新東宝が若干のグロを交えながらも、警察ならぬ憲兵隊が活躍するミステリー劇を描いた作品。途中でドキュメンタリータッチを導入したりして、市川崑の演出の真似をしている。探偵が最後まで理詰めで推理するあたり、真面目に探偵映画してるようだ。一見の価値がある作品と言える。
昭和12年(1937)、仙台歩兵第四連隊の飲み水に使っている井戸から女性のバラバラ死体が発見された。仙台憲兵隊は隊のメンツにかけて警察の介入を許さなかったため、捜査は捗らない。そこで憲兵隊本部の命令で東京の小坂曹長と高山伍長が派遣された。小坂はそこで仙台側の非協力的な態度を感じ取り、警察に協力を要請して独自の捜査態勢を作る。最初に上がって来た容疑者は連隊炊事班長だった恒吉軍曹である。当日現場で目撃され、しかも付き合っていた女給が何処かへ消えていた。
しかし小坂曹長は死体が比較的大柄であり、誰もいない深夜の病院で死体を処理すれば目立たないことに気づいていた。さらに一人で担いで長距離を目立たず運ぶことの困難を考えると、何らかの手段を用いたか複数犯と考えていた。
やがて宿に利用させてもらっている小料理屋の手伝い女の息子が陸軍病院で亡くなった。お通夜に行った際、陸軍病院にも井戸があり早速さらわせてみると、果たせるかな、切断された首と四肢が出てきた。そこで連隊から病院に派遣される下士官に的を絞り彼らの部下から当日の行動を探って見た。中でも君塚軍曹が使役人に命じて藁袋に詰められた重たい荷物を病院から連隊に運ばせたことで容疑が強まり、歯型から歯科医の鑑定により被害者は伊藤百合子と特定された。
百合子は県の幹部のお手伝いだったが、退職後横須賀から便りを送っていた。そのお宅へ伺ってみると君塚の実家であり、横須賀から送られた便りは君塚の筆跡だった。
君塚は現在満州の連隊に配属されていたが、脱走したという…。
監督の並木鏡太郎は戦前からの長いキャリアを持って新東宝に渡り着いた人だ。堅実な演出が光った。原作者の名前は小坂慶助という。もしかしたらこの作品は小坂氏が捜査した実録ものかもしれない。
俳優では、主演の中山昭二(ウルトラ警備隊長)が正義を通す憲兵を演じて格好いい。たしかウルトラセブンにも私服捜査をするエピソードがあったはずだ。悪役よりも人情溢れる刑事課長役の方が似合っていたと思う。コバンザメのようにくっ付いている部下鮎川浩もいい味を出していた。
一方、仙台憲兵隊でのライバルを演じた細川俊夫、組織内悪役なんだけどあまり目立ってなかった。
また元炊事課長で第一容疑者を演じた天知茂は完全格下の役だったが、憲兵隊シリーズ次回作で名匠中川信夫がメガホンを取るとバッチリ悪役兼主役を演じ、中山昭二相手に打ち合った。
スマートな犯人役を演じた江見渉は、その後江見俊太郎と改名してテレビ時代劇の悪役専門俳優となった。
殺された三重明子は美人だった。もう少し生かして欲しかった。
女性ではセクシー女優・若杉嘉津子がおそらく実生活で離婚する前だと思うが、小坂曹長が宿に使っている小料理屋の女将を演じている。仙台の古狸馬渡刑事の奸計で小坂と結婚するだろう。
監督 並木鏡太郎
原作 小坂慶助
脚色 杉本彰
撮影 山中晋
音楽 米山正夫
キャスト
小坂徳助 中山昭二
高山忠吉 鮎川浩
萩山憲兵曹長 細川俊夫
君塚八太郎 江見渉
恒吉軍曹 天知茂
守谷刑事部長 岬洋二
馬渡老刑事 久保春二
加島喜代子 若杉嘉津子
加島しの 江畑絢子
伊藤百合子 三重明子
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この作品はほとんど大蔵貢に口を挟ませていないのだ。夏の納涼映画だったから多少の幽霊シーンはあったが、捜査に執念を傾けるあまりに妄想が見えた程度だから、それほどグロではない。健全で男性的な新東宝映画である。
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