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「女性の勝利」に次ぐ溝口健二の戦後監督第二作で、邦枝完二の原作小説「歌麿」で依田義賢が脚本を書いた。
白黒映画で撮影は三木滋人
主演は当時の六代目坂東箕助(フグにあたって死んだのちの八代目板東三津五郎)、板東好太郎田中絹代

共演は川崎弘子、飯塚敏子など。

 

 

雑感

戦前から大監督として名を馳せていた溝口健二が戦後になってGHQの検閲で悩んでいた頃の作品。
弟子の一人新藤兼人に言わせると、今までの男性中心で女性が犠牲になる映画脚本がGHQの横やりが入るので使えなくなったし、俳優が応召や田舎に疎開をしていてどこにいるか分からなくて困っていたと言う。
歌麿役の八代目板東三津五郎が絵を描くのを背中越しに絵と一緒に映すシーンがないのは不思議と言われている。カットしたのかな。
三津五郎さんは、踊りに関しては大変厳しい人で、松竹から東宝に移籍した時期に伊藤雄之助の稽古を付けていて怒って蹴ったという。伊藤は自殺寸前まで行ったそうだ。

田中絹代演ずるおきたが歌麿と色恋無しの悪友同士で何かと喧嘩したり手助けし合っていた。この映画の面白いところは、おきたが愛する男が花魁と逃げたら気が狂ったように二人を追い掛けて最後は、おきた自身が二人とも手にかけてしまうのだ。伝統的な演劇なら、おきたは男を殺した後、自殺して無理心中の形にするの。GHQ支配下では、女性は浮気相手も殺してしまうところが新鮮だった。でも、その後このタイプの殺人も多くなった。
五人の女と言うのは、田中絹代のおきた、大原英子演ずる勢之助を愛する雪江、川崎弘子演ずる勢之助を骨抜きにするお蘭、飯塚敏子演ずるおきたに殺される花魁多賀袖、白妙公子演ずる女郎おしんのことだ。田中絹代が偉大すぎて、それに並ぶ四人としてはもの足りない。

板東好太郎は歌舞伎界から映画界に転じて、1930年代に林長二郎、高田浩吉とともに「下賀茂の三羽烏」と並び称された大スター。この映画にも出演している飯塚敏子(花魁の多賀袖役)と結婚していた。息子は、二代目板東吉彌と「鎌倉殿の十三人」で北条時政を演じた坂東彌十郎

映画上映時間は94分。

 

 

キャスト

八代目坂東三津五郎(六代目坂東箕助) 喜多川歌麿
坂東好太郎  小出勢之助
中村正太郎  庄三郎
高松錦之助  蔦屋重三郎
葉山純之輔  山東京伝
堀正夫  十返舎一九
富本民平  竹麿
尾上多見太郎  松平周防守
田中絹代  おきた
大原英子  雪江
川崎弘子  お蘭
飯塚敏子  多賀袖
白妙公子  おしん
草島競子  おまん
松浦築枝  おはん

 

 

スタッフ

製作  絲屋寿雄
原作  邦枝完二
脚色  依田義賢
監督  溝口健二
撮影  三木滋人

 

ストーリー

江戸時代。
狩野家の門弟小出勢之助は、許婚の雪江を連れて版画屋に立ち寄り、歌麿の風刺画を見た。その絵に描かれた言葉を読んで武士を馬鹿にしていると腹を立て、歌麿に対して絵の勝負を申し込む。しかし、歌麿に完膚なきまでに敗れ去り、武士の位を捨てて歌麿の門下に入った。
浅草の水茶屋の女将おきたは、歌麿に描いてもらった絵のおかげで、江戸では有名人である。彼女は、紙問屋のボンクラ息子庄三郎を愛していた。
ある日、庄三郎が花魁の多賀袖と駈落ちしたというニュースが瓦版で報道される。おきたは嫉妬の余り、勢之助に乗り換えようとする。そこに勢之助を恋い慕っている雪江が現れる。するとおきたは、歌麿にあたりはじめる。歌麿は仲裁役に疲れ、絵も荒れ始める・・・。

友人である萬屋重三郎が松平周防守が邸の池で腰元達を半裸にして鯉の捕み取り競争をやらせるという噂を聞きこんだ。萬屋は同じ悪友の十返舎一九、山東京伝と共に歌麿を松平邸に連れて行き、大勢の美女の裸体を拝ませる。歌麿はそこで、腰元お蘭を新たなモデルとして見いだした。

歌麿がお欄をモデルにして「美人鯉取りの図」を書いた。歌麿の以前に書いた絵が将軍を批判している理由で歌麿は奉行所から自宅謹慎の上、手錠五十日の刑を言い渡される。ところが、お蘭をモデルに絵を描いていた勢之助は、恋におちてお蘭と小田原へ駈落ちしてしまう。雪江は歌麿の弟子竹麿とともに小田原に行くが、勢之助の気持ちがお蘭から離れないのを知って江戸へ帰った。
おきたは、庄三郎と多賀袖が佐原にいることを聞いて、早速庄三郎を駕篭に無理矢理乗せて連れ帰る。江戸に戻っても、多賀袖と別れそうにない庄三郎を背後から刺し殺し、多賀袖まで殺す。
お上の刑も解け手錠の解かれた日、歌麿は雪江を抱きしめる。

 

 

 

 

歌麿をめぐる五人の女 1946 松竹京都製作 松竹配給- 溝口健二監督・八代目坂東三津五郎主演の廓話

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