パリで独り住まい、パリ近郊では同棲生活を送る若い女の気ままな恋の行方を描いた失恋映画。
この作品によりヴェネチア国際映画祭で主演女優賞を受賞したパスカル・オジェにとっては遺作となった。
製作はマルガレット・メネゴス、監督・脚本はエリック・ロメール、撮影はレナート・ベルタ、ジャン・ポール・トライユ、ジル・アルノー、美術装飾は主演のパスカル・オジエ自身が担当している。それまでのエリック・ロメールの作品とは違い、ありとあらゆるものが仕込まれた、美しいカラー映画だ。
共演はチェッキー・カリョ、クリスチャン・ヴァディム。
あらすじ
ルイーズとレミは、パリ郊外の閑静な住宅地に建つモダンなアパートに暮らす。彼らは、結婚はしていない。しかし、倦怠期なのか最近喧嘩が絶えない。ルイーズが毎晩夜遅くまで都会で自由を謳歌したいというのに対し、レミは毎朝ジョギングに精を出すスポーツマンだ。レミは、ルイーズの気ままな行動が気になる。
ルイーズがオクターヴ、親友カミーユ、そのルームメイト、マリアンヌとパーティを楽しんでいる際も、レミはルイーズを監視するかのように潜り込んできて、すぐ帰ろうと言い出すのだ。
ルイーズはレミと別れる気はない。しかし郊外の生活も息がつまる。こんな生活に変化をつけるために、パリに残していた自分の部屋をリフォームして、パリの仕事で徹夜する日の住まいにする。
それは言い訳で、パリで彼女はオクターヴら多くのボーイフレンドと夜な夜なデイトを楽しんでいた。作家のオクターヴは、妻子がいるがルイーズにも粉をかけていた。しかしルイーズは友だち以上の感情を持てない。
パリでオクターヴと会っている店にレミがやってきた事があった。ルイーズは思わずトイレに隠れたが、オクターヴによるとルイーズの知り合いと一緒にいたと言う。おそらくカミーユだと推測したルイーズが郊外の家に帰ると、カミーユが現れる。一瞬ルイーズは気色ばむが、誤解だとわかる。レミに関して浮気などする筈がない。
パーティでルイーズはダンスの上手なバスチアンという若者と知り合う。翌日ルイーズはオクターヴの忠告も聞かずバスチアンの誘いに乗ってしまう。その夜、バスチャンとオートバイに乗り、ルイーズの部屋でベッドを共にした・・・。
雑感
テーマは、シャンパーニュ地方の格言「2人の妻を持つ者は心をなくし、2つの家を持つ者は分別をなくす」である。
なかなか面白い、対照的な男と女の物語。
郊外で二人は同棲を開始するが、男は独占欲が強く、女は息が詰まってしまう。そこで11月に職場のあるパリの自室を仮住居として二重生活を始める。それから4か月後の満月の夜に事件は起きる・・・。
タイトルは「満月の夜」には大事件が起きやすく、明るいからみんな遅くまで起きていることを言っている。
男としては、主人公を初めは我儘気ままで嫌な女だと思ったが、最後は気の毒になってしまった。まさか同じ日にお互いに浮気をしていて、しかも彼の浮気相手は○○○○○だったとは。状況証拠がもう一人を指していたのに、主人公はオクターヴの言葉から間違った方向に推理を巡らせてしまったのが、誤解の始まりだった。最もこの二人は何故同棲したのか、わからないほど最初から性格が合わなかった。別れて二人にとって良かったと思う。
舞台は対照的なゴチャゴチャしたパリと、整然と計画的に作られた郊外の街マルヌ・ラ・ヴァレである。パリはルイーズらしい街であり、マルヌはレミらしいスッキリした街だ。しかしどんな街でも同じように満月の夜ならば、事件は起きる。
最初のシーンとラスト・シーンはマルヌ・ラ・ヴァレでの朝方であり設定ではそれぞれ11月と2月のはずだが、空の色からして同時期に撮ったものと思える。
主演は、エキセントリック女優として知られるパスカル・オジェ。いつも目の下に隈をこしらえている印象があったが、この作品のラストでは、いつもよりさらにやつれた様子だった。役に入れ込んでいたんだろう。
エリック・ロメールは基本的に美術監督は使わなかったが、この作品ではパスカル・オジェに美術全般を任せている。おそらく色彩も彼女が設計したのではないか。現代抽象画家モンドリアンの「コンポジション」(垂直と水平な直線で区分けされた領域をそれぞれ白か三原色で塗り分けた抽象画)を使うことなぞ、エリック・ロメールの従来作品では考えられなかったことだ。彼女は劇中の自室も完全な自分好みに設計したのであろう。
パスカル・オジエは映画公開から2ヶ月後、26歳の誕生日を翌日に控えた日に狭心症の発作で亡くなっている。薬物の過剰摂取が原因と考えられている。
スタッフ
製作 マルガレット・メネゴス
監督、脚本 エリック・ロメール
撮影 レナート・ベルタ、ジャン=ポール・トライユ、ジル・アルノー
音楽 エリ&ジャクノ
美術 パスカル・オジエ
衣装 ドロテ・ビス
キャスト
ルイーズ パスカル・オジエ
同棲相手レミ チェッキー・カリョ
友人オクターブ ファブリス・ルキーニ
バスティアン クリスチャン・ヴァディム
カフェで出会う画家 ラズロ・サボ
友人カミーユ ヴィルジニー・テヴネ
子守ティナ リサ・ガルネリ
ルイーズの同僚 マチュー・シフマン
マリアンヌ(カミーユのルームメイト) アンヌ・スヴェリーヌ・リオタール
レミの友人 エルブ・グランサール
***
明け方、起き出した彼女はレミが恋しくなり、始発列車を待つ間、街のカフェに入った。そこで絵本の絵を描いている中年画家と出会う。彼は、ルイーズに話しかけてきた。「満月の夜は誰も眠れないんですよ」。彼としばらく話をした後、彼女は始発でレミの元に帰った。
しかし、そこにレミの姿はなかった。彼は浮気して外泊していたのだ。しばらくして帰ったレミに、ルイーズはお互いに昨日のことは忘れましょうと言う。ところがレミをルイーズに「君よりも好きな女性ができた。マリアンヌだ」と告白する。ルイーズは驚き、泣き出し、パリに戻っていった。