狸御殿ものを得意とする木村恵吾が自らの脚本を監督したミュージカル映画。撮影は今井ひろし。
主演は若尾文子、市川雷蔵。
共演は勝新太郎、菅井一郎、楠トシエ。
歌手としては水谷良重(二台目水谷八重子)、藤本二三代、神楽坂浮子、松尾和子、マヒナスターズが出演している。
あらすじ
泥棒ダヌキだった父の泥右衛門は、ウサギにカチカチ山で背中に負った薪に火を付けられて大怪我をしてから飲んだくれとなってしまった。
娘のお黒は、父の素行の悪さに手を焼きながら孝行を尽くしていた。父の火傷の手当てに薬を売りに来る栗助をお黒は好きだったし、栗助もお黒に恋焦がれていた。
ある日、猟銃の音に驚いたお黒と泥右衛門は、番傘に化けてやり過ごす。ちょうどそのとき狸の腰元たちが、驟雨に番傘をさして狸御殿に帰ってしまった。二人は初めて見る御殿の絢爛豪華さに思わず姿を現して見回っていると、怪しい者として捕まってしまう。
その頃、きぬた姫は人間の夫を持ちたいと駄々をこねて、とうとう御殿を飛び出してしまう。そこへ隣国の若君狸吉郎がきぬた姫との見合いにやって来た。ひとまず「狸祭り」を見せ、腰元おはぎが歌って家老や老女が迎える。それに対して狸吉郎もお返しに歌で応える。それから第一の姫がチャッキリ節、第二の姫が木曽節、第三の姫がよさこい節、第四の姫が佐渡おけさ、第五の姫が五木の子守唄、第六の姫が草津よいとこ、第七の姫が会津磐梯山などを歌う。その間に老女の狸路は、捕まえたお黒がきぬた姫そっくりなので、お黒を身代りに立てて、山形の花笠音頭とともに偽きぬた姫が登場する。
ところが狸吉郎は偽きぬた姫に一目惚れをしてしまい、再度のご訪問となる。前回と同じではお気に召さないだろうと、ムード歌謡中心に選曲したが、狸吉郎は飽きてしまう。仕方なく再度お黒を呼び、狸吉郎のお相手をさせる。
ところが突然きぬた姫は傷心を抱えながら狸の里に戻って来た。お黒をきぬた姫の身代わりにしたい泥右衛門は、姫を亡き者にしようとするが・・・。
雑感
筋書きはつまらないのだが、それより華やかな歌と踊りで見せるミュージカル映画である。しかも東宝風のダンスで見せるのでなく、大映は和風の踊りが中心である。
歌は、アテレコだけでなく水谷良重、楠トシエ、神楽坂浮子、松尾和子、藤本二三代と言った本職の歌手を登場させ、さらに市川雷蔵、勝新太郎にまで歌わせている。市川雷蔵の歌は、予告編と声質が若干変わっているため、編集で手を加えたようだ。水谷良重、神楽坂浮子、松尾和子、藤本二三代の使い方も非常に贅沢だった。
踊りは何故かライバル会社なのに市川雷蔵、若尾文子、松竹のOSKが担当している。
歌舞伎役者だった市川雷蔵の踊りは、当然プロだから見事なのだが、若尾文子は素人なので雷蔵にコッテリ絞られたと後に語っていた。
木村恵吾監督は、戦前からこの狸御殿ミュージカルのシリーズをライフワークにしていたが、この作品で納得したのか二度と作らなくなった。その代わり他の監督で狸ミュージカル・シリーズは続けられた。
スタッフ
製作 三浦信夫
企画 山崎昭郎
脚本・監督 木村恵吾
撮影 今井ひろし
作曲 吉田正
作詞 佐伯孝夫
美術 上里義三、西岡善信
キャスト
狸吉郎 市川雷蔵
お黒/きぬた姫 若尾文子
栗助 勝新太郎
お黒の父泥右衛門 菅井一郎
第四の姫 中村玉緒
第二の姫 金田一敦子
第六の姫 仁木多鶴子
腰元おはぎ 二代目水谷八重子
家老狸右衛門 二代目中村鴈治郎
老女狸路 楠トシエ
用人狸十郎 嵐三右衛門
腰元かえで 真城千都世
第一の姫 近藤美恵子
第七の姫 藤本二三代
第三の姫 神楽坂浮子
第五の姫 松尾和子
河童おぷく 小浜奈々子
腰元おくず 大和七海路
奥番狸六 トニー谷
泥右衛門乾分狸松 三代目江戸家猫八
泥右衛門乾分狸五郎 三遊亭小金馬
酒屋善六 左卜全
踊り 大阪松竹舞踏団
ネタばれ
泥右衛門の策略を知ったお黒は、泥右衛門の一刀で負傷する。しかしお黒も栗助の薬で助かった。
御殿に帰ったきぬた姫と狸吉郎の縁談はまとまり、祝言の日になった。お黒は、栗助の薬のおかげで傷も治り、二人も結ばれることになった。きぬた姫は狸吉郎と、娘が出来たらお黒と名付けましょうと約束する。