阪東妻三郎の戦後第一回作品。進駐軍により封建的なチャンバラ映画禁止令が出たので、チャップリンの「キッド」をベースにして進駐軍でも許可の出るように脚本が書かれた。
共演は橘公子、光岡龍三郎、羅門光三郎、阿部九州男ら。七歳の善太を後の津川雅彦が演じている。
あらすじ
東海道大井川金谷の宿に、酒と喧嘩が好きという川越人足・張子の寅八がいた。彼のライバルは馬方の頭分丑五郎だ。彼らは看板娘おときのいる居酒屋浪華家を根城にしていた。街道筋に悪い狐が出るという噂が立ったので、寅八が倒してやると出張った。しかし狐の代わりに赤ン坊を見つけてしまったのである。寅八にとって厄介者だったが、丑五郎に思わず「育ててみせる」と言い切ってしまった手前、引っ込みが付かなくなった。
寅八は赤ん坊を善太と名づける。子供のために酒も喧嘩もやめた。善太が大病になったときは、京の名医を呼んで一命を取りとめてやった。
善太はやがて七つになった。彼は近所のガキ大将になった。ところが大名行列を乱したために善太は本陣に連れて行かれる。これを聞いた寅八は本陣に駆け込み、子供の身代わりになることを懇願した。そのために善太も寅八も許された。
その夜酒の席で、寅八はその場を盛り上げるために「善坊は大名のご落胤」と口走った。ところが翌日になって、善太は大名の妾腹の子である事がわかった。関取賀太野山は善太を気遣って巡業ごとに玩具を持ってきたのだが、彼の口から真実が語られた。
寅八は侍装束の善太と周囲の腰元衆や武士達を見て,哀しくなった。質屋の親爺は「本陣に乗り込んだ時死んでる筈だ、善太のためにもう一度死ね」と言われた。その一言に寅八は泣いた。
かくて善太は江戸におわす父の殿さまに対面するため大井川を渡る。彼のために立派な蓮台(レンダイ)が用意されたが、善太は寅八の肩で渡って行った。
雑感
このまま講談か浪曲になりそうな人情劇だ。
だいぶん前に衛星テレビで見た覚えがあるが、画質が悪かった覚えがある。
この映画を見て、戦後の混乱期でも観客の喜ぶ作品作りをする、当時の映画人に感動した。津川雅彦も亡くなったから、この映画に関わった人はもういなくなってしまっただろう。
スタッフ
原作 谷口善太郎 、 丸根賛太郎
脚本 丸根賛太郎
演出 丸根賛太郎
撮影 石本秀雄
製作 清水龍之介
キャスト
寅八 阪東妻三郎
おとき 橘公子
辰 羅門光三郎
六助 寺島貢
太平 谷讓二
馬方の丑五郎 光岡龍三郎
蜂左衛門 見明凡太朗
賀太野山(関取) 阿部九洲男
甚兵衛 藤川準
久右衛門 水野浩
医者松屋容齋 原健策
笹井正庵 阪東太郎
三歳の善太 原タケシ
七歳の善太 沢村マサヒコ(津川雅彦)