山岳映画で知られたドイツのアーノルド・ファンクと日本の名監督伊丹万作が別々に監督を務めた日本初の国際合作映画。今回は、アーノルド・ファンク監督版を見た。

撮影当時まだ16歳だった原節子が、日本を代表する女優となった作品でもある。
主演は、小杉勇原節子。共演は国際派俳優の早川雪州とドイツ人のルート・エヴェラー
特撮として円谷英二が参加している。日本は東宝日活新興キネマ連合軍であり、映画会社の枠を越えている。白黒映画。

あらすじ

輝雄は八年間のドイツ農業大学への留学を終えて帰朝する。その際、同行した新聞記者ゲルダ女史に日本の名勝旧跡を案内してあげる。

いよいよ東京のホテルで義父と会う。輝雄は、神田家から大和家に養子に迎えられていて、いずれ大和家の長女光子(16)の婿になる約束をしていた。しかし光子が10歳にならない8年も前のことである。ドイツで浮名を挙げて今ではゲルダという美人と旅するうちに、輝雄は、奨学金の代償として縁談を受けたことを今更ながら後悔した。

寛大な義父巌は、輝雄と養子縁組の解消を話し合うも、自分だけでは決められないので、親族会議にかけると言う。実母の体が悪いので代わりに実父耕作と実妹日出子が上京するが、機嫌の悪い輝雄は追い返してしまう。実父は、輝雄が変わってしまったと嘆く。

輝雄は、馴染みにしている和尚様を訪ね、腹を割って相談に乗ってもらう。それで気が晴れたのか、以前の顔に戻り、実家に戻って農作業を手伝うようになった。

そこへ大和家から親族会議の日取りが決まったと知らせがあった。輝雄は慌てて大和家へ車を飛ばしたから、途中でゲルダが帰国の途に着こうとしているのも気付かなかった。

親族会議は、巌が根回しを済ませてくれたようで、養子縁組解消に向けてトントンと話が進んだ。ところが、肝心のゲルダがドイツに去ってしまった。さらに乳母のお幾が、光子が花嫁衣装を持って浅間山に向かった、と告げた・・・。

雑感

この映画は、アーノルド・ファンク伊丹万作の共同監督の予定だった。しかし両監督が衝突してしまい、同じフィルムの束から、それぞれが映画を作ることになった。

そこでドイツから輸入されたアーノルド・ファンク監督版「新しき土」を見た。上映時間(二時間)より短くて(1時間46分)、のちに再編集されたリイシュー版だろう。再編集にファンク監督が関与したかどうかは、わからない。
原題は「侍の娘」である。元士族の大和家の娘光子が、貧農出身で留学帰りの自由主義者になった輝雄の気ままな行動に振り回される様を描いている。当時は、地方の上流階級の子女に、このような封建的な体質はまだ十分残っていただろう。

とは言え、この映画の影響で、日本女性の魅力を海外に発信することはできた。原節子が美しく、いたいけで可愛らしい。彼女の動いてる様子は、撮影当時16歳とはとても思えない落ち着きを感じる。当時の娘は大人になるのが、早かったのだ。海外から見た日本の魅力は、大和撫子ではないのかと思う。

また全く違う個性を持った市川春代が脇役で出ている。トーキーが始まった頃に主演する映画主題歌をレコードに吹き込み、既にアイドル女優的存在だった。
たしかに彼女は、先輩格の田中絹代とそっくりで可愛らしい。これが15年後、きつい顔をして「君の名は」で岸恵子を徹底的にいじめる役になるとは思えない。
その市川が忙しいとは言え、脇役というのは、原節子の抜擢が如何に凄いことだったかを物語っている。

ドイツ女性ゲルダが東京から広島の厳島神社まで旅するシーンは、日本の観光映画の趣がある。
たしかに映像の繋ぎ方が、大阪と広島を混同しているように見えるが、「トンデモ映画」扱いするのは間違いだ。日本国内で完全ロケしているので、中国と日本を混同しているアメリカ映画よりは、ずっとマシだと思う。

それよりも、ゲッペルス宣伝相が言ったように、無駄なカットが多く含まれて、この映画は長い。リイシュー版でも長い。
これは、古いドイツ表現主義の手法で撮影されている。例えば、浅間山の枯木や火山口をダラダラと写すあたりだが、その辺りが、日本人にはわかっていることだから、飽きてしまう。
それでもゲッペルス宣伝相とアドルフ・ヒトラー総統が直接サインして、ドイツ国内で公開したそうだ。山岳映画で有名だったファンクは、戦後になって映画界から離れている。

ちなみに邦題「新しい土」というのは、満州の国土の意味である。辛亥革命で漢民族による中華民国が成立し、清王朝は滅亡した。しかし各地の軍閥が跋扈して内戦状態に入ってしまう。その隙に日本は清朝最後の皇帝溥儀を擁立して「満州国」を設立する。しかし満州国は、地元ヤクザの馬賊が多数いて、日本人の入植地に襲撃を掛け強盗、虐殺などをしていた。そこで日本は関東軍を派遣して、入植者を守ったのだ。最後に輝雄らを守る関東軍兵士の顔のアップで終わるのは、そう言うわけである。諸外国に満州国の存在を認識してもらうことが、この映画の目的だったのだ。

伊丹万作版「新しき土」はまだ見ていない。どこかに現存しているのかな。

 

スタッフ

監督、脚本  アーノルド・ファンク伊丹万作
撮影  リヒャルト・アングスト、上田勇、ワルター・リムル
特撮  円谷英二
美術  吉田謙吉
音楽  山田耕筰
作詞  北原白秋、西條八十

キャスト

大和輝雄  小杉勇
大和光子  原節子
大和巖  早川雪洲
ゲルダ・シュトルム  ルート・エヴェラー
乳母お幾  英百合子
一環和尚  中村吉治
輝雄の実父神田耕作  高木永二
実妹神田日出子  市川春代
実母  常盤操子
ドイツ農業大学での恩師  マックス・ヒンダー

 

***

それには、輝雄は慌てて車を飛ばして浅間山に向かう。途中でパンクしたので、靴も脱いで沼を泳いで浅間山まで近道をする。
さらにそこから登山だ。噴火で熱くなった地面を裸足で歩くことは苦行だったが、光子が心配で苦にならなかった。
光子は打掛を纏って火口から下を覗いていた。輝雄が背中から肩に手を置くと、光子はびっくりした。そして輝雄の血だらけの両脚を見て、二度びっくりした。

それからのことは、よく覚えていない。気がつくと、輝雄が脚の治療をしている横で日本髪をゆった新妻の光子がいた。
神田家に戻った輝雄は、光子と二人の食い扶持が父に負担になっていることを知っていた。
すぐ輝雄と光子は満州に入植した。そこで子供を授かり、関東軍兵士の庇護のもと農作業に勤しんだ。

 

 

 

 

新しき土 Die Tochter des Samurai 1937 独JOスタジオ+日本合作 東和商事国内配給 原節子16歳の作品

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