1956年にリチャード・マシスンが発表したSF小説を自ら脚本を書いて映画化した。次第に体が縮小する奇病にかかった男の悲劇を描く。
子供の頃、テレビ映画劇場で何度かやってるのを見たが、その時は単なるSFかと思っていた。でもとんだ主題が隠されていた。
この作品を町山智浩的に寓話として捉えることも、アメリカ的実存主義として捉えることも可能である。
Synopsis:
スコット・ケアリーはヴァカンスで兄のヨットを借りて妻と海上に停泊していた。そのとき霧のようなものが彼の上を通り過ぎ、雪のようなものを被ってしまった。妻は船室に入っていて無事だった。
元の生活に戻ったスコットはある日、散布されていた農薬を被る。
その日から少しずつ彼の体に異変が起きる。徐々に服のサイズが小さくなって行くのだ。医者へ行くがお手上げとなり、研究機関を紹介される。そこで恐るべき事実を告げられる。体が徐々に縮小して行く奇病に罹っていたのだ。直接の契機は農薬を被ったことだが、以前に被曝したことはないかと聞かれて、海での出来事を思い出す。
90センチぐらいになった頃、特効薬で縮小するのを止めるのに成功して、小人症の女性と仲良くなるが、病気を再発してしまう。
ついには人形サイズになり、妻が目を離したすきに飼い猫に襲われ、地下室に墜落する。命に別状はなかったが、妻と連絡が取れなくなった。声を上げても誰も聞こえない。妻や兄は行方不明になったスコットを探すが、ついには猫に食べられたとして死亡届を出してしまう。
一方、スコットは空腹になり、ネズミ捕りに置いてある囮のケーキを取ろうとしてケーキが下水溝に落ちてしまったり、ホテルがわりにしていたマッチ箱が漏水で水浸しになり、ついには大洪水に襲われた。そのうちに妻も兄の家に移り、誰も来ることのない地下室で一人生きて行くことになる。
ケーキのかけらを見つけたが、蜘蛛の巣が近くにあってなかなか近付けなかった。しかし彼は、今のサイズでしか蜘蛛を倒すことはできないと、勇気を奮い立たせ、人智を振り絞ってついに蜘蛛の急所を突いて殺す。
さらに小さくなったスコットは、境界にある金網も簡単に通り庭に抜け出ることができて、久しぶりに夜空を見る。そして生きることの意味を悟るのだった。
脚本は原作とは途中の描写が違うが、どちらも同じマシスンが書いている。原作の言いたいことと脚本や映画の言いたいことは同じだ。
人間の矮小さはその時の精神状態による。仕事がないときほど、情けなく自分を小さく感ずることない。とくにこの時代は戦争の英雄が、戦後になって住宅ローンを抱えても仕事で業績を上げられず、周りが大きく見えた時代である。すなわち縮小は劣等感の象徴である。最後にスコットが達した心境は、俺は俺、人と比べるなということだ。もちろん過大評価してもいけない。
主役のグラント・ウィリアムスは後半地下室に落ちてからが本領発揮だ。前半の病弱さから打って変わって、ワイルドなマッチョに変身して熱演する。
特撮もかなり精度が上がっている。さすがユニバーサル映画だ。
後半は美術の力がものを言い、周囲の家具類(美術装置)を大きく作って、まるで小人が住んでいるように見せる。
監督 ジャック・アーノルド
製作 アルバート・ザグスミス
原作 リチャード・マシスン
脚本 リチャード・マシスン
撮影 エリス・W・カーター
特殊効果 クリフォード・スタイン
音楽 ジョセフ・ガーシェンソン
出演
グラント・ウィリアムス (スコット・ケアリー)
ランディ・スチュアート (妻ルイーズ)
エイプリル・ケント (見世物小屋の小人クラリス )
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未見の方には、お薦めの作品である。
縮みゆく人間 (The Incredible Shrinking Man)1957 ユニバーサル配給 リチャード・マシスンの傑作SF小説を自ら脚本化