(★)ただ只管、知人の家のプールを泳いで、自分の家に帰るだけの映画。
ところが、50年代の強い共和党時代から60年代の民主党が支配するアメリカへの変化や、中高年の人生の悲哀を感じさせるアメリカン・ニューシネマに仕上がっている。
製作はフランク・ペリーとロジャー・ルイス。
ジョン・チーバーの原作短編小説を、エレノア・ペリーが脚色し、夫フランク・ペリーが監督した(一部をシドニー・ポラックが演出)。撮影はTVコマーシャル出身のデイヴィッド・L・クエイド。
主演はバート・ランカスター。全編で海パン一枚でいるが、一カ所だけ脱いでいるシーンがあるため、18禁映画になっている。
共演はジャネット・ランガード、「サイレンサー 待伏部隊」のジャニス・ルール。カラー映画。
製作後、内容の暗さから一旦お蔵入りして2年後の1968年にようやく公開される。日本では、1969年に公開される。
ストーリー
コネチカット州、夏の晴れた日曜日。
ネッド・メリルは水泳パンツだけ履いて、友人ダンの家を訪れた。ダン夫婦は昨晩パーティで騒いだ後で疲れており、ネッドが一緒に泳ごうというネッドの誘いを断る。そこでネッドは、友人の家のプールを順に泳いで家に帰ることを思い付く。
ネッドは次にベティ・グレアムのプールを訪れた。かつてネッドが恋したベティは、夫と一緒にプールを自慢し、プチブル生活に満足していた。
次にネッドはハマー夫人の家に向かう。ハマー夫人は、息子が病気の時ネッドが見舞いに来なかったことを怒っており、ネッドを追い払う(どうやら息子は死んでしまったらしい)。
フーパー家の両親は留守だった。しかし、以前メリル家でベビー・シッターのアルバイトをしていた娘ジュリアンは、ロングヘアーの綺麗な女性に成長していた。泳いでいた彼女は、ネッドと一緒に次のプールを目指すことにした。
二人は野生の馬と駆けっこをしていたが、柵を飛び越えた時にネッドは足に怪我をする。休んでいるネッドに、ジュリアンはコンピューターの相性判断で現在の彼氏を見つけたと話した。さらに痴漢にあったと言うので、ネッドが守ってあげようと言って体を近づけると、彼女は怖がり走って逃げてしまった。
次にハローラン宅に向かった。彼らはヌーディストなので、ねっども全裸になった。ハローランの妻は、金は貸さないわよと言った。ネッドはプールをひと泳ぎしてから早々に引き上げた。
次の家に知り合いはいなかった。奥さんは働きに行ってるそうだ。その代わりケヴィン少年がいた。家のプールは荒れ果て、水一滴も張ってなかった。ネッドは、しょんぼりしているケヴィンと一緒に空のプールに入り、泳ぎ方を教えてやった・・・。
雑感
一見、不条理劇のようである。
彼は既に二年前破産し、一家離散したようだ。なのに、何も知らずにプールを泳いで家に帰ろうとしている?どうやら、ネッドは精神を病んでいるようだ。きっと彼は夢を見ながら、それでも厳しい現実から逃げられないのだろう。
映画の序盤でネッド(バート・ランカスター)は、いつものマッチョ・マンだった。現代と比べてボディ・ビルの技術も進んでいなかったのに、この体を50歳過ぎてキープするのは凄いと思った。
ところが、何度も冷たい水に入って上がり、家に近付くたびに周囲から次第に厳しい言葉を向けられるようになる。以前は、艶福家であり近所の奥さんたちと浮気をしていたが、いつの間にかそんな女も貞淑な妻ぶって彼を馬鹿にした顔で見ている。彼の筋肉に張りが失われ、怪しい「海パンおじさん」と化す。
ますます罵詈雑言が彼に向けられるようになる。家族に関する事柄も語られるようになり、彼は、そんなことを嘘だと叫ぶ・・・。
この映画の製作総指揮は三回もアカデミー作品賞に輝いたサム・スピーゲルだった。彼は1966年の撮影終了段階で出来に満足せずフランク・ペリー監督を下ろして、1967年からシドニー・ポラックに監督を任せた。ポラックには繋ぎのシーンだけでなく、重要人物の配役を変えて取り直させた。ジャニス・ルールもキム・ハンターも、このとき他の女優から代役に入ったのである。そういえば、ジャニス・ルールと一緒にいる時のランカスターが最も老けていたが、実際の時間が経った後だから当然だ。ランカスターは追加フィルム代として一万ドルをポケット・マネーから出したそうだ。
苦労して撮った作品は、2年遅れの公開となり、興行的には成功したといえない。しかし、その後の上映やテレビ放映でカルト映画としての人気を勝ち取った。
バート・ランカスターは、元々アスリートなのだが水だけは苦手だった。そのため、水泳の専属コーチをつけて特訓を受けた。
ランカスターは、自分の惨めな破滅ぶりを描いたこの映画が出演作で最も好きだと言っていた。
女優ジャネット・ランガードは映画二本目の新人だが、演技力はまだまだだった。その後は、テレビ・ドラマで活躍したそうだ。
もう一人のジャニス・ルールも映画はまだ不慣れなのだが、舞台経験が豊富でネッドの昔の恋人役を演じた。(70)
スタッフ
製作総指揮 サム・スピーゲル(クレジット無し)
製作、監督 フランク・ペリー
第二の監督 シドニー・ポラック(クレジット無し)
製作 ロジャー・ルイス
脚本 エレノア・ペリー
原作 ジョン・チーバー
撮影 デイヴィッド・クエイド
音楽 マーヴィン・ハムリッシュ
キャスト
ネッド・メリル バート・ランカスター
ジュリー・フーパー(昔、子守をした娘) ジャネット・ランガード
シャーリー・アボット(愛人だった女優) ジャニス・ルール
ドナルド・ウェスターハージ トニー・ビックリー
ペギー・フォースバー マージ・チャンピオン
ハロラン夫人 ナンシー・カシュナン
***
次のビスワンガー宅は、大勢の客を呼んでバンド演奏を楽しみパーティをしていた。誰もプールに入っていなくて、ネッドは異様な存在だった。主人の妻は、パーティー・クラッシャーが来たわと呟いた。ふと見ると、彼の所有しているはずのワゴンを客に提供するホット・ドッグのカートとして使っている。主人に抗議すると、以前ガレージ・セールで買ったものだと主張した。
ネッドは、かつて親密な仲だったがしばらく会っていない女優シャリー・アボットを訪れた。長年放置しておいて、そのことを詫びもしないネッドに虚仮にされていると感じたシャリーは、彼を追い出した。
ネッドは、市民プールへ行った。入口で50セントと言われるが、ネッドは一文なしだった。通り掛かりの人に物乞いして50セントをもらいやっと入るが、係員はネッドの不潔な裸足を注意し、念入りに消毒させた。プールを泳ぎ切り上がると、知人がたくさんいたが彼らはネッドに貸しがあるようだ。ネッドの妻はお高くとまっているとか、娘二人が新聞沙汰を起こして退学になったとか言うので、居た堪れなくなり崖を上って外に逃げた。
雨が降ってきた。ネッドは、道を渡り家に戻った。娘が遊んでいるはずのテニス・コートは何故か何年も使っていないように荒れ果てていた。
雨が強くなり寒さが増した。いくら自宅の扉を叩いても誰も出てこなかった。家は、既に廃墟だったからだ。