戦前のハンガリーで「暗い日曜日」という名曲が生まれた。後にシャンソンになって世界的ヒットになるが、その歌にまつわってハンガリーで起きた悲劇を描くハンガリー劇映画。(内容はフィクション)
主演はエリカ・マロジャン、監督はロルフ・シューベル。
あらすじ
ハンガリーの首都ブダペスト。ユダヤ人サボーの店はイロナがウェイトレスで入ってから、急に人気が上昇する。二人が付き合い出して数年が経ったある日、ピアニストとしてアラディが入ってくる。彼は魅力的なしかし悲しい曲「暗い日曜日」を作曲した。そのメロディに魅せられて、イロナと急接近する。サボーは嫉妬したが、アラディのことも憎めず、不思議な三角関係は続いた。
ハンガリーはドイツと同盟して、平和なブダペストの街にもナチスが進出する。ナチスの幹部は以前サボーに世話になったヴィークだった。しかしナチスの制服を着た彼は別人だった。ユダヤ人に寛大というと聞こえは良いが、金を払うものだけを中立国に送った。
やがて戦況は枢軸国にとって悪くなり、ナチスはハンガリーから脱出する日が近づく。ヴィークはサボーをアウシュビッツに送って、イロナに乱暴する。サボーはアウシュビッツで死に、イロナのお腹には誰が父かわからない子供が。
数十年経って自由化されたブダペストをヴィークが訪れる。サボーの店に立ち寄り、好きだった料理に舌鼓を打つが、急死してしまう。厨房では毒薬の瓶を洗う年老いたイロナの姿があった。
雑感
ハンガリー人とユダヤ人、ドイツ人の物語。映画では2人の男が女シェアするという当時として退廃的な関係を築くが、第三の男がナチスの力を利用してその関係を破壊する。二人の男を死に追いやり、女を力づくで奪うが、数十年経って女によって復讐されてしまう。
ドイツ人は人種意識が強くハンガリー人をただの怠け者だと思っているし、ユダヤ人に至っては宗教上の裏切り者である。ヴィークはユダヤ人を絶滅したいと思わないが、自分の利益にならない人間はどうなってもいいのだ。
曲のために自殺者が増えたという話だが、根拠のないものだ。もともとユダヤ人などはナチスの台頭で厭世観を増していた。そこにたまたまこの曲が流行ったのであって、この曲を聴かなくても自殺者は変わらなかっただろう。
もしこの曲で自殺者が増えたのなら、五輪真弓の「恋人よ」(あるいは中森明菜の「難破船」)でも同じことが起きなければならない。しかしバブル期にそういうことは起きなかった。
スタッフ・キャスト
監督・脚本 ロルフ・シューベル
脚本 ルース・トマ
撮影 エドヴァルド・クオシンスキ
キャスト
エリカ・マロジャーン:ウェイトレスのイロナ・ヴァルナイ
ヨアヒム・クロール:レストランのオーナー、ラズロ・サボー
ステファノ・ディオニジ:ピアニストのアンドラーシュ・アラディ
ベン・ベッカー:ナチスのハンス・ヴィーク