男女七人が乗るヨットは漂流して南海の小島に漂着するが、その島には恐ろしい秘密が隠されていた。
これを見てキノコにトラウマを感じた人も多いはず。
監督は本多猪四郎、製作田中友幸、特技円谷英二の黄金特撮トリオがお送りする、変身怪人シリーズ最終作。主人公は久保明、小泉博、土屋嘉男、水野久美ら。

併映はヨットに合わせて加山雄三主演の「ハワイの若大将」。

 

あらすじ

太平洋ヨットクルージングに出かけた七人組(大学助教授村井と恋人の相馬明子、社長笠井と愛人の麻美、笠井の部下作田、ハードボイルド作家吉田、漁師で手伝い笠井)は暴風雨のため遭難する。全員無事で無人島に上陸することが出来る。そこには古い難波船があって核実験の海洋調査船らしいが死体が一つもなかった。航海日誌には新種のキノコのことが書かれてあった。ある夜、顔中キノコだらけで眼がどこにあるのか分からない男が船に上がってくる。ライフル銃を撃って退散させたが、一体あれが何なのか分からなかった。
一行は食物を探したが、食べるなと警告されていたキノコを作家の吉田が食べてしまい、皆殺しにすると言って暴れるので取り押さえて、船長室に監禁する。作田はヨットの修理に専念し、笠井が二人で逃げようと唆すが、作田は食料を積み込み一人で出港してしまう。さらに吉田が麻美に助け出され、ライフルを持ち出し、笠井を射殺してしまう。どうやらキノコのせいで気が狂ったらしい。結局、吉田と麻美は、笠井と村井に取り押さえられ、船外に追放される。
梅雨時になり、島のキノコがぐんぐん育つ。疲れ果てた笠井の前にお色気満々の麻美が戻ってきて船外に連れ出し、キノコを共に食べようと誘う。笠井は思わずキノコを口にするが、顔にキノコが生えだした吉田が顔を出すと、我に返って逃げ出す。しかし周囲は既にキノコ人間マタンゴによって囲まれていた。
ヨットが戻ってきたが作田は海に飛び込んで自殺していた。明子は寝込んでしまい村井は励ますが、マタンゴが大量に襲来し、明子を攫ってしまう。村井は森の中を追いかけるが、マタンゴに囲まれて明子は既にキノコを食べており、「おいしい」と恍惚とした表情になっていた。村井は救出を断念して、一人でヨットに乗り込み脱出する。
そして日本に帰ってきた村井は、精神病院にいた。医者や科学者の前で事件の次第を語り終えて、こちらを向く彼の顔にはキノコが生え始めていた。

 

 

雑感

傑作SF怪談映画。
怪談の時期に上映を合わせたとは言え、「ハワイの若大将」と組み合わせるとはナイスである。

原作の後に原案がある作品は見たことがないが、このオリジナル原作は、あくまで1907年のウィリアム・H・ホジスンの作品である。これは、大型船が難破して恋人と島に取り残された男が近くを通ったヨットに食べ物を乞い、お礼に島で起きたキノコとなった人間のことを語る展開だった。
「SFマガジン」では映画原作として新作小説を募集していたが、該当作がなかったため、編集長福島正実が「夜の声」を翻訳し、当時新進SF作家星新一が監修したものと思われる。それを映画用の脚本にするために木村武が脚色した。
ホジスンは英国の船員上がりで、ボディビルジムを経営していたが不況で閉鎖して、作家になった変わり種。惜しくも40歳の若さで、第一次世界大戦のベルギーで戦死する。不気味な作風は「クトゥルー神話」のラヴクラフトにも影響を与えた。この映画でもマタンゴは第三の生物と呼ばれている。それは動物でも植物でもないという意味で、クトゥルー神話に通ずるものがある。
福島正実は「SFマガジン」の名物編集長だった。当時はまだ翻訳しか発表しておらず、知名度がなかったため、既にSF作家活動で成功を収めていた星新一の名前を借りたと思われる。

 

 

 

スタッフ・キャスト

 
監督 本多猪四郎
製作 田中友幸
原作 ウイリアム・ホープ・ホジスン「夜の声(闇の声)」
原案 星新一 、 福島正実
脚色 木村武
撮影 小泉一
特技撮影 有川貞昌 、 富岡素敬
特技監督 円谷英二
音楽 別宮貞雄
美術 育野重一

 
配役
関口麻美 水野久美
村井研二 久保明
笠井雅文 土屋嘉男
作田直之 小泉博
吉田悦郎 太刀川寛
小山仙造 佐原健二
相馬明子 八代美紀
マタンゴ 天本英世
 

マタンゴ Matango 1963.8 東宝映画 変身怪人シリーズ第4弾

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