(☆)全く関係ない二つの事件が十字路で同時に起きることで犯人が追い詰められる、江戸川乱歩の原作推理小説を渡辺剣次が脚色し、井上梅次が監督、伊藤武夫が撮影を担当した。

主演は三國連太郎、新珠三千代
共演は芦川いづみ、大坂志郎(二役)、三島耕、安部徹、山岡久乃(俳優座)。白黒映画。

ストーリー

伊勢商事社長伊勢省吾は、愛人晴美と密会しているところを嫉妬深い妻友子に発見された。晴美を刺そうとする友子を押さえ込んでいるうちに省吾は、間違って殺してしまう。正当防衛が認められる行為だったが、伊勢は晴海との生活を優先し、殺人隠蔽工作をすることにする。死体は、近く水を引き入れてダムにしてしまう藤瀬の村の井戸に捨てることにした。

商業デザイナーの真下幸彦は、バー「桃色」で恋人芳江の兄で芸術家の良介に「お前なんかに芳江と結婚させない」と怒鳴られたことから喧嘩となる。幸彦になぐられた良介は、一人で「桃色」を出て十字路へ行く。街娼に誘われたが、ちょうど省吾の自動車が停まっていたので、それに乗りこむと同時に脳出血で死んだ。実は省吾は妻の死体をトランクに隠して焦っていたので、事故を起こし、近くの交番で示談にしていた。戻ってみると、知らない死体が増えているため、ギョッとするが警察に届けるわけにも行かず、一緒にダムの底に沈めることを決める。

省吾は、今や廃村になった藤瀬村まで車で行き、ダムの古井戸にしたい二つを捨てた。捨てる直前彼は、白い犬を見つけた。そして友子の靴が片方なくなったのに気付いた。
その頃、晴美は偽装工作のため、伊豆の旅館で友子の振りをして一晩泊まり朝早く起きて、断崖から飛び降りたように見せかけ友子の遺留品を置いて着替え、東京に帰ってきた。

省吾は警察に妻の捜索願を出し、芳江は兄良介の捜索願を提出した。芳江は街で良介に瓜二つの男に出会う。その男は、私立探偵の南と言い、かつては警視庁の鬼刑事だった。南は芳江から良介の話を聞いて安価で捜索しようと契約した。
南は警視庁に行き同期の花田警部に会い、友子と良介が同じ日に失綜したことを知った。更に婚約者幸彦に会い、例の十字路に行くと街娼マリ子に会った。彼女から良介は省吾の自車に乗り込んだことが分かる・・・。

雑感

江戸川乱歩が昭和30年(1955)に発表した不倫に係る倒叙推理小説が原作である。明智小五郎は登場しない。余り猟奇性の薄い小説で、のちに明智小五郎を加えてポプラ社で少年少女向けにリライトもされた。
「犯罪十字路だ」と南が叫ぶシーンがあるが、十字路=四ツ辻で二つの事件がぶつかって完全犯罪に綻びが生じる。

日活としては、石原裕次郎登場以前、すなわち現代ドラマと時代劇中心の時代の作品だ。
ご都合主義の脚本だが、伏線はきちんと押さえてあり、山岡久乃の怪演、大坂志郎の二役(芸術家役とハードボイルドな探偵役)と見どころはある。

新珠三千代にとっては、川島雄三監督の名作映画「洲崎パラダイス 赤信号」の次回作品だった。さらにこの後、「川上哲治物語 背番号16」に出演してアクション中心に活動方針を変える日活を去り、東宝芸能に所属しながら東宝作品を中心に映画やテレビに出演していた。

三國連太郎は、年齢が32歳の時だからまだこの役には早かった。大坂志郎と役を交換しても面白かったと思う。

気になるのは、良介を殴った恋人幸彦の刑罰だろうが、原作のラストシーン(芳江と幸彦が藤瀬ダムでピクニックし、兄のために花束を湖面に撒く)では罪に問われなかったようだ。(66)

スタッフ

製作  柳川武夫
原作  江戸川乱歩
脚色  渡辺剣次
監督  井上梅次
撮影  伊藤武夫
音楽  佐藤務

 

キャスト

伊勢省吾(社長)  三國連太郎
伊勢友子(正妻)  山岡久乃
沖晴美(秘書・愛人)  新珠三千代
相馬良介(売れない画家)/南探偵  大坂志郎(二役)
相馬芳江(相馬の妹)  芦川いづみ
真下幸彦(芳江の婚約者)  三島耕
桃子  藤代鮎子
池田澄子  多摩桂子
花田警部  安部徹
田辺刑事  小林重四郎
田中倉三(藤瀬村の白痴)   四代目澤村國太郎
永田弁護士  山田禅二
マリ子(松葉杖を付く街娼)  東谷暎子
田村和子(家政婦)  福田トヨ
婆や  鈴村益代

 

***

南は藤瀬ダムに謎が隠されていると考え、近隣に行くと、最期まで立ち退かず済んでいた田中というのが白い犬を連れて新宿に流れたと聞く。
そこで話を聞いた南は、友子が履いていたと思われる靴を持って省吾を脅した。実はその靴は偽物だったが、省吾は気付かない。省吾は、南を車で連れ出したが、乱闘の末、殴り殺す。
花田警部もこの二重失踪事件を調べていた。殺人現場であるアパートに置いてあった乳母車に女物の靴が置き去りにされたことを知った花田は、省吾が友子の死体を運び出す際に落としたと推理し、捜査令状を取ると、省吾の自宅内から良介の遺留品である煙草入れまで出てきた。そこで省吾を犯人容疑者として逮捕しようとした。観念した省吾は晴美に電話をかけることの許可をもらい、花田の目をかすめて南の持っていたピストルで自殺をした。電話を受けた晴美も自分のアパートの窓から飛び下りて死んだ。

死の十字路 1955 日活製作・配給 江戸川乱歩原作小説の映画化

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