の尻をなぐりつけ、馬は早川領へ駆け出した。続いて兵衛は六郎太ら三人を縛っていた縄も切った。三人は早川領へ走り去った。さらに兵衛も「裏切り御免」と叫んで後に続いた。
その頃、太平と又七は早川勢に捕まっていた。二人は白洲に呼ばれた。その時は、処刑覚悟で出ていった。
そこには聾唖娘がお姫様の姿をして鎮座ましまし、隣には六郎太が立っていた。どうやら彼女は、冗談抜きに秋月のお姫様だったらしい。姫はこれまでの尽力に礼を言い、二人に金の大判一枚を授けた。