茨城県霞ヶ浦の農民と漁民のたくましさと自然の豊かさを描いた映画。
1957年度キネマ旬報ベストテン邦画第一位
原作、脚色は八木保太郎、監督は今井正
主演は、新人コンビである江原真二郎、中村雅子
共演は、木村功、南原伸二、中原ひとみ、望月優子

イーストマン・カラー。

あらすじ

霞ヶ浦の農家の次男坊である次男は、若者リーダーの漁師仙吉と岸向こうに遊びに行き、古びた農家で働く千代を見て、興味を覚える。
次男は、農家を継ぎたかったが、母や兄から家の田畑を分けることはできないと突き放される。そこで霞ヶ浦の漁業に目を向け、仙吉と友乗りではえ繩を張ってみる。千代の母よねは小作農家だが、それだけでは食えないので、漁にも出ている。ある日、網が絡んだことで、仙吉とトラブルを起こす。

仙吉は親方に帆船を借りて、次男を連れて帆曳き漁を始めた。夜中に船を出し、欲深な仙吉は千代の村との境界線を越えて、ワカサギを乱獲する。
千代の村では、漁場が荒らされるため、男衆が揃って逆杭を打つ。逆杭は、海の中に隠れていて、船が通ると底を突き破って沈没させるものだ。

暑かった夏が過ぎて、ついに秋祭りが始まる。仙吉の妹定子は、次男を愛していた。定子は、この機に次男に言い寄るが、兄は次夫の心には千代がいると暴露してしまう。アイスクリーム売りが定子に、冬は山の工事現場で働くと言うから、親方から仙吉の名で五千円を前借りして、いっしょについて行ってしまう。

よねは、禁止されたさし網を引き上げたところを、夜灯を消して近づいた警察の監視船にみつかり、さし網を没収されてしまう。没収されるときに、逆らうだけでなく、警官の指を噛んだ。そこで、近日中に警察でよねの漁業法違反と傷害罪の取り調べの召喚状が届くことになった・・・。

雑感

この映画は、海外の映画祭に出品されたため、「The Rice People」と言う英題を持っている。しかし内容からすると、「Fish and Rice」の方が良かったのではないか?

今井正監督の名作だ。望月優子にとっては、「もう一つの日本の悲劇」と言ったところだ(1953年松竹映画「日本の悲劇」では、戦後の混乱期に一人親として酌婦として三人の子供を育てるが、子供たちは母を汚れ物のように扱い、家を出て行き、一人になった母は自殺する)。

」という題名を聞いたら、農業映画と思ってしまう。ところが、半漁半農を描いた映画であり、どちらかと言うと漁師の方が多く扱われている。
舞台は、1957年当時の霞ヶ浦だ。茨城県鹿島工業地帯を小学校の社会科で学んだが、その西にある霞ヶ浦はいまだに田舎のままだ。
次男は、文字通り二男坊である。貧困農家で次男は、普通は邪魔者である。彼は外に働きに出ても長続きせず、家に帰ってくる。家にいても、無駄飯食い扱いである。
せっかく霞ヶ浦にいるのだから、先輩の漁師仙吉に頼んで、弟子入りする。この仙吉が帆船を借りて帆引き網漁を始める。帆引き網漁とは帆船で網を引いて魚を捕まえる漁法で、今のトロール漁の前身である。
ところが、霞ヶ浦は広いため、いくつもの市や町村に囲まれ、組合がいくつも分かれていて、争いが絶えなかった。裕福な組合は、直に魚を取り尽くし、隣の組合の領分に入り込んで漁をするため、緊張が高まると逆杭を湖中に打ち込んで船が境界線を越えられないようにした。超えたら、映画のように船はその途端に沈没するわけだ。
実は次男が、現状から脱出して安定を得る方法が、もう一つある。田を持った家に婿養子に入ることだ。長女が大きくなっているが長男が幼くて、働き手の欲しい農家は、養子をもらうことがある。次男にとって、千代は美しい上に千代の父は障害者で弟も幼く、この上ない縁談になるはずだった。ところが、母親が自殺した上に田を地主に返さなければならないとなると、将来の安定性は失われてしまう。二人の運命はいかに・・・。

当時三年目の大部屋住まいだった江原真二郎と新人の中村雅子が、出演者の序列第一位である。しかし、実質的な主役は望月優子である。
実は美人女優の中村雅子こそ、全然似ていないし、年齢が18歳と親子ほど違うが、戸籍上は望月優子の妹だそうである。
望月は、新人の妹に華を持たせたかったのだろう。中村は、東映映画「少年探偵団」シリーズにもマリコ役で出演していた。
さらに驚くべきことがある。中村雅子は、この映画が縁で翌1958年に結婚するが、その相手が21歳違う、父親役を演じた加藤嘉なのだ。加藤嘉は1953年に山田五十鈴と離婚している。彼の新しい義姉は、望月優子ということになる。望月は、複雑な気持ちだったろう(因みに江原真二郎が妹役の中原ひとみと結婚したきっかけは、同年同監督でキネ旬第二位だった「純愛物語」といわれているが、実は「米」の共演がきっかけだった)。

劇団民芸に所属していた望月優子は、1971年の参議院選挙全国区に社会党公認で出馬し、当時のタレント議員ブームに便乗して当選した。その6年後、参議院選挙に落選して、その年に乳がんで亡くなった。享年60歳。

スタッフ

監督:今井正
製作:大川博
企画:マキノ光雄、本田延三郎、吉野誠一
脚本・原作:八木保太郎
撮影:中尾駿一郎
音楽:芥川也寸志
美術:進藤誠吾

キャスト

田村次男:江原真二郎
安田千代:中村雅子
安田よね(千代の母):望月優子
漁師仙吉:木村功
田村よしの(次男の妹):中原ひとみ
定子(仙吉の妹):岡田敏子
田村栄吉(次男の兄):南原伸二
田村とめ子(栄吉の妻):藤里まゆみ
安田竹造(千代の父):加藤嘉
魚問屋の親方:杉狂児
地主太田松之助:山形勲
はえ縄の作造:花沢徳衛
笹浸しの漁夫:織本順吉
田村うめ:原泉
武:梅津栄

***

よねは、地主太田に相談すると、一万円持っていって、政治家に頼んで、間に入ってもらうしかないと言われる。しかし一万円なぞ貸してくれる知り合いはいない。さらに太田は、よねの田畑が良い米を作ることから、返却請求する裁判を起こすと言わい出す。

その後、仙吉の帆船は、逆杭が刺さって沈没し、仙吉は死亡する。次男は、船体に捕まっていたところを千代に救われる。
次男は、しばらく千代の家で看病してもらう。次男は、親方から代金としてもらった一万円を持っていた。
よねは、千代を通じ次男から借りようとしたが、千代は言えなかった。代わりに次男は一万円を千代に残して立去る。よねは、意地になってしまい、一万円をつっ返せと千代に返す。千代は、次男を追っていき、一万円をお互いに相手に押し付けようとする。

政治家に口利きしてもらわない道を選んだよねは、警察に出向く決心を固める。しかし、警察の建物を見るたびに、罪の恐ろしさに怯えてしまい、入れなかった。そして湖岸から、入水自殺する。

秋も深まって来た頃、次男は一張羅を着て、治療のお礼を兼ねて母親と一緒に安田家にご挨拶に伺おうとしていた。
ところが、その日はよねの遺体が上がって、弔いの日だった。
仕方なく、次男と母は、よねの葬列に加わって棺を見送った。

 

 

 

 

 

 

 

米 (The Rice People) 1957 東映東京製作 東映配給 霞ヶ浦の大自然が描かれた映画

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