空襲の跡も生々しい戦後の東京で生き別れになった妻子を救おうと命を賭けて戦う元空軍パイロットの姿を描いた反共スパイ映画。
主演ハンフリー・ボガート、共演早川雪洲、フローレンス・マーリー。
監督はスチュアート・ハイスラー、原作はスティーブ・フィッシャー。
白黒映画。
あらすじ
退役軍人ジョー・バレットが戦後初めて日本の土を踏んだ。彼は戦前銀座二丁目でキャバレー「東京ヂョー」を経営していたので、その場所が今どうなっているか確認しに来たのだ。しかし進駐軍本部ダールグレン大佐はジョーが入国してから行動報告を逐一受けていた。
「東京ヂョー」の建物は無事だった。かつての仲間イトーがカンダという男を使って食堂として営業を続けている。懐かしい歌声を聞いて二階へ上がると、外国人収容所で死んだ筈の妻トリーナが歌うレコード「思い出のたね」が掛かっていた。そしてイトーから彼女が中野で生きていると聞かされる。
中野の家に行くとトリーナは確かにいたが、彼女はジョーと戦後、進駐軍の法律顧問ランディスと結婚していた。
ジョーはランディスから妻を取り返すためにイトーを通して元秘密警察長官キムラ男爵に頼る。キムラは航空権(当時日本人には日本の空を飛ぶ権利がなく進駐軍に独占されていた)を利用して韓国(1948年建国)から冷凍カエルの輸入をするのを助けてくれと言う。
進駐軍はジョーの航空権請求に対して返事をなかなかしない。焦ったジョーはキムラの家に行って相談すると、秘密警察時代の書類を取り出して見せる。そしてトリーナに聞けと言う。トリーナに問い質すと収容所で出産したため釈放されたが、娘アーニャを人質に取られて、止むを得ず日本の連合軍向け宣伝放送アナウンサー「東京ローズ」の一員として活動したのだ。アーニャは確かにジョーとトリーナの間に生まれた娘だった。もしキムラが書類を提出したらトリーナは反逆罪で逮捕されてしまう。キムラはランディスを動かして航空権を得よとジョーに命令する。
ランディスを動かして、何とかジョーは航空権を得て輸送会社を立ち上げる。唯一の所有飛行機はC60だ。何回かのフライトを飛んだが、いつも荷は冷凍ガエルだった。ジョーは当然密輸ぐらいはすると思っていたが、あの陰謀家キムラが普通の事をするわけがないと訝しんだ。
ジョーはアーニャの誕生日パーティーに男の子の姿をした市松人形を持って行く。すると子守の日本人がキムラがすぐ来て欲しいという伝言を伝える。
キムラの指示は元日本軍戦闘機乗りのカミカゼを連れて行けという事だった。カミカゼはソウルで謎の男性を同乗させて、日本に密入国させる。
その夜、ランディスは第一生命ビルに入っている進駐軍総司令部のダールグレン大佐から呼び出しを受ける。ランディスはジョーが密入国に関わっていると聞き、昔の雰囲気を取り戻した「東京ヂョー」にやって来る。そこにはトリーナもいて、妻が過去に東京ローズだった事実を知らされる。ランディスは直ちに進駐軍中将に知らせる。ジョーも犯罪に加担した過失罪に問われる可能性はあるが、腹を括る。
進駐軍総司令部での取り調べが終わり、翌日は三人の大物軍人を乗せてソウルから羽田に帰ることになった。情報は連合国スパイであるカミカゼ=鎌倉伯爵が調べて来た。
ソウルへ出発前にキムラが訪れ、ジョーが進駐軍と手を組んだことを掴んでいた。そのうえで娘を預かった、無事三人を連れて帰れば解放すると述べる。ジョーは常に進駐軍と連絡を取り合って飛行していたが、ソウルからの帰りに謎の乗客三人のうちの一人が拳銃を持ってコクピットに現れジョーと操縦を交代して、大熊と言われる横浜の仮滑走路に降りる。
ところが大熊にもMPは集結していて一味は一網打尽になる。憲兵隊では乗客三人を運ぶトラックの運転手とジョーが厳しい取り調べを受け、留置所に打ち込まれる。ダールグレン大佐の一瞬の油断を突き、ジョーは大佐を倒して運転手と脱走する。実はダールグレンとジョーが仕組んだ芝居だった。結局運転手は逃げきれず墜落死するのだが、死ぬ前に「穴蔵」=地下室という言葉を残す。
ジョーはどこかの地下室にキムラが娘アーニャを匿っていると確信し、イトーに尋ねるつもりで「東京ヂョー」へ立ち寄る。ところがイトーは騙された責任を取って切腹しており、隣の廃ビルに地下室があると言って事切れる。
MPとジョーは廃ビルを包囲して、ジョーがまず銃を持ってアーニャ救出のため入ることになった。地下室ではカンダがアーニャを見張っている。真っ暗なので銃撃戦は娘に当たるかもしれない。そこでイトーが腹を掻っ捌いた小刀でカンダと格闘になり、ようやく倒してアーニャを保護した。外に出ようとした時、背後から銃声がする。ジョーが落とした銃を拾ったキムラがジョーに向けて発砲したのだ。銃声を聞いたMPが一斉に入って来た。銃の弾丸が無くなるとキムラは手榴弾を取り出すが、MPの機銃掃射でついに倒れる。
ジョーは背中を何発も撃たれ重体である。それでもトリーナの問いかけに気丈に答えて、今度会ったら一緒になろうと言う。トリーナもええと答える。ジョーの視界がどんどん暗くなる。
雑感
この映画は進駐軍が初めて日本でのロケ撮影を許可した民間映画である。
この映画が生まれる背景を知らなければいけない。当時、日本やドイツを倒した米国にとって反共対策が急務だった。前年の1948年は中華人民共和国、韓国、北朝鮮の建国やベルリン封鎖、東欧の共産化があった年であり、1949年には東西ドイツが成立し日本では下山事件、松川事件、三鷹事件といった国鉄三大陰謀事件が起きる。そして翌年1950年には朝鮮戦争開戦と一挙に米中ソの緊張が高まった。そんな中で、実際に1946年から1949年まで日本の共産主義運動は活発化する。
ソ連と中華人民共和国の存在が日本に労働組合によるゼネストなどいろんな意味で圧力を掛けて、日本の容共勢力を育てようとしているのに対して、アメリカが諜報活動で先手先手を打って日本を自由主義国家のまま残そうと努力している様をこの映画は描いている。
だから多少台詞の妙なところは大目に見て欲しい。
人間関係を見ると、ジョーとトリーナ、ランディスの三人の関係がどうなるかは分からない。ジョーの銃創では生きていたとしても普通の生活に戻れないだろう。つまり性生活を営めなくなるし、一生車椅子生活になるかもしれぬ。それでもジョーはトリーナと再婚しようと言うかな。男だったら身を引く。でも女は介護をしたいと言うかもしれない。
生き残ったナニさん(子守)は可哀想だが処刑されるだろうな。
戦前の国際的大スター早川雪舟は第二次世界大戦中フランスにいて、ヴィシー政権になって映画を撮れなくなってからもパリに残って自由フランス側に着いたから戦後も居住を許されていた。そんな彼を若い頃から早川雪洲に憧れていたハンフリー・ボガートがハリウッドで復活させた。このときも米国の身体検査は厳しかったが、無事検査に合格して共演することができた。ときどき日本語が鈍っていると思うのは、それまで10年間も日本語から離れた生活をしていたからだ。
フローレンス・マーリーはチェコ人だが、フランスに行きオペラ歌手を目指していた。そこをフランス人映画監督ピエール・シュノーに見染められ、女優となり二人は結婚する。第二次世界大戦中にアメリカに逃げて女優活動を続けていた。彼女の故郷は共産圏になったので、この映画の出演に当たって、当局の厳しいチェックを受けさせられた。
前髪は昔のヤクザのように剃り込んでいる。当時の流行はピーカブーだと思うが、全然ちがう個性的なヘアスタイルだ。
なお東京で実際にロケを行っているが、メインキャストはハリウッドのスタジオ撮影だけで、ロケでは後ろ姿の吹替俳優を使っている。東京を背景に顔を出すシーンは背景がボケているようにダビングだ。
ハンフリー・ボガートの吹替怪優は羽田基地を出た後、日比谷にある東京司令官事務所へ行くが、そこを出ると渋谷の大盛堂書店前を輪タクに乗っている。銀座に行くんじゃなかったのか?着いた「東京ヂョー」はどう見ても銀座二丁目とは思えない。一説によると三田辺りらしい。中野は完全にスタジオである。
主題歌「思い出のたね(These Foolish Things)」をフローレンス・マーリーは映画の中で何度か歌っているが、歌手上がりなのだからもちろん吹替なしの地声である。「思い出のたね」は英国で1935年に生まれたスタンダード曲で未だに人々に愛されている。例えばブライアン・フェリーやロッド・スチュアートも歌っている。
ブライアン・フェリーと言えば、1977年にこの映画に因んだ「東京ジョー」と言う曲を作って歌っている。ただのB級映画だと思ったら大間違いだ。
他にも「東京ジョー」は日本人悪役レスラーがしばしば使ったリングネームだ。
スタッフ
監督 スチュアート・ハイスラー
製作 ロバート・ロード
原作 スティーヴ・フィッシャー
脚本 シリル・ヒューム 、 バードラム・ミルハウザー
撮影 チャールズ・ロートン・Jr
音楽 ジョージ・アンシール 、 モリス・W・ストロフ
キャスト
元空軍大佐ジョー・バレット ハンフリー・ボガート
進駐軍法律顧問マーク・ランディス アレクサンダー・ノックス
別れた妻トリーナ フローレンス・マーリー
元秘密警察長官木村男爵 早川雪洲
昔の仲間イトウ テル・シマダ
キャバレー店員カンダ ヒデオ・モリ
カミカゼ(鎌倉権五郎景正) ジーン・ゴンドー
ナニさん(子守) キョウコ・カモ
進駐軍ダールグレン大佐 ライズ・ウィリアムズ
副パイロットのダニー ジェローム・コートランド
副パイロットのアイダホ ゴードン・ジョーンズ
娘アーニャ ローラ・リー・ミッシェル
ウィノウ大尉 ウィット・ビッセル