ビクトル・ユーゴーの名作小説「レ・ミゼラブル」はストレート・プレイが多く映画化され、日本では戦前に四度も映画になっている。
そしてこの名作はミュージカルとして現代に復活する。1980年にパリでミュージカルになり、好評を得る。
しかしフランス語のミュージカルがいくらヒットしても世界的には全く影響しない。それが改訂され、ウェスト・エンドでロンドン・ミュージカルにされてようやく世界的大ヒットとなり、各国語に翻訳されるようになった。
この映画は、原作ではなくミュージカル脚本を元にして作られた英米合作ミュージカル映画である。
監督はトム・フーパー、音楽監督はクロード=ミシェル・シェーンベルク。 主役ジャン・バルジャンにヒュー・ジャックマン、敵役ジャベールにラッセル・クロウが演ずる。
コゼットの母親ファンティーヌ役のアン・ハサウェイがアカデミー助演女優賞を受賞した。
あらすじ
長く入れられた刑務所から仮釈放になったジャン・バルジャンは刑務官のジャベールに睨まれながら、久しぶりのシャバの空気を味わう。しかし前科者に仕事はなく、お世話になった神父の銀の食器類に手を付けてしまう。再び警察のお世話になり、神父の元に実況見分にジャンは来るのだが、神父は私が与えたと言い、銀の燭台を忘れたと言て、それも持たせて立ち去らせてくれる。この時ほどジャンは人の情けを感じたことはなかった。
それから数年後、ジャンは別人に成りすまして、人々の信頼を得てある市の市長にまで成り上がる。
しかし刑務官だったジャベールが警察署に移ってくる。仮釈放の身だったジャンは逃亡したことになっていた。ジャベールはジャンを一目見て誰かに似ていると気付く。そんな時女工だったファンティーヌがクビにされ、娼婦に落ちぶれる。身も心もズタボロだが、彼女の心の支えは遠くパリに暮らすコゼットという一人娘だった。ある日、男に乱暴されたファンティーヌは倒れているところをジャンに助けられる。
ジャンは自分と間違えられた男が裁判にかけられるという話を聞いて、良心の呵責に悩まされ、ついに裁判の場で自分の正体を明かす。その後、自宅に戻るとファンティーヌが死の床にあった。ジャンはコゼットを私が引き取って育てると言うと、ファンティーヌは安心して息を引き取る。ジャンは財産を持ってジャベールが逮捕する前に、パリに向かって出発する。コゼットは居酒屋で主人のテナルディエ夫妻にこき使われていた。彼らを買収してコセットの親権を得たジャンは、ジャベールを見るやパリの修道院に逃げ込む。
ジャンがパリの修道院で下男として仕えるようになって、何年か経った。コゼットは修道院で育てられ良い娘になったが、革命を夢見る青年マリウスに恋してしまった。民衆の希望の星だった将軍が亡くなり、その葬儀においてマリウスたちはクーデターを起こす。コセットはマリウスが心配でならない。ジャンはコゼットが彼を愛していることを知り革命派に加わる。そこではあのジャベールが潜入捜査をしていた。ジャンはジャベールを告発し、ジャベールは銃殺刑と決まる。ジャンが執行したいと名乗り出るとすんなり許可が下りるが、彼ら二人きりになるとジャンはジャベールを解き放ってしまう。ジャンが戻ると、革命派は国王軍の猛攻撃に晒されていた。下水道を通って、傷付いたマリウスを助け出し、コゼットと会わせて自分は身を隠す。一方、ジャベールはジャンに敗れて絶望感を感じて、川に身を投じて自殺する。
元気になったマリウスと挙式をあげたコゼットはジャンを探していたが、ようやく修道院にいることを知り、会いに行く。ジャンは病んで死の床にあった。彼は自分の過去を告白した手紙をコゼットに渡し、息を引き取る。そしてファンティーヌに出迎えられ、天国に向かう。
雑感
ミュージカル映画「シェルブールの雨傘」も見たことが無いニワカ映画ファンが、全編が歌なんて信じられないと言っていた。しかしオペラをベースに持つヨーロッパのミュージカルにはありがちなことなのだ。
とは言え、この映画はコゼットが成長した後、革命編に入ってダレるのは本物のミュージカル(院生時代にロンドンで観劇経験あり)でも同じ事だ。
ロンドンではエポニーヌ役が後半良い味を出して、観客の気がそれるのを引き留めていた。この作品のエポニーヌ(演サマンサ・バークス)の場合、歌は上手いのだが、なぜかさほど思い入れ出来なかった。テクニックに走りすぎたのだろうか。「オン・マイ・オウン」はロンドンで聞いた方が遙かに感動した。
コゼットも然りである。修道院で育っているのにわがままなお嬢様に成長してしまった。小公女の爪の垢でも煎じて飲んでほしい・
アン・ハサウェイが演ずるファンティーヌに至っては、賞狙いだったのかも知れないが、しつこかった。歌を歌って助演女優賞とは、おかしいと思う。
ヒュー・ジャックマンの歌だけがカッコ良かった。
名曲
「夢やぶれて」(I Dreamed a Dream)ファンティーヌ(アン・ハサウェイ)
「オン・マイ・オウン」(On My Own)エポニーヌ(サマンサ・バークス)
「民衆の歌」(Do You Hear The People Sing?)学生たちの合唱
スタッフ
監督 トム・フーパー
原作 ヴィクトル・ユーゴー
脚本 クロード=ミシェル・シェーンベルク 、 アラン・ブーブリル 、 ハーバート・クレッツマー 、 ウィリアム・ニコルソン
作詞 ハーバート・クレッツマー
作曲 クロード=ミシェル・シェーンベルク
製作 ティム・ビーヴァン 、 エリック・フェルナー 、 デボラ・ヘイワード 、 キャメロン・マッキントッシュ
製作総指揮 リザ・チェイシン 、 アンジェラ・モリソン
撮影 ダニー・コーエン
音楽 クロード=ミシェル・シェーンベルク
キャスト
ジャン・バルジャン ヒュー・ジャックマン
ジャベール ラッセル・クロウ
ファンティーヌ アン・ハサウェイ (アカデミー助演女優賞受賞)
コゼット アマンダ・サイフリッド
マリウス エディ・レッドメイン
アンジョルラス アーロン・トゥヴェイト
エボニーヌ サマンサ・バークス
マダム・テナルディエ ヘレナ・ボナム=カーター
テナルディエ サシャ・バロン・コーエン