ナチス・ドイツの電撃作戦で占領されたポーランドの首都ワルシャワから脱出する一座の俳優達を描くコメディ映画。いつものルビッチ調と比較すると、ややシリアス色が濃い。
製作はアレクサンダー・コルダ、監督はエルンスト・ルビッチ、脚本はエドウィン・ジャスタス・メイヤー、撮影はルドルフ・マテ担当。
主演はジャック・ベニー(「踊るブロードウェイ」)。共演はキャロル・ロンバード(「特急二十世紀」)、若き日のロバート・スタック(のちに連続テレビドラマ「アンタッチャブル」の主演エリオット・ネス役)。
日本での初公開は1989年6月、もちろんその前からテレビで放送されていた。

あらすじ

1939年のポーランド・ワルシャワ。俳優ヨーゼフとマリアのツラ夫妻は舞台でハムレットとオフェーリアを演じて、連日ヒットしていた。次の出し物としてヒトラーを虚仮にするオリジナル演劇「ゲシュタポ」を企画する。ブロンスキーはヒトラー役だが似ていないと言われて、街を歩くが少女に「ブロンスキーさん、サイン頂戴」と言われる始末。
ある日マリアは若いソビンスキー中尉と浮気している。夫ヨーゼフが「生きるべきか、死ぬべきか(To Be Or Not To Be)」のセリフを語り出す瞬間を、目印にして中尉は堂々と観客席を立って楽屋でマリアとの逢瀬を楽しんでいた。
ポーランドとドイツの関係は悪化し、ドイツに対する配慮から政府は「ゲシュタポ」の上演の中止を申し渡す。
9月1日、ドイツは戦車軍団で国境を破り、あっという間にワルシャワを占領してしまう。それに対してポーランド人レジスタンスはよく抵抗した。
その頃ロンドンにいたソビンスキー中尉は、ワルシャワに帰ったシレツキー教授がナチスのスパイであることを掴み、英国情報部に助けられワルシャワに空挺降下する。ソビンスキーから協力要請を受けたツラとその一座は「ゲシュタポ」の衣裳であるナチスの衣装を着て、シレツキー教授を待ち受ける。しかしシレツキーは抵抗したため、止む無く射殺する。
ヒトラーがポーランドを訪れるチャンスを利用して、ブロンスキーがヒトラーに化けて、ドイツ軍を混乱させて、ポーランドから脱出する計画をたてる。総統専用機を奪った一座は中尉の操縦により、イギリスに逃げ去る。現地でも彼らは大歓迎を受けて、本場で「ハムレット」を公演することを許される。そしてヨーゼフが「生きるべきか死ぬべきか」という台詞を語ったところで、中尉でなく英軍将校が席を立った。

雑感

異常なほどの高評価だ。しかしこの原作はシリアスだし、実態も決してコメディーではない。
実際はポーランド人のレジスタンス及びユダヤ人の多く(映画でもユダヤ人が多く出演していた)は強制収容所へ送り込まれていた。ポーランド国内は決して一枚岩ではなく、親ナチス・ドイツのポーランド人もいて、国内は分断されていた。ナチス・ドイツもこれらのポーランド人を使ってユダヤ人を迫害することによって、ポーランド支配の安定化を図っていた。親ドイツ派は戦時中こそナチスに優遇されたが、戦後は親ソ連派に迫害される。
アメリカを第二次世界大戦に引き摺り込むために、この映画は論点をずらしているのである。

この作品は1941年に撮り終えていたが、日本の真珠湾攻撃によりアメリカが第二次世界大戦に参戦したため、編集と公開が遅れていた。「スクリュー・ボール・コメディーの女王」と呼ばれたキャロル・ロンバードは年が明けた1942年1月にインディアナ州に戦時国債キャンペーンに出かけていたが、ロスに向けて飛行機で帰る途中、ラスベガス近辺で墜落して、母親と共に亡くなる。享年三十三歳。それは大事件であり悲しいかな、お蔵入りも考えられた映画の宣伝になってしまい、大ヒットしてしまった。
当時、彼女の伴侶はクラーク・ゲーブルであった。彼は妻と死に別れた後も二度結婚して離婚して、最期は遺言でキャロルの墓の隣に埋葬された。

ロバート・スタックは戦前からイケメンの低音ボイスで活躍していたが、1942年に海軍に応召され、第二次世界大戦に従軍する。戦後は「風と共に散る」でアカデミー助演男優賞にノミネートされ、連続テレビドラマ「アンタッチャブル」で主役エリオット・ネスを演じてエミー賞受賞。

 

最後に「To Be or Not To Be」というタイトルは、ハムレットの台詞と「ここにいて浮気しないか、ここから立ち去って浮気するか」に引っ掛けている。

スタッフ

製作 アレクサンダー・コルダ
監督 エルンスト・ルビッチ
原作 メルヒャー・レンギエル「ポーランドはまだ失われていない」
脚本 エドウィン・ジャスタス・メイヤー
撮影 ルドルフ・マテ
音楽 ウェルナー・R・ハイマン

キャスト

妻マリア・ツラ キャロル・ロンバード
夫ヨゼフ・ツラ ジャック・ベニー
ソビンスキー中尉 ロバート・スタック
グリーンバーグ フェリックス・ブレサート
ローリッチ ライオネル・アトウィル
シレツキー教授(スパイ) スタンリー・リッジス
アールハルト大尉 シグ・ルーマン
ブロンスキー(偽ヒトラー役) トム・デューガン

生きるべきか死ぬべきか To Be or Not To Be 1942 アレクサンダー・コルダ製作 ユナイテッド配給

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