「チャンピオン」は1949年アメリカ合衆国のボクシング映画。 負けず嫌いで強欲な男がボクシングを始め、チャンピオンになり華々しい女性遍歴を繰り返していくが最後は・・・。
1916年に発表されたリング・ラードナーの同名小説を基にマーク・ロブソン監督が映画化している。主演はカーク・ダグラス、ダブル・ヒロインは悪女役マリリン・マクスウェル、妻役ルース・ローマン。
製作者スタンリー・クレイマーの出世作であり、アカデミー編集賞とゴールデングローブ撮影賞を受賞している。カーク・ダグラスはアカデミー主演賞に初ノミネートされて注目を浴びる。
あらすじ
足の悪いコニーと非常にタフなミッジの兄弟はシカゴの貧民窟からロスを目指してヒッチハイクしていた。カンザス・シティーでミッジは目の悪いボクサーの代役でジョニーと戦うことになる。コニーはセコンドだ。生まれて初めてやるボクシングだったため、時折センスに良いパンチを見せたが結局打たれ過ぎてTKO負けを食らう。その最中、ミッジは観客席からジョニーを見つめる、金の掛かりそうな愛人グレイスのことが気になるが、グレイスはミッジを歯牙にも掛けない。試合後ヘイリーからボクサーとしてスカウトされるが、兄弟は既にロスのレストランを買い取っていたので断る。
ロスでレストランを見つけるが、そこには既に経営者ルーがいた。兄弟が騙されていたのだ。兄弟は仕方なくレストランの従業員になるが、手の早いミッジはルーの娘エマに手を出してしまう。それを知ったルーはミッジとエマを無理やり結婚させるが、束縛を嫌ったミッジはコニーを連れてエマの家を飛び出してしまう。
ミッジはロスのヘイリーのジムを訪ねボクサーになり、コニーがセコンドに着く。三年間下級戦を戦いランキングを上げていく。ついにジョーとミドル級チャンピオンへの挑戦権を懸けてニューヨークで戦う。実は八百長試合でジョーが勝つように決まっており、ミッジは嫌々承諾させられる。しかし試合前に再びグレイスに疎まれたため、ミッジはかっと来て一回の速攻であっさりジョーをノックアウトしてしまう。そのおかげでミッジ、コニーもヘイリーもマフィアに嬲られ大怪我をする。
それだけでなく、ニューヨークでミッジが試合することは出来なくなった。試合をしたければヘイリーを退けハリスとマネージメント契約しろと、グレイスは色仕掛けでミッジに迫り、女に弱いミッジは押し切られる。ミッジがヘイリーと別れたとき、次は俺だとビクビクしたくないと言い残してコニーもミッジの元を去る。
ハリスの下、ニューヨークでミドル級チャンピオンになり次の年には四回も防衛する。しかし若く芸術に通じたハリス夫人に手を出して、グレイスを捨ててしまう。グレイスはハリスにチクり、ハリスはミッジに手切金がわりに借金を棒引きし、妻を取り戻す。
翌年復活してきたジョーとの再戦が決まる。前回は八百長で勝ったつもりの相手を速攻で倒したが、今回は厳しい戦いになる。再びヘイリーと契約し、再戦の準備を始めるが、そこへコニーから「母危篤」の電報が届く。
シカゴに帰ったミッジを形だけの妻エマが出迎える。エマが母の介護をしていたのだ。コニーに会うと「遅かった」と言われ、母が亡くなったことを知る。
コニーとエマは長く同じ屋根の下で暮らしていて愛し合うようになったので、エマはミッジと別れてコニーと結婚したいと言う。ミッジは表面的には祝福した。しかしエマの女らしい色香に再び迷い、コニーのいぬ間にミッジは無理矢理エマと関係を結ぶ。
ジョーとの再戦直前にコニーはやって来てエマがいなくなった、理由は分かっていると言い、突然殴りかかる。ミッジはコニーを難なく倒し、試合会場に急ぐ。
試合開始直後、ミッジはジョーからダウンを奪うが、中盤はジョーがミッジの左目を中心に攻めてついに出血させる。そして終盤に入り、ジョーはついにダウンを喫する。ジョーのパンチが全て決まり、一方的な試合になりドクターストップが掛かると思われた瞬間、観客席にいたグレイスを見て闘志を取り戻したミッジがカウンター一発から流れを取り戻し、ついにジョーをノックアウトする。
試合後ミッジはインタビューも受けられず、すぐに医者が呼ばれる。控室でミッジは錯乱してしまい、コーチのヘイリーとコニーを間違える。そしてロッカーを殴った後、その場に倒れたまま亡くなる。医師によると、急性脳内出血だったそうだ。コニーとエマがやって来て、インタビューもされ、コニーは気色ばむがエマに制され、弟は素晴らし拳闘選手だったと言う短いコメントを残し、その場を二人して去る。
雑感
カーク・ダグラスの狂気の熱演も惹かれたが、障害者である兄アーサー・ケネディの静かな演技にもガツンと殴られた。やはり二人で一人なのだなと思った。
ボクサーとして見たときのカーク・ダグラスはライト・マッチョだが、見た目ではバート・ランカスターより軽量級で瞬発力、切れ味があるタイプだ。もっと軽いクラスかと思ったが、背丈があるので体重も重くミドル級だった。
兄役アーサー・ケネディは典型的アイリッシュである。最初の挑戦シーンでミッジ(カーク・ダグラス)は「ユダヤ人のくせに」と悪態吐いていたので、どうやらミッジもシカゴ・アイリッシュという設定らしい。実際ダグラスはベラルーシ系ユダヤ人だが、アメリカ人の映画客は違和感を感じなかったのか?日本人の私には彼がユダヤ人には見えないのだが、彼らにはわかるだろう。
1994年のピンクフロイド「Lost for Words」(アルバム「The Division Bells」所収)はこの映画の最初のジョニー戦のノックアウト・シーンの音声「Ladies and Gentlemen, the winner is …」を使っている。
またアリス1978年のヒット曲「チャンピオン」はこの映画と直接関係なく、実際に東洋ミドル級チャンピオンだったカシアス内藤が防衛に失敗した戦いを歌にしている。
逆にこの映画は、勝者が死ぬのだから漫画「あしたのジョー」の力石徹戦のような感じに近い。どちらにせよ、以後のボクシング映画に強い影響を与えた。
スタッフ
監督 マーク・ロブソン
製作 スタンリー・クレイマー
脚本 リング・ラードナー
脚色 カール・フォアマン
撮影 フランツ・プラナー
音楽 ディミトリ・ティオムキン
キャスト
ミッジ・ケリー カーク・ダグラス
ジョニーの愛人グレイス マリリン・マックスウェル
兄コニー・ケリー アーサー・ケネディ
コーチのトミー・ヘイリー ポール・スチュワート
妻エマ・ブライス ルース・ローマン
ハリス夫人 ローラ・オルブライト
マネージャー、ジェローム・ハリス ルイス・ヴァン・ルーテン
ボクサー、ジョニー・ダン ジョン・デイ
エマの父ルー・ブライス ハリー・シャノン