池広一夫監督の痛快時代劇。市川雷蔵お得意の捻りのあるコメディだ。
江戸時代の仙台藩を舞台に美しい女房に頭の上がらぬ亭主が一念発起して江戸へ修行の旅に出るが、、、
瑳峨三智子が妖艶な妻役で出演、他に稲葉義雄、藤原釜足など。

あらすじ

仙台伊達藩62万石の領主伊達忠宗は将軍の娘和子を嫁に貰ってしまい、奥方に頭が上らない。藩の剣法指南役井伊直人は天守閣でサボって昼寝する昼行灯だが、夜は城下の飲屋へ忠宗を連れ出して慰めていた。家老の伊達将監は何とかして井伊の怠心を懲らしめようと思っていたが、井伊はなかなか隙を見せない。
ところが、将監の娘で仙台小町と名高い定という娘が、井伊のところに押しかけ女房にやって来た。定は婚礼の晩に井伊に試合を所望する。忠宗夫妻立合いの下に直人と定は一戦を交えるが、女相手に力の入らない直人は定にやられてしまう。愕然とした井伊は用人の左内を連れて江戸へ修行に出る。わずか半年で仙台に帰国したが、またも定にやられ江戸に逆もどりする。
ところが江戸留守居役戸田帯刀にお供して料亭へ行った井伊は、君竜という芸者をみて定と瓜二つだったので驚く。井伊は早速国許に急行して君竜が定本人でないか確かめる。仙台の道場では薙刀師範の定が弟子たちをしごいていた。当てが外れた井伊はすぐ江戸へ逆戻りする。
ある夜、君竜と二人で料理屋からの帰途、数人の浪人者に襲われた。君竜は帯刀に助けられたが、井伊は一人で殆どの敵を斬ってしまった。その後、何を思ったか井伊は柳生道場へ住み込んで修行三昧になる。
数年して井伊は青葉城に戻り、早々に井伊と定の御前試合が行われていた。井伊は気迫だけで定を破った。自分の心の弱さ(影)を斬ったのだ。その夜初夜を迎えた直人は、君竜が定であることを見抜いていたと明かす。定は愛しているが故に直人の素行を改めさせようと、成敗覚悟で父とともに仕組んだ芝居だった。藩主忠宗の寝室でも奥方様が、日頃の行状を深く反省した。
これで伊達藩も安泰である。翌日、天守閣では昨晩精を使い果たしたのか、忠宗と井伊がいびきを立てている。見張っていた将監も天守閣へ登る階段したで、寝てしまう。

雑感

濡れ髪シリーズの後を受けたコメディ時代劇作品。
捻りはあるが、他には特に何もない。脇に回る役者も藤原釜足以外は目立っていない。そこが濡れ髪シリーズと違い、物足りない点だ。
主役以上に重要な一人二役を演じた瑳峨三智子は芸者役はともかく、少なくとも妻女役のような堅物役には向かず適役でなかった。もし彼女を生かしたければ、芸者を演じている時間をずっと長くするべきだった。(もしや若尾文子が土壇場で降りたんじゃないかと思えて仕方が無い)
大映は早くから若い時代劇女優を育てるべきだった。前年にやっと藤村志保がデビューする。

瑳峨三智子も自分の役柄でないとわかっていたろうに、どうして引き受けたのかな。東映に入社してもロクに出演させず、他社にレンタルされる女優であり、その後松竹に移籍してもやはり同じことを繰り返していた。松竹の次世代を背負うホープだった森美樹がガス自殺したのも、彼女と付き合っていた時だった。
ただしその妖艶さは母山田五十鈴にも劣るところがない凄さで、登場するなり観客の視線を集める存在だった。

スタッフ

企画 財前定生
脚本 小国英雄
監督 池広一夫
撮影 武田千吉郎
音楽 齋藤一郎

キャスト

井伊直人 市川雷蔵
定  瑳峨三智子
和子 坪内ミキ子
伊達忠宗 成田純一郎
伊達将監 稲葉義男
小野伊織 松本錦四郎
戸田帯刀 小林勝彦
笠原左内 藤原釜足
川上平馬 大辻伺郎
村上軍十郎 千葉敏郎
伊逢安房 荒木忍
多田頼母 山路義人

影を斬る 1963 大映製作・配給

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