(☆)瀬戸内寂聴が、出家前の晴美時代に作家の小田仁二郎、実業家の小川文明との恋愛経験に基づいて描き、ミリオン・セラーになった同名短編集を、映画化した不倫映画。
宇治田隆史が脚本を書いて、熊切和嘉が監督した。
主演は満島ひかり。
共演は小林薫、綾野剛。
ストーリー
(回想シーンで知子の過去が明らかになるが、あらすじでは時系列通りに表示する)
昭和20年代中頃、知子は見合い結婚し一人娘を儲けていた。知人の選挙活動中に、手伝っていた知子は夫の教え子涼太と知り合う。涼太への愛に目覚めた知子は、夫と娘を捨てて上京する。涼太は安定した収入を得られず、知子と結婚することはなかった。
今では知子は染色家として認められ、鎌倉で一軒家を借りて暮らしている。8年前に木下と別れ、売れない作家の小杉慎吾と付き合っている。とは言え、小杉とは不倫関係であり、知子は妻公認の愛人である。小杉は、知子の家に何泊かすると本宅(小杉裁縫研究所)を帰り、じきに知子の許に戻ってくる。
昭和30年代の東京。知子宅で小杉が留守番をしていた。そこへ、木下涼太が訪ねてきたがすぐ帰ってしまう。知子が戻ってから、慎吾は知子に木下が来たことを言うと、「いいじゃない、昔のことよ」と答えた。
知子は年末に風邪をひいて寝込む。小杉はそれでも正月は本宅に戻る。知子は心細くなる。正月に木下から電話があった。知子は寂しいからと言って、木下を家に呼ぶ。
小杉が戻ってきた時、知子は木下と会ったことを告げる。しかし、小杉は特に嫉妬しなかった。
知子は、銭湯に行くと言って木下の部屋に行き、ひと夜の関係を持つ。しかし、翌朝起きると知子は、急いで家に帰る。
それでも小杉は嫉妬してくれない。今まで愛人の立場に不満を感じなかった知子は、小杉の態度を怪しく感じていた。
いっぽうで木下も、小杉との関係を優先する知子に激しい嫉妬を燃やす。知子が煩わしく感ずると、木下は「捨てないでくれ」と言って泣き喚く・・・。
雑感
瀬戸内寂聴さんが、2021年11月9日に99歳の白寿で亡くなった。ご冥福をお祈りします。
寂聴さんが晴美と名乗っていた時代の短編集「夏の終り」が、最初に映画化されたのは、書籍として発売された1963年の池内淳子主演東宝映画「みれん」(モノクロ)であった。今回の映画タイトルが前作の「みれん」でなく「夏の終り」であることから、主人公二人の男女関係は終わり友情に変わったことを明示している。前作を見て池内淳子の「みれん心」が良いなあと思った身に、満島ひかりのさっぱりし過ぎた演技は心に響かなかった。
それは、回想シーンを順不同にして本筋の間に挟み込むような脚色手法を取っているせいもあった。背景が薄っぺらく美術も手抜きであり、どの場面がいつ頃のシーンを意味するかよくわからなかった。わかったのは、日本初の総天然色映画「カルメン故郷に帰る」の看板がかかっているシーンで、1953年だ。また、喫茶店のシーンは1960年ぐらいだが、BGMがグループサウンズ(1966年)以降の歌謡曲だった。映画音楽家が外人らしいが、そう言う人物を起用するプロデューサーが無能である。
筆者は、満島ひかりのファンである。NHK制作のテレビドラマ・江戸川乱歩シリーズでは大正から昭和初期をぶっ飛んだ演出と共に好演していた。しかし、昭和20年代から30年代前半の知子は、やたらと現代っぽかった。脚本も時代性を無視しているところがあった。
小林薫は、ダメ作家をやらせたら右に出る人はない。しかし、彼と相性の合う女優が、田中裕子しかいないのが惜しい。もう少し、昭和の味を出せる若い女優がいれば良いのに。彼は、小田仁二郎をモデルにした小杉役を演じている。
綾野剛は、2013年4月ドラマ「空飛ぶ広報室」で新垣結衣相手に主演し一躍スターになるが、同年8月31日に公開されたこの映画では、いいところは無かった。ちなみに彼が演じた木下役は、本名小川文明と言い64歳で事業に行き詰まり自殺する。
「夏の終り」を見ていて、「みれん」で一番印象的なシーンが何かわかった。妻役の岸田今日子(当時、小杉役を演じた仲谷昇の実際の妻だった)との電話シーンで、岸田今日子が電話をかけている姿のシーンがある。岸田今日子がニヤッと笑って伝言を伝えるだけなのだが、そこで池内淳子は敗北感に打ち拉がれる。
この部分が、今回の映画では全くダメだった。妻の姿は見えなかったが、何か上から目線で馬鹿にしていて、刺々しかった。やりすぎだと思った。
スタッフ
監督 熊切和嘉
製作 藤本款、伊藤和明
プロデューサー 越川道夫、深瀬和美、穂山賢一
原作 瀬戸内寂聴
脚本 宇治田隆史
撮影 近藤龍人
音楽 ジム・オルーク
キャスト
相澤和子 満島ひかり
木下涼太 綾野剛
小杉慎吾 小林薫
鞠子 赤沼夢羅
小杉ゆき 安部聡子
知子の前夫 小市慢太郎
***
ある日、知子は小杉宛に本妻ゆきから届いた手紙を見つける。内容は、つまらないことを甘ったるく書いているものだった。ゆきは小杉が離婚しないことを確信していると、知子は思う。
正妻・ゆきに会いたくなった知子は、鎌倉にある本宅を訪ねる。ゆきは不在で、慎吾が留守番していた。居間には、知子の家と同じサボテンが飾ってあった。
小杉が取材旅行に出かけている間に、本妻ゆきから電話が掛かる。
知子は、初めて言葉を交わすゆきと話をする、ゆきの声に敗北感を感じる。
知子は、涼太の元に行くが、彼はいつの間にか引っ越していた。
知子は、慎吾と別れの手紙を書く。慌てて駆けつけた小杉に対して、知子は家を引き払って他所に移り「確かなものを築く」と宣言する。
知子は、他の一軒家に引っ越す。夕方になって日差しが陰り、夏も終わろうとしていた。その知子に、小杉から電話があった。「明日、小田原へ用事がある」と知子が言うと、「何時だい、駅で会おう」と彼は尋ねた。
翌日、小田原駅で知子は小杉を待っている。