1978年に「地雷を踏んだらサヨウナラ・一ノ瀬泰造写真・書簡集」として出版された戦場写真家の書籍を元にして描かれたカンボジア内戦映画。(日本、タイ、カンボジア合作)
公開当時はヒットしてロングランとなった。
監督は五十嵐匠。
主演浅野忠信。
共演はソン・ダラカチャン、ボ・ソンフン、川津祐介、市毛良枝。
あらすじ
ベトナム戦争に刺激されて、1972年カンボジア首都プノンペンで、中国寄りのポル・ポト率いる民族解放軍クメール・ルージュとロン・ノル大統領率いる政府軍との内戦が激しくなる。
25歳のフリー戦場カメラマン、一ノ瀬泰造は、クメール・ルージュが占領して撮影できなくなったアンコールワット遺跡の撮影を夢見ていた。彼はカンボジアで高校教師ロックルーやレストランを営むマダム、そして子供たちと親しくしていた。
その子供たちが爆撃の犠牲になったことで、大きなショックを受けた泰造は、アンコールワットに潜入を図るが、クメール・ルージュの幹部に阻まれ、さらに政府軍によって国外退去を命じられる。
泰造は、戦時下の南ベトナムの首都サイゴンに移る。そこはベトナム戦争での南軍の基地であり、アメリカ兵や同盟国である韓国兵が集まっている。
ある日、カメラマン仲間のティムが目の前で北軍に撃たれて亡くなる。泰造は、ティムが生前交際していたレ・ファンを訪ねる。彼女は泰造とすぐ友人になったが、いつまでもティムのことを引きずっていた。
カンボジアから国外退去を命じられた泰造がアンコールワットまで密航するには、メコン川の航路を上っていくのが近道だ。しかし韓国軍は、泰造を日本人と知ると何発も蹴りを入れて追い返す。その様子をレ・ファンの伯父が見ていて、泰造がただの命知らずな男だと確信する。
泰造は、姉の結婚式に出席する為に一時帰国する。だが彼は、アンコールワットへの念を切れず、結婚式の朝にサイゴンへ再び旅立つ。
毎日新聞の松山記者の計らいで、韓国輸送船によりカンボジアに密入国した泰造は、ロックルーの結婚式に出席し祝福した後、「地雷を踏んだらサヨウナラ」という言い残してアンコールネットを目指してジャングルに消えた・・・。
雑感
奥山和由プロデューサーの低予算作品でも、トップクラスの作品である。ロングランになったのも、よく分かった。
ただし二箇所ほど問題点があった。
一つは浅野忠信の独特な棒演技だが、それ自体は良いのだが、1972年から73年の話だから、泰造は徐々に戦場で修羅場を過ごして成長するはずなのだが、その成長部分を感じなかった。
また、ラストで泰造がクメールルージュから逃げてアンコールワットを一眼見るシーンだが、ここは日本的な甘いエンディングだった。しかし実際は処刑される人間がそう簡単に逃げ出すわけはない。ハリウッド映画ならそんな演出は撮らないだろう。目隠しをされて、後ろからズドンで終わりだ。
日本映画も北野武監督や若手監督が加わって変わってきたが、もう少しビターエンドを描こう。
レ・ファン役(ボ・ソンフン)は美人だった。クメールルージュはカンボジアに住んでいた南ベトナム人を虐殺したようで、遺体をメコン側に流したそうだ。そのため、南ベトナム人とカンボジア人の間に遺恨があったようだ。
(カンボジアとベトナム )
1970年から中国を中心にアジアが回り出した。ベトナム戦争で北側の有利が伝えられ、カンボジアの元首だった親中派のシアヌーク殿下は中国を訪問した。その隙にカンボジアの軍部クーデターがあり、ロン・ノルが軍事政権を掌握してシアヌーク殿下を追放する。
しかしカンボジア全域を掌握しておらず、ロン・ノルの政府軍が占領している地域、クメール・ルージュ(カンボジア共産党)の占領地域とベトナム共産党の北ベトナム軍が活動している地域があった。同様に南ベトナム軍も軍事介入したが、クメール・ルージュに押されていた。(中越戦争)
1972年アメリカのニクソン大統領の中国電撃訪問があり、国境正常化が発表されると、ロン・ノルの政府軍は後ろ盾をなくし、次第に軍事政権は瓦解する。
スタッフ
製作:チーム・オクヤマ
監督:五十嵐匠
プロデューサー:奥山和由
エグゼクティブ・プロデューサー:中村雅哉
アソシエイト・プロデューサー:大山幸英、桜井勉
原作:一ノ瀬泰造
脚本:丸内敏治、五十嵐匠
音楽:安川午朗
キャスト
一ノ瀬泰造:浅野忠信
チェット・セン・クロイ(カンボジア教師):ソン・ダラカチャン
ティム・ヒル(米人写真家):ロバート・スレイター
マダム:ペン・ファン
父一ノ瀬清二:川津祐介
母一ノ瀬信子:市毛良枝
姉一ノ瀬淑乃:羽田美智子
レ・ファン(ベトナムでの友人):ボ・ソンフン
毎日新聞社松山:矢島健一
ネタバレ
ところが、彼はかつて一度捕まったクメール・ルージュの幹部に再び捕まってしまう。今度は幹部も見逃してくれないようだ。それでも必死に逃走を試み、遂にアンコールワットを目にする。しかし彼の背後には敵兵士が銃を構えている。泰造は銃を気にせず、夢にまで見たアンコールワット遺跡に走り寄るが、射殺されて死ぬ。
その10年後に両親によって、泰造の死が確認されたそうだ。