(▲)宝塚学童誘拐事件を通して、犯人とその家族、被害者家族、警察及び報道関係者それぞれの姿を描いたセミ・ドキュメンタリー・タッチの社会派映画。
原作は読売新聞大阪本社社会部による同名ドキュメンタリー。脚本は松田寛夫で、監督は「犬神の悪霊」の伊藤俊也が務めた。
カラー映画で、撮影は「飛鳥へそしてまだ見ぬ子へ」の姫田真佐久で日本アカデミー撮影賞を受賞した。
主演は萩原健一、共演は小柳ルミ子、宅麻伸。客演に三波伸介、伊東四朗。
雑感
読売新聞大阪本社社会部の同名ドキュメンタリーを、読売新聞の関係会社である日本テレビが製作し映画化した。
事件は実話で、1980年に発生した宝塚市学童誘拐事件を描いている。
起用した監督が、何とカルト映画「犬神の悪霊」を撮った伊藤俊也である。
映画から前作のおかげで干されていたので、久々の復帰作である。興行的には思ったほどの成績を上げられなかった。
犯人萩原健一の金が必要だという気持ちと、娘の友だちを殺せないという気持ちがぶつかって追い詰められた怪演が凄かった。
しかし、今となってはもう少し抑えても良かった気もする。被害者側の心情や報道側の心理が記憶に残らない。
犯人の娘役である高橋かおりは当時子役だが、成長して大林宣彦監督「あした」で主人公を演じていた。
小柳ルミ子は、それほど上手だと思わなかったが、日本アカデミー最優秀助演女優賞を受賞した。
宅麻伸は、1978年に本名で天知茂の「江戸川乱歩」シリーズに抜擢され、その後芸名に変えて1984年に本作で映画デビューした。ベテランに囲まれて、まだ棒読みの演技だったため、しごかれたことだろう。
元てんぷくトリオの三波伸介と伊東四朗が共演している。とくに日本テレビの看板番組「笑点」で名司会と言われた三波伸介は、この後急死したため映画としては遺作となった。
キャスト
萩原健一 古屋数男
小柳ルミ子 古屋芳江
高橋かおり(子役) 娘古屋香織
和田求由(子役) 被害者三田村英之
岡本富士太 被害者の父三田村昇
秋吉久美子 被害者の母三田村緋沙子
宅麻伸 若手新聞記者滝耕太郎
三波伸介 大西支局長
藤谷美和子 滝の恋人津島友子
大和田伸也 渡辺キャップ
小倉一郎 字野記者
宮内洋 A社キャップ
永井智雄 吉本編集局長
菅原文太 光宗(新聞社のパイロット)
丹波哲郎 土門社会部長
なべおさみ 宝塚読売新聞直配所々長
伊東四朗 遠藤警部
藤巻潤 服部刑事企画課長
平幹二朗 剣持県警捜査第一課長
賀原夏子 数男の母
池波志乃 田舎の女・庄司のぶ代
湯原昌幸 田舎の友人久保信次
中尾彬 ヤクザ森安泰明
松尾嘉代 ホステス・ハルエ
高沢順子 ホステス・ヒロミ
スタッフ
製作 高岩淡、後藤達彦
企画 天尾完次、高井牧人
プロデューサー 松尾守、瀬戸恒雄
脚本 松田寛夫
監督 伊藤俊也
撮影 姫田真佐久
音楽 菊池俊輔
ストーリー
豊中市の私立小学校一年の少年が、下校途中に誘拐された。犯人は、少年の父で小児科医の三田村に身代金を要求していることが分かった。報道機関は、県警から報道協定の要請を受け入れる。とは言え、協定解除になることを見越して各社は取材活動を活発化していく。
三田村家には遠藤警部以下六名の警察官が入り込み、夫妻と共に電話を待った。武庫川に妻が一人で来るように、と電話があった。川原に学帽とランドセルが置かれていた。それらは、少年のものだった。
日本海への高速自動車道をムスタングが疾走する。ムスタングから男が降りて、公衆電話ボックスに入った。まさに誘拐犯人である。犯人から金銭の要求があったことを聞いて、報道各社は色めき立つが、間もなく県警本部と報道協定が結ばれた・・・。
海沿いの町で犯人=古屋数男は、久しぶりに何も知らぬ母の許に立ち寄る。誘拐された少年はパンと牛乳を与えられ、トランクに閉じ込められていた。内職をしている妻から、「ヤクザから手形の取り立ての催促があった」と電話が掛かってくる。実は、数男の自宅には、可愛い娘がいて少年と仲良しだった。
実家を出た数男は、邪魔になった少年を殺そうとした。しかし、少年におしっこをさせるうちに殺す気も失せてしまった。
その夜に数男は、三田村家に電話を入れ、取り引き場所を指示する。しかし、監視の目を感じた数男は逃げた。
そんな時、少年が悪寒を訴えた。時間がないことを悟った数男は、最後の受渡し場所を三田村家に伝える。三田村夫婦は警察に張り込まぬようにお願いし、レストランの前で待った。しかし、路上には扮装した刑事たちがいた。数男は、今回も避けた。
翌朝、路上に停車している数男が抵抗もせずに逮捕された。トランク内で眠っていた英之は無事保護された。