「別離」というと最近の人はイラン映画でベルリン映画祭金熊賞、アカデミー賞外国語映画賞ダブル受賞の映画を思い出すに違いない。しかし20世紀には同じ邦題で重要な映画があった。
イングリッド・バーグマンは既に地元スウェーデンで押しも押されもしないスターダムに上り詰め、歯科医師と結婚し一子を儲ける。しかしアメリカ映画界とくに製作者デビッド・セルジュニックは放っておかなかった。ハリウッドに彼女を迎え、スウェーデンでの主演作「間奏曲」をリメイクしたこの「別離」を、相手役に当時イギリスの大スターだったレスリー・ハワードをプロデューサー兼任で起用して撮影した。
その作品は1時間あまりの小品だった。彼女のスウェーデンなまりが取れずセルジュニックは期待していなかったそうだが、コ・プロデューサーを引き受けたレスリー・ハワードは賭けに勝ったようだ。大作「風と共に去りぬ」と同年の撮影だったにもかかわらずヒットして、のちの大女優イングリッド・バーグマンのアメリカそしてヨーロッパでの大成功へとつながる。
映画の内容は1950年のジェーン・フォンテーン主演「旅愁」(September Affair)に近い不倫もの。
大ヴァイオリニストであるホルガーと伴奏者トーマスはアメリカの演奏旅行から故郷スウェーデンに戻ってきた。トーマスは演奏活動から引退して後進の指導に専念するつもりだ。ホルガーは次の伴奏者が見つかるまで妻と娘と一緒にのんびりしたかった。そこで出会ったのが娘のピアノ教師だったアニタである。彼女のピアノ旋律を聴いて彼女の音を好きなり、とうとう彼女までも愛してしまった。二人は演奏旅行に出るが、ホルガーは妻に離婚届をサインして届ける。しかしアニタは異国の娘に自分の娘の面影を追ってしまうホルガーの気持ちを考え、身を引く。傷心のホルガーは久々に娘に会いに行くが、喜んで道路へ飛び出した彼女は交通事故に遭う。
アメリカ人はイングリッドのどこに魅力を感じたのだろう。ミステリアスな先輩グレタ・ガルボとも違うし、もちろんツンデレのヴィヴィアン・リーとも違う。ジョーン・フォンテーンが近いと思うが、スケールでははるかにイングリッドの方が大きい。
相手役レスリー・ハワードはイギリス人らしい英語を話すタイプだが、本人はユダヤ人だったそうだ。
「紅はこべ」、「化石の森」「ロミオとジュリエット」「ピグマリオン」に主演し、「風と共に去りぬ」にも共演する国際スター、しかも監督業にも進出して前途洋々だったが、1943年50歳の年に中立国ポルトガルの首都リスボンから乗り込んだ旅客機がドイツ軍に誤爆されて墜落死亡した。
監督 グレゴリー・ラトフ
脚本 ジョージ・オニール
製作 デヴィッド・O・セルズニック
共同プロデューサー レスリー・ハワード
音楽 ロバート・ラッセル・ベネット、マックス・スタイナー
編曲 ルイス・フォーブス(アカデミー編曲賞ノミネート)
撮影 グレッグ・トーランド(アカデミー撮影賞ノミネート)、ハリー・ストラドリング
配役
レスリー・ハワード(ホルガー)
イングリッド・バーグマン(アニタ)
エドナ・ベスト(マルギット)
ジョン・ハリデイ(トーマス)