1975年12月10日に公訴時効を迎える三億円事件を時効直前の11月22日に公開した映画。既に時効を迎えた後についての描写がある。
清水一行の原作を石井輝男が映画化した。主演は岡田裕介、小川真由美。犯人を追い詰めるベテラン刑事役に金子信雄。
あらすじ
西原は証券会社で横領事件を起こしクビになり、困っているところを五歳年上のホステス孝子に救われた。鑑札も持たず犬のブリーダーをやっていたが、週末は東京競馬場に入り浸りで結局孝子の家財まで借金の形に取られてしまう。そんな極貧生活から抜け出すために西原は3億円強奪計画について孝子に打ち明けて、数ヶ月で必要なものを取り揃え、計画を進めて行く。
そして12月10日、警官に西原は変装して東芝府中の12月賞与全額を強奪する計画を実行に移す。被害者の日本信託銀行が警察に届けを出すのにもたつくうちに、西原と孝子は車を乗り換え故郷の山梨まで行き、先祖の墓の盗んだ現金を隠す。そしてアパートを引っ越し、公訴時効までの7年間大人しくしているつもりだった。
ところがベテランの葛木刑事が捜査本部に加入して以来、葛木の周囲を嗅ぎ回るようになった。幸い現金は孝子が部屋に持ち込んでいたので無事だったが、早速足が付きやすい500円札と給料袋を焼却炉で焼き捨て、すぐ引っ越す。
そして西原たちは捜査圏外に逃れたと思った。時効期限が近づいたある日、西原は孝子に無断でアメリカ三冠馬ペガサスの種牡馬としての株を買う。自分たちの名義を出せないため、知人に名義を貸してもらうが、葛木は見逃さなかった。ついに西原を別件で逮捕し、追い詰める。さらにペガサスが予後不良となるが、新聞を見せても西原は信じず、最後まで否認を続ける。
結局時効は完成して西原は釈放され、強引な捜査手法を批判され葛木は警察に辞任届を出す。孝子は西原を迎えに行くが、やっと釈放された喜びに溢れる西原と比べて、ペガサスを失い殆どの金を失ったことを知っている孝子はとても喜びはできなかった。
雑感
金子信雄は平塚八兵衛をモデルにした刑事役。ただし平塚八兵衛は単独犯説だったし、時効より9ヶ月前に退官している。
映画の冒頭インタビューで、府中だから競馬マニアの単独犯行説を打っていた、警視庁捜査一課の名刑事平塚八兵衛は、そもそも1969年に警視庁が「三億円別件逮捕事件」を起こした際に容疑者Aについて毎日新聞にリークしてしまい、結局犯人でなかったAを自殺に追いやってしまったし、単独犯行説にこだわり過ぎて捜査をかえって混乱させてしまった。だからこの事件についてどうこう述べる資格はないのだ。
制作当時、清水一行の原作は未完成であった。そこで石井輝雄監督と岡田社長父子は相談して、敢えて時効前に無能な警察を嘲笑うような映画を撮った。
制作陣は平塚八兵衛の競馬マニア説を土台にして、しかも単独犯ではなく複数犯と推理して、最後まで捜査線上に上がっていた容疑者をミックスした形の解決を提示した。
「宇宙からのメッセージ」「北京原人 Who are you?」などの「とんでも映画」の制作を連発しながら東映社長さらにグループ総帥になる岡田裕介演ずる西原が、映画の最後の方で「犯人はあれほどの計画をやり通した男だ。馬を買ったりするような頓馬じゃないと思うよ」と言う。実際は三億円を馬ですったことになりマジで頓馬な男だったのだが、その時はまだそのことに気付いていない。それを知るのは映画が終わった後なのだ。
個人的にはこの映画の推理は間違っていると思う。しかし正解だと思っていた一橋文哉(毎日新聞OB)の説も今では怪しい。ただ初動捜査のミスにより犯人に現金を米軍基地に隠されてしまったため、公安マターとなり警視庁がやる気をなくして迷走したことだけは正しそうだ。
併映は小沢茂弘監督で千葉治郎が開祖植芝盛平を演じて初主演し兄真一も空手家として共演した「激突!合気道」。1975年の千葉真一は「少林寺拳法」に始まり、得意の極真拳シリーズを開始し、最後は弟に花を持たせ合気道で一年を締めくくった。
スタッフ
企画 太田浩児 、 坂上順
原作 清水一行
脚本 小野竜之助 、 石井輝男
監督 石井輝男
撮影 出先哲也
音楽 鏑木創
キャスト
西原房夫 岡田裕介
向田孝子 小川真由美
葛木刑事 金子信雄
未亡人久住みどり 絵沢萠子
葛木の同僚青野刑事 滝沢双
初代捜査一課長 田島義文
最後の捜査一課長 近藤宏
二代目捜査一課長 河合絃司
日本信託銀行国分寺支店長代理 中田博久
関谷運転手 横山繁
証券会社人事課長 南廣
競馬評論家遠山 田中邦衛