WEBサイト「小説家になろう」から生まれた純愛小説をもとに双葉社がマルチメディア展開した作品で、実写映画に次ぐ映画化である。
監督は牛嶋新一郎、キャラデザは岡勇一。
声の出演は高杉真宙、Lynn、藤井ゆきよ、福島潤。
あらすじ
桜良(さくら)という少女の通夜が執り行われた。桜良の親友恭子は泣き崩れていた。
同級生の僕は、ショックで葬儀に参列できなかった。
時を遡って初夏、図書委員である僕と桜良は一緒に返却本を元の位置に戻していた。桜良は図書委員のくせに本に興味がなかった。
人付き合いの悪い僕は珍しく体調を崩し病院で見てもらったことがあった。会計で待っていると、足元に文庫本のようなものが落ちているのに気付く。拾ってみると、それは「共病文庫」と題されている日記帳で、「自分は膵臓病で余命が僅かである」と書かれてあった。それは同級生桜良のものだった。桜良は笑いながら「秘密にしてね」と言った。
それ以来、桜良も本好きの僕と同じ図書委員に属して、僕の手伝いをする。図書館でもうるさい程明るい桜良に対して僕は「死が怖くないのか」と残酷なことを無神経に尋ねると、彼女は通り魔事件を例に出し、「誰もいつ死ぬかわからない。私が死ぬまでにやりたいことをリストにするから君に付き合わせる」と笑顔で言い放った。
桜良はスイーツを食べたかと思うと、翌日は焼き肉屋でホルモンを食べる。桜良は「自分の悪いところと同じ部位を食べると良くなる」と言った。そして「君の膵臓を食べたい」と彼女は笑った。
連休に旅行に行きたいという桜良に付き添って、博多にまで行く。途中で彼女は僕に名前はなんて言うの尋ねる。僕が答えると、桜良は微笑む。
博多のホテルのミスにより、二人は新婚用のスイート・ルームに泊まることになる。僕はふと、桜良のポーチに大量の薬品があるに気付く。その後、二人は「真実か挑戦か」ゲームをする。その中で桜良は死ぬのが怖いと告白した。
ある日、桜良は「星の王子さま」を貸してあげると言い、僕を誰もいない自宅に呼び出す。桜良は僕に抱き着き、唇を近づけた後、「冗談だよ」と言って笑った。馬鹿にされたような気がした僕が桜良を押し倒す。怖がる桜良を見て、ハッとした僕は飛び出した。家の外ではイケメンの同級生隆弘が待っていた。隆弘は僕に桜良との仲をしつこく尋ねる。隆弘に僕は「しつこい人は嫌いだとさ」と言うと、隆弘は僕を殴り倒す。僕は血を流して、倒れる。外の騒ぎに気付き、家を飛び出した桜良は、僕を庇ってくれた。
やりたいことリストを慌てて消化したのが祟ったのか、桜良は検査結果が悪く入院する。僕が見舞った時、桜良は病室で踊っていた。彼女は大丈夫だと笑った。
また二人はトランプで「真実と挑戦」をする。僕は桜良に「生きるとは」何かを訊ねる。桜良は「人と心を通わせること」と答える。僕はその答えに感心した。桜良は無言で手を広げ、二人は抱きしめ合う。そこへ恭子が見舞いにやって来た。僕は慌てて病室を飛び出した。
別の夜、僕は桜良の頼みで彼女を花火大会の見える崖の上に連れ出す。壮大な花火を特等席で見て、二人は何も言わずに抱き合った。
桜良が退院した翌日、僕は桜良と待ち合わせていた。彼女に「君の膵臓を食べたい」とメールに打った。しかし、桜良は来なかった。帰宅した僕はテレビで、桜良が通り魔事件に巻き込まれ死んだことを知った。
葬儀に参列できなかった春樹は十日後、意を決して桜良の家に行く。桜良の母に、娘さんと親しかったと告白し、共病文庫を読ませてほしいと頼んだ。「やはり君だったのね」と桜良の母は言う。そこには僕と遊んだこと、旅行に出かけたこと、自宅に呼んだことが書かれていた。文末に桜良は、友人への手紙を書いていた。僕への手紙の中には「君の爪の垢、煎じて飲みたい」と書かれていた。驚いた僕は、我慢できなくなり初めて号泣した。僕たちは正反対だったが、二人合わせると完璧になれたのだ。
僕は桜良からの「遺言」を読んで、恭子と仲良くしようと思う。僕は、恭子を呼び出し共病文庫を見せる。それを読み終わった恭子は、のけものにされたような気がして、納得できなかった。それでも次第に僕と友人になり、桜良の思い出を語り合う仲になる。
一年後、人付き合いができるようになった少年は、恭子と桜良の墓参りにやって来た。
雑感
パッと見ると、何か感動的に感じる映画だが、書き出してみると、やはり「小説家になろう」小説である。要するに小説ではなく、「僕」の妄想なのだ。女性心理が全く書けていない。二人の母親も理想像を描いている。
これからの原作者住野よるはどう言う風に成長するか知らないが、「小説家になろう」を辞めて良い編集者につくことをお勧めする。
原作に寄せてアニメ映画は作っている。それと比べて実写版映画は原作以外の部分を作り過ぎている。ラストで恭子が成長して、あの北川景子になるなら、結婚相手のガム君が大当たりを引いたことになる。おそらく「僕」が二番目に好きなのは恭子だろうから、そうなるのだろうが。
私の正解は桜良の母に会った後、家から外に出るところで終わるのが良い。そこから後は蛇足だ。おそらく二次創作でさらに素晴らしいものが生まれるのを恐れたからあえて蛇足を付け足したのだろう。「小説家になろう」にありがちな過剰描写である。
アニメのキャラデザは、恋愛ものにありがちな線の細い絵だった。京アニやP.A.Worksが作っていれば、もう少し実体を伴った人物が描けただろう。
サン=テグジュペリ「星の王子さま」と僕の名前がポイントになっている。僕の名前は「春樹」である。桜良と春樹、これも恥ずかしい。
スタッフ
原作 住野よる
監督・脚本 牛嶋新一郎
音楽 世武裕子
原作イラスト loundraw
キャラクター・デザイン 岡勇一
総作画監督 岡勇一
美術監督 小川友佳子
3DCG監督 岸これみ
音響監督 はたしょう二
キャスト
「僕」 高杉真宙
山内桜良 Lynn
桜良の親友恭子 藤井ゆきよ
桜良の元彼隆弘 内田雄馬
ガム君 福島潤
「僕」の母 田中敦子
「僕」の父 三木眞一郎
桜良の母 和久井映見