小島に住む青年の思春期と大人への成長を描いたイタリア映画で、1962年サン・セバスチャン映画祭最優秀映画賞を受賞した。白黒シネスコ映画。
イタリアの女流作家エルザ・モランテの名作小説を新人ダミアーノ・ダミアーニが監督した。製作はカルロ・ポンティで、記憶に残る音楽はカルロ・ルスティケリである。

主演級は16歳の新人ヴァニ・ド・メイグレ、父親役のレジナルド・カーナン(アメリカ人医師だがモデルとしてスカウトされて芸能界入り)、妻役のケイ・マースマン

あらすじ

ナポリ湾にあるプロチーダ島。15歳のアルトゥロはドイツ人の父ヴィルヘルムと二人きりで大きな屋敷に住んでいた。父は金髪が美しくて逞しい海の男であり、仕事に出て何カ月も戻らないことがある。母は生まれたときに亡くなったので、父はアルトゥロの世話を近所に住む知人に見せていた。今回もぶらっと帰って来たかと思うと、すぐ旅立つ。アルトゥロは淋しかったが、そんな父の生き方に憧れを抱き、自分も16歳になったら父と一緒の旅に出ようと心に誓っていた。

突然父がヌンチアータという17歳の花嫁を連れて帰ってきた。アルトゥロは父を奪われた恨みで、彼女に辛く当たってしまう。
何故か父は新妻を残して再び旅に出かける。心細いヌンチアータにはアルトゥロだけが頼りだった。ある日、彼女はヴィルヘルムの子を妊娠したことを告白する。母の死に自責の念を感じるアルトゥロは、身重になった彼女の手伝いをするようになった。

彼女が一人でアルトゥロの弟を生み落とした。アルトゥロのヌンチアータへの想いは恋心に変っていた。しかし彼女は母になるとかえって強くなった。アルトゥロはかまってもらいたくて、薬を飲んで狂言自殺を図る。アルトゥロは一晩中眠ってしまい、ヌンチアータに看病されて回復した。堅いカトリック教育を受けたヌンチアータはアルトゥロの恋慕を知っても男女の関係になろうとしない。ふとアルトゥロはテレサというサーカス上がりの女性と一夜の過ちを犯す。それでもヌンチアータのことが心から離れず、結局テレサを遠ざけた。

 

父が疲れ切った様子で帰って来た。赤ん坊の誕生にも何ら反応を示さない。ある日アルトゥロは外出する父の後を尾けていくと、父は刑務所の裏手に行き囚人のトニーに呼びかける。ところがトニーは父に向かって「パロディ(道化)」と揶揄う。
やがてアルトゥロは16歳の誕生日を迎える。これで父について旅に出かけられる。しかし父は囚人トニーを脱獄させて部屋に匿っていた。アルトゥロがトニーに出て行けと言うと、トニーは父と同性愛関係にあることを仄めかす。あれだけ男らしかった父がトニーの前では女のようだった。アルトゥロはショックだった。父はトニーと喧嘩別れしたようで、頬を打たれて腫らせて帰って来た。
ヌンチアータに言っても父と別れないという。カトリックにとっては愛より結婚なのだ。

その夜アルトゥロは一人で島を出ていった。船に乗り故郷を後にすると、父との思い出もお伽話でしかなかった。しかし義母への愛情だけは消えなかった。

雑感

イタリア人女流作家エルザ・モランテの「禁じられた恋の島」(現在は「アルトゥーロの島」)は世界的な名作小説。彼女の夫だったアルベルト・モラヴィアも「仮面舞踏会」「軽蔑(ゴダールが映画化)」を書いたネオ・リアリスモの大作家だ。ナポリ州のプロチーダ島は実在の小島で、南部サレルノ寄りにある。

日本ヘラルド映画の宣伝マンが付けたようだが「禁じられた〜」という古いタイトルに意味がある。初めはこの映画を青年の筆下ろしものだと思って見ていた。確かにそういうシーンもあったのだが、最後まで見るとここで言う「禁じられた恋」がダブル・ミニングであることが分かる。
一つは息子の義母への禁断の恋、もう一つは元ヒトラー・ユーゲントではないかと思えるほど雄々しい父がホモセクシャルであり、しかもネコ役だったこと。
実は早い段階でそれは示唆されている。この屋敷の所有者がアマルフィ人(ナポリと正反対の地中海に面した観光都市)の出身で夜な夜な男だけの仮面舞踏会を開催していたこと、結婚しないまま亡くなり、血縁のない父に屋敷と果樹園を遺したことだ。さらに最初の妻がアルトゥロを産んですぐ死んだことから、この屋敷にアマルフィ人の呪いが掛かっていると言われていた。おそらく父はアマルフィ人の男娼だったのだろう。

通俗的ではあるが良い作品だ。しかしいささか翻訳が拙い。最後のアルトゥロの告白シーンで「あなた」を文字通り「彼女」と訳している。ドイツ語、イタリア語の二人称敬称が三人称女性形であることを知っていれば意味は明らかだが、かなり不親切だ。またトニーが突然次男坊について語り出すところも、まるで彼に次男がいるように錯覚した。二回目の鑑賞でようやくヴィルヘルムのことを言っているのに気付いた。池澤夏樹に訳させれば、こんなことはなかったろう。

アルトゥーロ役はイタリア人だが、年齢の割に声は太かったからおそらく吹替だ。父ヴィルヘルム役、ヌンチアータ役ともに在欧アメリカ人で、やはり声は吹き替えだろう。三人ともしばらくして映画界から消えてしまう。テレビに移ったのか、引退したのかよく知らない。アルトゥーロは最初の少年らしさと最後の旅立つシーンで顔つきが変わっていた。ヌンチアータは新妻として現れたときと比べると、妊娠したとき顔はふっくらとしていた。ダミアーノ・ダミアーニ監督の細かい指示が行き届いていて、現場の統率も取れていたことが感じられた。

あとは「鉄道員」「わらの男」「刑事」のカルロ・ルスティケリの音楽が青年を見守るようで非常に効果的だ。

スタッフ

製作 カルロ・ポンティ
監督 ダミアーノ・ダミアーニ
脚本 ダミアーノ・ダミアーニ 、 ウーゴ・リベラトーレ 、 エンリコ・リブルチ
原作 エルザ・モランテ
撮影 ロベルト・ジェラルディ
音楽 カルロ・ルスティケリ

 

キャスト

アルトゥーロ    ヴァニ・ド・メイグレ
義母ヌンチアータ   ケイ・マースマン
父ヴィルヘルム    レジナルド・カーナン
受刑者トニノ(トニー)・ステラ    ルイジ・ジュリアーニ
テレサ        ガブリエラ・ジョルジェリ

 

 

 

 

 

禁じられた恋の島 L’Isola di Arturo 1962 イタリア製作 日本ヘラルド1963年国内配給

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