エルマンノ・オルミが脚本を描いて自ら監督、撮影をした、東ロンバルディアの片田舎に肩寄せ合って生きる分益小作人四家族の一年間の群像劇。
カンヌ映画祭グランプリを受賞した。
出演者は新人俳優や素人ばかり。
主演はルイジ・オルナーギ、共演はフランチェス力・モリッジ、オマール・ブリニョッリ、テレーザ・ブレッシャニーニ、ルチア・ペツォーリ。
あらすじ
19世紀末から20世紀初頭にかけての北イタリア、ミラノの東にあるベルガモの中心部から少し行った村が舞台である。ここの地主は、トウモロコシ畑、小作人住宅、牛豚さらに周辺の樹木まで所有しており、管理人が見回りに来る。小作人の取り分は、収穫高の25%に過ぎない。バティスティの一家は小作人として、他の三家族と軒を並べて住み込んでいた。既に子沢山であったバティスティは息子を学校に行かせると働き手が足りなくなると、神父に相談に行く。しかし、神父は当然に息子の進学を勧める。
隣人のフィナルドは、けちん坊で収穫量を小石でごまかしていた。ルンク未亡人は、洗たく女をしながら6人の子供を養っている。ブレナ家の娘マッダレーナは、働いている紡績工場の若者ステファノを憎からず思っていた。
クリスマスも近い季節にバティスティーナは三人目を妊娠する。夫は医者に頼もうと言うが、妻は近所の女の手を借りて産むつもりだ。
四家族が育てた豚をさばく日が来て、男たちは興奮している。生活に苦しむルンクに、下の子供を二人養子に出さないかと神父が勧める。働きに出ている長男は、上の弟と妹を働かせば十分やっていけると言うので、養子縁組を断る。
ところが作業に使っている牛が病気になり、動けなくなる。獣医は、先は長くないから売るなら今だと行って帰る。困り果てて境界に祈りに行き、そこの湧き水を牛に飲ませると、牛は元気になる。
春になって、フィナルドがぬかるみから金貨を拾う。秘密にしておくために、馬の蹄の中に隠す。ところが馬が金貨を無くしてしまう。フィナルドは、怒って馬と喧嘩をするが、馬には勝てず怪我をして寝込む。
産婆にも掛からず四家族の女達で助け合って、バティスティ家に男の赤ん坊が生まれた。その日、ミネクは学校から帰ってくるが、片方の木靴が割れてしまった。父親は、夜中に地主の所有するポプラの一本を黙って切って、ミネクの木靴を作ってあげた。
週に何回か四家族が集まり、話し合いや雑談をすることがあった。その席では、バティスティの独擅場であり、色々な話をしてみんなを笑わせてくれる・・・。
雑感
3時間映画である。初めの一時間は中年の男がみんなヒゲを生やし黒髪なので、誰が誰かわからず詰まらなかった。
豚をさばくシーンから、目が覚めた。臓物を取り出すシーンは、ぼやかしている。その辺りから面白くなり、最後まで見入ってしまった。
ほとんど職業俳優を使わず、現職の農民を主に使って80年前の農民の姿を再現している。今では農家は機械化されてトラクターも装備しているが、恐らく年長の農民が生まれ育った頃は映画のような感じが残っていたのだろう。その頃を思い出しながら演じたと思われる。
農業映画としては、山本嘉次郎監督、黒澤明脚本、高峰秀子主演の「馬」を思い出す。
イタリア社会主義運動の流れを知らないが、1898年のベルガモは、まだ小作人の解放運動以前だった。それがベルトルッチ監督の映画「1900年」(1976)に繋がっていくのである。映画「1900年」は、同じ時期に地主と小作人に子供が生まれ、友人として成長する過程で道を分かつ物語だ。
ベルトルッチに感化されて、「1900年」以前を描きたいと思って、この映画が生まれたように思える。
因みに、エルマンノ・オルミ監督は日本ではあまり公開されていないが、1988年の名作「聖なる酔っぱらいの伝説」を残している。ベルガモの出身である。
ルチア・ペツォーリは、稀に見る美人だったが、女優としてはほとんど活躍しなかったようだ。
スタッフ
監督、脚本、撮影 エルマンノ・オルミ
音楽 J・S・バッハ
音楽演奏 フェルナンド・ジェルマーニ
美術 エンリコ・トヴァリエリ
衣装デザイン フランチェスカ・ズッケリ
キャスト
バチスチ ルイジ・オルナーギ
妻バチスチーナ フランチェスカ・モリッジ
息子ミネク オマール・ブリニョッリ
地主ドン・カルロ カルメロ・シルヴァ
神父 マリオ・ブリニョッリ
管理人 エミリオ・ペドローニ
ルンク未亡人 テレーザ・ブレッシャニーニ
ペピーノ カルロ・ロータ
祖父アンセルモ ジュゼッペ・ブリニョッリ
バティーナ マリア・グラツィア・カローリ
マダレーナ ルチア・ペツォーリ
婚約者ステファノ フランコ・ピレンガ
フィナード(間抜け親父) バティスタ・トレヴァイニ
ネタばれ
ついにマッダレーナとステファノの結婚式が教会で行われ、ミラノへ二人は新婚旅行に行く。そこは、労働運動が活発でデモ隊が検挙されていた。彼らは、マダレーナの伯母が修道院長であるサンタ・カテリナ修道院を訪ねた。食事を与えられ泊めてもらった二人は、捨てられた赤児を見せられる。育ててくれたら、年2回修道院から養育費を渡すから、どうだろうかと言われて、母と暮らすので赤ん坊を引き取ることにする。
ある朝、ポプラが一本伐られていることを地主が見つけて、管理人に犯人逮捕を命じる。やがてミネクの仕業とわかり、彼の一族は農場を追われることになる。
ルンク家のアンセルモ爺さんが早生トマトをたんまり取ってくると、バティスティ一家が荷車をまとめていた。農民が土地を追放されたら死ねと言われるのと同じことだ。アンセルモは、彼らにかける言葉もなかった。そして、3家族の人々は荷車が去ったあとを見守り、祈った。