ビデオで、96年カンヌ映画祭で主演男優賞をW受賞した「八日目」を観た。
仕事中毒の中間管理職アリ(D・オートイユ)とダウン症の青年ジョルジュ(P・デュケンヌ)のロードムービーだ。
ジョルジュ役のデュケンナは実際のダウン症患者であり、迫真ならぬ、真実の演技であった。
顔全部を使って泣いたり怒ったりで、あの顔は一度見たら一生忘れない。
新銀行の立ち上げに奔走するアリは、営業指導スタッフ。
営業店の若い連中には、常に笑顔を絶やすなと厳しく指導する。
しかし仕事熱心の余り、私生活では妻や娘に去られていた。
やけになって夜道を車で飛ばすアリ、そんなとき、ジョルジュと出会う。
彼はダウン症を患っていて、ちょっと女好きが玉に瑕だが、気の優しい青年。
母や姉に会うために施設を脱走していたのだ。
アリはジョルジュを警察に付きだそうとするが、警察では取り合ってもらえず、仕方がなく、ジョルジュを彼の母の家に連れていくことになる。
ところがその母は亡くなっていた。
やむを得ず、ジョルジュの姉の家に向かうが、そこでは厄介者扱いされて追い出されてしまう。
たまたま入ったドライブインでジョルジュはウェートレスに一目惚れしてしまうが、あっさり振られてしまい、床の上で、のたうちまわって悲しみを表現する。
またジョルジュは、アリが妻や娘と会えない事情を知り、一生懸命慰めようとする。
アリも、喜びや悲しみをいつも100%表現する、ジョルジュの無垢さに触れ、自分の見失っていたものに気づき始める。
施設へ戻ったジョルジュは、アリのため、アリの娘の誕生日に施設の仲間と一緒に祝ってやろうと思い立つ。
アリも彼らの素敵な申し出に、もはや何のためらいも無く、仕事を投げ出すのだった。
そして、アリの妻と娘が住む海沿いの家へと向かう。
やがて夜になり、閉鎖された遊園地の観覧車やメリーゴーランドが回りだし、海岸からは、大きな花火が打ち上げる。
妻や娘は、仕事を放り出してまでして、誕生日に来てくれて、障害者たちと海辺でバカ騒ぎをしている、父を見て、ようやく閉ざしていた心を開く。
一方ジョルジュは、幸せそうな家族を見て、自分の居場所がそこにないことを悟る。
彼は母親の許へと行きたいと願い、銀行の屋上に上り、大空に向かって飛び立つのだった。
☆
この映画は、演技者の演技に相当助けられている。見て損はない。
しかし作品としては、あるいは脚本としては、さほど凄いとは思わなかった。
最後にジョルジュを死なせて終わらせる辺りは、ハッピーエンドよりショッキングであり良いのかも知れないが、それならそうで、もう少し盛り上げ方があるだろう。
その辺りは欧州映画の弱いところ。
畳み込んで行くことがない。
最後にアリをダウン症施設の教師にしてしまうというのは、やり過ぎだ。
なお、タイトルの「八日目」とは創世記から来ている。
神様は八日目にある大切な物を作り忘れていることを思い出す。
それが、ジョルジュだったというわけ。
永遠のセルマ・リッター
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