押川春浪が明治時代の1900年に書いた軍事小説「海底軍艦」を基にして関沢新一が脚色、「マタンゴ」の本多猪四郎が監督した1963年の年末特撮映画。特撮監督は円谷英二
主演は高島忠夫、藤山陽子
共演は小泉博、上原謙、田崎潤、小林哲子

あらすじ

カメラマン旗中と助手西部がモデルのリマ子を撮影していると、何者かが突堤から這い上がろうとし、その瞬間タクシーが海に突っ込む。彼らは警察に通報し、伊藤刑事が事件を担当する。タクシーは引き上げられるが、誰も乗っていなかった。
その時モデルにしたくなるような美人を旗中は見つける。光国海運楠見専務の秘書、神宮司真琴だった。ある日、旗中が楠見と真琴の車を尾けていると、楠見と真琴はムー帝国工作員と名乗る、銃を持った男に誘拐されそうになる。しかし旗中の機転で銃を楠見に奪われた謎の男は、海上の潜航艇に逃げていった。実は楠見専務は元帝国海軍技術少将、そして真琴は敗戦の夜に消えた潜水艦長神宮司大佐の一人娘だ。
ムー帝国とは、約一万二千年前に太平洋上に存在した大陸である。日本などを植民地にしていたが、大地震のため海底に沈んだと言われていた。

警察に伊藤刑事気付で、楠見宛でフィルムが届けられた。それによると、「海底に消えたムー帝国は、今なお海底王国として繁栄していて、再び地上に戻り全世界を支配しようとしている。ムー帝国は神宮司大佐が健在であり、強力な潜水戦艦を造っている。上官である楠見が神宮司に対し建艦中止命令を出さない時はムー帝国によって世界は滅ぼされる」と告げている。その後、世界各地で原因不明の大事故が多発する。国連は事態を重くみて海底軍艦の出動を依頼する。

そのころ真琴の後を追う男を逮捕する。彼は旧帝国海軍の天野兵曹で神宮司の指示で真琴をムー帝国の魔手から守っていた。楠見は天野を説得し、真琴、旗中一行と共に神宮司がいると言う南海の孤島に向かう。

久々に会った神宮寺大佐は相変わらずの頑固もので、米中ソの支配する国連の指示に従おうとしない。海底軍艦轟天号の試験運転で空を飛ぶ様を見せられて素晴らしさに驚くが、元上司の懇願にも神宮寺は聞かない。
しかし娘真琴は、時節に対応できない父に苛立ちを隠せない。そんなとき一行に混じって雑誌社記者として潜入したムー帝国工作員により、基地は爆破され真琴と旗中はムー帝国に拉致され、ムー帝国に連れ帰られた真琴と旗中は帝国皇帝から死刑を宣告される。

ムー帝国は、世界各国に最後通告を発する。東京丸の内はマンホールが吹き上がり地面が陥没する。東京湾上に停泊していた船舶は、ムウ帝国の潜水艦の怪光線により炎上する・・・。

雑感

原作は明治時代のSF冒険小説だが、秘密基地で少人数を密かに秘密兵器を開発する事以外はほぼオリジナルなないようになっている。
軍事小説「海底軍艦」は1900年に書かれたため、当時の仮想敵国であるロシア帝国と戦っている。しかし時代に合わないため、ムー帝国という想像上の国家が攻めてくるとした。

怪獣の造形がチープなのは、メインが轟天丸であり海龍マンダではないからだ。さらに当時、円谷英二は立て続けに東宝映画の特撮を担当していて、時間が十分に与えられなかったこともある。それにしても海龍の出来が酷い。ディズニー実写映画(主演カーク・ダグラス)の「海底二万哩」でノーチラス号に絡みついた大ダコと比較してのかなり落ちる。実際にロードショーで見た子供は、ゴジラが出なかったことに不満だったそうだ。

 

しかし円谷英二の描くメカニックという点で見ると、アイデアの宝庫である。
なぜ轟天号は艦首ドリルを設置しているのか?ドリルが男のロマンだからであるw。轟天号が基地からドリルで脱出するシーンは、「ウルトラセブン」最終回で皆が胸を熱くした、マグマライザーのゴース星人基地潜入シーンと同じではないか。
1968年春にフジテレビで始まった「マイティジャック」になると、轟天号のアイデアに英国テレビ人形劇「サンダーバード」の要素を巧みに加えて(パクって)いる。テレビ映画「海底大戦争スティングレイ」(1964)のジェリー・アンダーソンと「海底軍艦」の円谷英二は、海底を舞台にして特撮の技を競い合っていたような気がする。ただし、円谷は何故魚雷でなく、冷線砲を武器にしたのかは不思議だ。

けれども潜水艦に空を飛ばせる衝撃を見たのは日本人だけだろう。このアイデアが、西崎義展原作、松本零士漫画の「宇宙戦艦ヤマト」に再利用されたのは明らかである。

この映画の成功の人的な鍵は、皇帝役の小林哲子である。東宝女優の持たないふてぶてしさと美しさを彼女が合わせ持っていたことが、ムー帝国にリアリティを与えたのだ。彼女は俳優座所属だったが、病弱のため一時引退して結婚出産を経るが、芸能界からのラブコールは抑えがたく、1982年に復帰する。しかし1994年に53歳の若さで肺がんになり惜しまれながら亡くなる。

スタッフ

製作 田中友幸
原作 押川春浪
脚色 関沢新一
監督 本多猪四郎
撮影 小泉一
音楽 伊福部昭
特技監督 円谷英二
特技撮影 有川貞昌、富岡素敬
特技美術 渡辺明
特技照明 岸田九一郎

キャスト

カメラマン旗中進  高島忠夫
神宮司真琴(娘)  藤山陽子
伊藤警視庁刑事  小泉博
光国海運専務楠見(元海軍少将)  上原謙
カメラマン助手西部善人  藤木悠
雑誌記者海野魚人  佐原健二
神宮司海軍大佐  田崎潤
天野兵曹  田島義文
リマコ(モデル)  北あけみ
メモ子  雨宮貞子
防衛庁長官  高田稔
防衛庁幹部A  藤田進
タクシー客進藤(土木技師)  伊藤久哉
タクシー運転手(ムー帝国工作隊23号)  平田昭彦
ムー帝国皇帝  小林哲子
ムー帝国宰相  天本英世

***

このとき海底軍艦が突如、空中に出現する。海底軍艦基地が爆破され、瓦礫に下に埋もれたのだが、先端ドリルで基地に穴をこじ開けて祖国の危急を救いに来たのだ。ムー帝国潜水艦は海中に潜航するが、海底軍艦も潜航して後を追う。

旗中は処刑されるまで、ムー帝国に拉致された土木技師と共に重労働を課せられていた。旗中は作業現場より盗み出した強力な火薬を盾に皇帝本人を人質に取る。
そこに轟天号が到着する。ムー帝国の守護竜マンダを追撃して倒す。脱出者を無事轟天号に収容し、神宮司大佐と真琴はようやく心が通い合う。

捕虜となった皇帝は、神宮司の和平提案を一蹴する。これに対して神宮司は、帝国を破壊すると宣言する。帝国の動力部に侵入した轟天号乗組員と伊藤刑事、旗中からなる挺身隊は、動力源を爆弾によって爆破する。
帝国潜水艦は、轟天号の艦首冷線砲で凍らされ、帝国の大爆発に巻き込まれる。それを見ていた皇帝も、轟天号から海に飛び込んで降りて帝国と運命を共にした。

 

 

 

 

 

 
海底軍艦 1963.12 東宝製作・配給 明治時代の傑作SF文学を映画化

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