高島忠夫が闘病生活を経て先日亡くなった。新東宝から東宝に移って怪獣映画で活躍し、その後はミュージカルでも主役を張った。テレビタレントとしては「ごちそうさま」「クイズ・ドレミファドン」の司会者や「ゴールデン映画劇場」の2代目解説者として活躍した。
しかし新東宝時代に彼が主役(ヒーロー)の座を掴んだ「坊ちゃん」シリーズが思い出深い。
これは近江俊郎製作・監督、高島忠夫主演で、その名の通り夏目漱石「坊ちゃん」からインスパイアされた痛快青春映画シリーズだ。

その中でも「坊ぼん罷り通る」は、それまでのシリーズで作品で高島忠夫は東京弁を喋っていたが、初めて高島忠夫が大阪人の設定になった。彼は隣の神戸人だから、のびのび演技してるのが印象的な作品。

富士映画は、大倉貢が社長で、彼の実弟で「湯の町エレジー」などをヒットさせた歌手近江俊郎が副社長を勤めた映画製作会社。
設立後、大倉貢が新東宝の社長に就いたので、富士映画は新東宝と提携し、近江俊郎がプロデューサーや監督を勤めた。

 

あらすじ

 

「坊ぼん」こと光一は、父が昔世話をした大友(由利徹)を頼って、就職のため上京する。大友は美しい二人の娘みゆき(高倉みゆき)とマリ(大空真弓)を持ち、光一は姉のみゆきを気に入る。大友は化粧品会社を経営していた。光一は営業課に配属され、先輩の大宅(坊屋三郎)とコンビを組む。早速、東南アジアへの輸出に失敗した美白化粧品の在庫を国内販売に振り返ることを光一は提案する。おかげで化粧品は爆発的な売れ行きを見せる。その頃、会社の倉庫に管理人として増田老人が採用された。
ある日、自社化粧品の横流し品が現れ始めた。ところが販売部長はずる休みしてまで、愛人のクラブに通い詰めている。疑問に思った光一が倉庫に行くと、管理人は出ていたが金庫の鍵があった。はたして金庫を開けると、商品の横流しの証拠帳簿が出てくる。突然、背後に増田老人が現れる。老人が変装を解くと何と若いヤクザ(天知茂)に変身し、銃口を光一に向ける・・・。

 

雑感

 

昔は商品の横領とか、夜中に窃盗団が倉庫の中身を丸ごと盗んで、故買屋に売り飛ばすなんてよくあった話。それを坊ちゃんがヤクザ多数相手に、えいやとばかり素手で解決してしまう。
 
高島忠夫は、神戸市東灘区御影の地主の「ぼんぼん」である。神戸一中(現神戸高校)をバンドのやりすぎで中退した後、関西学院に水泳で推薦編入学する。その後、大学在学中に新東宝第1期ニューフェースに合格した。
会社は、「坊ちゃん」シリーズの主役を任せたのに、彼が東京弁になかなか順応しないことに困っていただろう。
当時、神戸の東側に住む上流階級は大阪文化圏に属していたから、大阪弁を話す映画は彼も楽だったと思う。
自慢のテノールも聞かせてくれる。大空真弓も音大中退なので、いっしょに歌ってくれる。
 
ヒロイン高倉みゆきは、東映時代劇から移籍した清楚な美人だが、アクションを要求される役も演じた。ところが、大倉貢の愛人であることがばれて、映画テレビから干されてしまった。その後、一般人と寿引退。

 

最後にニューフェース同期の天知茂が悪役で出演。とくに多羅尾伴内のように変装を少しずつ解いていくシーンが可笑しい。
彼はヒーローを演じたくて映画界に入ったのだが、当時は意に反して、悪役しか演じさせてもらえなかった。
新東宝から大映、東映を経て事務所を作り、テレビに転身してから「非情のライセンス」「明智小五郎・美女シリーズ」など、彼の願い通りの役を演ずるようになった。
高島忠夫とは好対照な陰のある役を演じた。

 

スタッフ・キャスト

 

監督・製作 近江俊郎
脚本 杉本彰 、 松井稔
企画 小野沢寛
撮影 杉本正二郎
 
配役
水島光一   高島忠夫
大友みゆき  高倉みゆき
大友マリ   大空真弓
大友     由利徹
古山     古川緑波
大宅曽次   坊屋三郎
教授     南利明
按摩     八波むと志
マリの同級生 平凡太郎
経理課長   藤村有弘
増田     天知茂

 

坊ぼん罷り通る 1958 富士映画製作 新東宝配給 高島忠夫の「坊ちゃん」シリーズ第6弾

投稿ナビゲーション