(☆)松本清張の同名小説を沢村勉が脚色し、文芸映画の名人・中村登が監督したメロドラマ。撮影は平瀬静雄

主演は有馬稲子、津川雅彦
共演は桑野みゆき、南原宏治、石浜朗。カラー映画。

ストーリー

某官庁局長の娘・輪香子は、上諏訪で不思議な青年と知り合った。友人の和子と調布にある深大寺(じんだいじ)に出かけた際、再び彼に再会したが、彼は人妻風の女性を連れていた。青年は小野木喬夫と名乗り、東京地検の新人検事だった。

実は、連れの女性は頼子といい、小野木とは一昨年から不倫関係にあった。彼には頼子の方から連絡するので、彼女の身分や住所を一切明かしていない。夫・結城は政治家と業者の間を取り持つブローカーであり、他に何人もの愛人を作り夫婦関係は冷めきっていた。
結城が新潟に出張している間に、頼子と小野木は身延線にある下部温泉まで一泊旅行に出掛ける。しかし、運悪く台風に遭遇し交通が普通のため、二泊することになる。結城家の女中は、頼子の帰宅時の草臥れた様子を怪しく思う。

小野木は、若くして某官庁汚職事件班の担当検事に加えられた。新潟に裏取りのため、小野木は出張した。帰京した小野木と頼子が一緒にいるところを結城の仲間吉岡が目撃した。結城は妻の浮気を疑い、汚職事件で身の回りが騒がしいのにも関わらず、自ら下部温泉まで調べに出かけた。そこで主人から身なりを聞き込み、宿帳に残された小野木の筆跡を写真に撮った・・・。

雑感

波の塔」の原作は、1959年から60年6月まで連載された不倫小説だ。彼は、小説界で不倫ブームが起きていると見るや、自分でも書いてみたのである。
映画化でも、ミステリと縁遠い中村登監督が格調高く描いている。しかし、犯人である結城が妻の浮気を疑い、独自に浮気調査をする際に時刻表を調べたり、自ら足を運んで現地での証言を手に入れるあたりは、「点と線」を思わせるようなシーンだった。

有馬稲子は、公開当時28歳。中村錦之助と交際中で、翌年には結婚しその4年後には離婚する。この映画では、28歳とは思えない熟した人妻ぶりを見せる。
津川雅彦は、当時若干20歳。日活から移籍した2年目で、桑野みゆきと同様に年間十三本の松竹映画に出演する売れっ子だった。特に、不倫ドラマを生涯、得意としていた。しかし、晩年の彼の活躍を知る人間から見ると、若い頃は声が一本調子で低く、個性が薄っぺらい。それ故、30歳から40歳の頃、飽きられてスランプに陥った。中年期以降の彼は、興奮すると声が大きく高くなったが、それと同時に人気が復活した。

 

スタッフ

製作  小松秀雄
原作  松本清張(「女性自身」連載、文化放送ラジオドラマ原作)
脚色  沢村勉
監督  中村登
撮影  平瀬静雄
音楽  鏑木創

 

キャスト

結城庸雄  南原宏治
妻頼子  有馬稲子
小野木喬夫(検事)  津川雅彦
田沢輪香子  桑野みゆき
父隆義(某官庁局長)  二本柳寛
母加奈子  沢村貞子
辺見博(新聞記者)  石浜朗
佐々木和子(輪華子の友人)  峰京子
土井俊介  深見泰三
吉岡五郎(結城の仲間)  佐野浅夫
石井検事  石黒達也
林弁護士  西村晃
元検事正  佐々木孝丸
西岡秀子(結城の愛人)  岸田今日子
クラブのマダム  幾野道子
てる子(結城の愛人)  関千恵子
蝶丸(結城の愛人)  柴田葉子
結城家の女中  平松淑美
「津の川」のおかみ  高橋とよ
柴木一郎(窃盗犯)  佐藤慶

 

***

一方、輪香子も頼子のことが気になり、知人の新聞記者・辺見に調査を頼む。頼子は汚職事件の贈賄側容疑者である結城の妻であった。さらに辺見によると、輪香子の父が収賄側容疑者ということだった。輪香子は呆然自失となった。
吉岡と結城は、ついに逮捕された。家宅捜査のため小野木は結城邸へ向い、ついに頼子と顔を合わせる。
結城の弁護を引き受けた林弁護士は、小野木と頼子の関係を調べ上げた。二人の関係は検察庁のトップにも伝わり、小野木は辞任届を提出する。頼子と待ち合わせた夜、小野木が待てど暮らせど、頼子は現れなかった。
数日が経ち、頼子から小野木に手紙が届く。彼女は、一緒にいると彼が日の目を見る事がないと考えて、死を選び富士の樹海に一人旅立った。

波の塔 1960 松竹製作・配給 松本清張原作不倫小説の映画化

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