岩手県北上山脈にあると言われる部落の刀剣にまつわる事件を描く、雑誌「探偵実話」に掲載された大河内常平の小説「九十九本の妖刀」を映画化したエログロ作品。とは言っても今の基準から見ると、一体どこがエログロなのかと思うだろう。

のちにアニメ特撮脚本家になった高久進が初脚色し、曲谷守平が監督した。
主演は菅原文太。共演は松浦浪路、矢代京子
白黒シネスコ作品。

あらすじ

北上川で遊んでいた二人の娘が何者かにさらわれた。阿部巡査は一緒に来ていた男友達が見たと言うお歯黒の老婆に興味を持つ。
近くの白山集落では、十年に一度の火造り祭の日が近づいた。平家の落ち武者である舞草族の部落では、言い伝えられた掟が今も守られていた。白山神社の神主弓削部に、火造り祭の夜は山を下りろと、舞草族の首領は脅迫する。

火造りの夜、誰もいないはずの神社で、舞草族の祭りが始まった。さらわれた二人の娘が、殺されて生贄になった。しかし二人が処女でなかったため、失敗してしまった。(三原葉子に処女の役が出来るわけがない!)
翌日通報を受けた阿部巡査は、祭りの行われた神社の境内を捜索して、九十八本の刀剣を発見した。中世の刀匠であった舞草太郎国永の名刀と同じだと鑑定される。しかもどの刀も血でくもっている。焼き入れの時に、被害者たちの血を使ったものと考えられた。
阿部ら警官隊が引き上げた後、神主弓削部は刀を警察に引き渡したために舞草族に捕えられ、月の出を待って殺される。首領は、早く九十九本目の刀を処女の生き血で焼入れしようとしていた。生贄には老婆の娘あざみが選ばれた。老婆は代わりの処女を拐ってくるからと、娘の処刑を待ってもらい、里へ降りる。あまりに怪しいため老婆は警察によって捕らえられる。しかし仲間に助けられ、署長の娘加奈子をさらって逃げる。

首領は、老婆が儀式までに間に合わぬと考え、先にあざみを殺そうとする。許嫁五郎丸はあざみを連れて逃げるが、途中で追手に追い付かれ相討ちとなり、あざみだけを逃す。
ヘリが山中を移動する老婆たちを発見して捜索隊に通報する。捜索隊員を舞草族の弓矢が襲い、緊張が走る。加奈子は木につるされ、今にも処刑されようとしていた。署長は発砲を許可して、捜索隊は弓矢と刀だけの舞草族を圧倒する。危機一髪で阿部の拳銃が炸裂し首領を撃ち、加奈子を助ける。首領は逃げられぬと悟って切腹して果てた。

 

雑感

菅原文太は最初に劇団四季の第1期生として入団した。昭和31年に東宝作品に出演し、昭和32年には岡田真澄らとファッションモデル・グループを結成する。昭和33年にイケメン俳優としてスカウトされて在学していた早稲田大学第二法学部を中退して新東宝に入社した。昭和34年から主演を張っていたが、昭和36年に会社が倒産すると、同僚吉田輝雄らとともに松竹に移籍する。しかし社風が合わず、昭和42年に安藤昇の勧めで東映に移籍した。松竹以前の歴史は黒歴史扱いになっている。

お歯黒老婆役五月藤江は明治26年生まれで既に大正末期のサイレント映画には老け役を演じていた。原泉とそっくりだから、間違える人もいる。新東宝にも所属しており「松川事件」では赤間被告の祖母役(重要な役どころ)を演じていた。倒産後も昭和40年代に入るまで脇役で出演していた。いつ亡くなったかが分からない。

この作品は最近まで封印作品だったが、どこがいけなかったのか?序盤に二人の娘(一人は三原葉子)が殺されたシーンの音声が消されていた。三原葉子の出番が少なく見せ場がここぐらいしかないので、さぞ恐ろしい口調で叫んだのだろう。そこが引っ掛かったか?

この映画は、ツッコミどころだらけだ。原作通りだとすると、掲載された世文社刊の雑誌「探偵実話」は本物のエログロ雑誌だな。原作者の大河内常平は刀剣評論家でもあった。

舞草族は、刀鍛冶の技術を持っているから、平家に仕えていた渡来系民族と考えられる。平清盛は貿易を振興していたので、さもありなんである。源平合戦の難を逃れて山岳部族になったと言う設定だが、岩手の冬は寒いから南方(北関東?)へ移るのだろう。子供たちは学校に行っている様子がない。岩手県警は今まで戸籍調べをしなかったのか?
まだ昭和30年代には、こういう類の人々が山にいたのか?サンカ(山岳遊民)は昭和13年の戦時総動員法成立とともに消え去ったと聞いた。

舞草は「もうぐさ」と読む。弓削部は「ゆげべ」である。

 

スタッフ

製作 大蔵貢
企画 島村達芳
原作 大河内常平
脚色 高久進 、 藤島二郎
監督 曲谷守平
撮影 岡戸嘉外
音楽 井内久

キャスト

警官阿部政之   菅原文太
署長及川忠太夫  中村虎彦
娘及川加奈子   矢代京子
神主弓削部宗晴  沼田曜一
あざみ  松浦浪路
老婆  五月藤江
舞草族の首領  芝田新
五郎丸  国方伝
鈴木三重子  三原葉子
津川花代 水上恵子
高津秀隆(刀剣鑑定家)  九重京司
警察医佐藤   中西博樹
鑑識主任三田   岡竜二
捜査本部長富岡   倉橋宏明

 

 

 

 
九十九本目の生娘 1959 新東宝製作・配給

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