(☆)獅子文六原作小説を井手俊郎と川島雄三が共同で脚本を書き、川島雄三が監督したた青春ドラマ。
主演は加山雄三、星由里子。二人は共演した若大将シリーズを既に三作撮ってから公開された。
撮影は西垣六郎。105分の白黒映画。
雑感
背景には箱根山戦争と呼ばれる土地争いがあった。
1919年、東急を大株主とする小田急は箱根登山鉄道を開業した。富士屋自動車(バス)と争いはあったが、結局、強羅までのバス路線を富士箱根バスとして独占した。
一方西武は、箱根の別荘地を経営していた。さらに駿豆(すんず)鉄道(現伊豆箱根鉄道)で三島熱海間を運行して、さらに箱根の自動車専用道路も所有していた。
戦後、東急から独立した小田急の安藤社長は、西武とバス路線の相互乗り入れ協定を結んだ。ところが、西武側の駿豆鉄道が独占していたはずの芦ノ湖の観光業に小田急は観光船を導入した。
これに怒った西武はバス相互乗り入れ協定を破棄する。それに対して小田急は新たに箱根ロープウェイを設置して箱根ゴールデンコースを新設する。
結局、小田急と西武は泥沼の法廷闘争に入る。電鉄界の巨頭・東急の五島慶太は小田急の安藤を子分として可愛がっていたため、西武の堤康次郎と仲違いしてしまう。
箱根は元来、箱根町と元箱根が仲違いしていたこともあり、ホテル・旅館も巻き込んだ大きな争いが起きる。
見かねた神奈川県が1961年仲介に入り、バス専用道路を県道として買収することになるが、それでも両者の争いは収まらない。
そのうちに1959年の東急の総帥・五島慶太に続いて、1964年には西武の堤康次郎も亡くなった。同年から運輸省が仲介に立ち、1968年になって東急がバス事業に専念し、小田急と西武は手打ちを行う。
この事件を基にした獅子文六原作の原作小説「箱根山」が果たした役割は大きく、東急と西武が犬猿の仲である事を世に知らしめた。この小説は、バス道路が県によって買収される辺りを描いていたが、争いよりも共存を目指す新しい世代が登場したことを表している。東宝のゴールデンカップルである加山雄三と星由里子の組合せと新しい世代代表にぴったりだったのだ。
この作品は、若大将シリーズ第三弾「日本一の若大将」(1962年7月公開)と第四弾「ハワイの若大将」(1963年7月公開)の間に公開した加山雄三主演映画である。19歳の星由里子のツンデレ振りが相変わらず可愛すぎる。この後1962年11月には、星由里子を主演に起用した東宝映画「河のほとりで」でまた加山雄三とまた共演を果たしている。
キャスト
加山雄三 勝又乙夫
東山千栄子 森川里
藤原釜足 小金井寅吉
北あけみ 茗荷屋フミ子
佐野周二 森川幸右衛門
三宅邦子 森川きよ子
星由里子 森川明日子
東野英治郎 北条一角
有島一郎 塚田肇
森繁久彌 大原泰山
小沢栄太郎 篤川安之丞
上田吉二郎 大浜銀次
中村伸郎 近藤杉八
浜田寅彦 千葉雄次郎
藤田進 唐崎運輸大臣
田島義文 自動車道課長
児玉清 奥野進
塩沢とき お静
西村晃 怒田重造
二瓶正也 植木俊哉
スタッフ
製作 藤本真澄、角田健一郎
原作 獅子文六
脚色 井手俊郎
共同脚色、監督 川島雄三
撮影 西垣六郎
音楽 池野成
あらすじ
箱根は天下の嶮と歌われたが、いまやケンカのケンと歌われている。
足刈地区で隣り合う玉屋と若松屋は遠縁なのに犬猿の仲である。玉屋の老女将である里は89歳だが、大番頭の小金井と新たな温泉で一山掘りあてようとしていたが、経過は芳しくない。
一方、若松屋の主人である幸右衛門は素人考古学にハマっているが、玉屋に対しては親の代から受け継いだ対抗意識を持っている。
しかし、若松屋の一人娘明日子は、玉屋の若番頭乙夫を好いている。身分が違うため、人前で冷たくしているが、郵便ポストを利用して二人は文通していた。
乙夫は戦前にドイツ軍将校と玉屋の女中の間に生まれた子供オットーだが、戦中に父親はドイツに帰国し玉屋に育てられた。そのため、女将に強い忠義を感じているが、同時に若い世代が逼塞した現状を打破しなければならないと思っている。
代議士の大原泰山は、彼に興味を持つ。彼のアイデアを大原から教えてもらった開発業者北条一角は、乙夫を何とかして自分の会社に入れたいと大番頭小金井に働きかける・・・。
ある日、玉屋旧館から火事が出る。明日子は動転した里をいたわった。資金繰りに困った玉屋に北条観光は、乙夫の移籍と交換条件に復興融資を申し入れた。乙夫は、玉屋がこのままでは競争に勝ち抜けないと感じた。
乙夫は、十年間だけ北条観光の社員になることを決意した。そして、十年後には玉屋に戻って、玉屋の経営改革を行うつもりだ。
祭の夜、乙夫と明日子は十年後に結婚することを誓った。二人が夫婦になれば両家のいがみあいは解決する。明日子は、旅館の女将となるように勉強することにした。乙夫が東京へ発った直後に、玉屋の裏庭から熱い温泉が吹き出した。里女将は再びやる気をとりもどし陣頭指揮を執り、一方の若松屋もボーリングをはじめた。二軒の旅館は、今なお競争を続けている。