スタンリー・クレイマーが製作した作品で、アーサー・ミラー原作戯曲の舞台(1949年ピューリッツァー賞受賞)を、映画としてスタンリー・ロバーツが脚色し、新人ラズロ・ベネデクが監督した。
主演はフレドリック・マーチで、ヴェネチア国際映画祭とゴールデン・グローブ賞ドラマ部門の主演男優賞を受賞した。
共演は舞台でも同じ役を演じたミルドレッド・ダンノック、ケヴィン・マッカーシー、キャメロン・ミッチェル、ハワード・スミスらである。
あらすじ
ウィリー・ローマンは60歳になるセールスマンだ。彼には冒険家の兄ベンがいた。ウィリーは冒険家の道へ進まず、家族のために堅実なセールスマンを選んだ。しかし成功した兄を尊敬するあまり、周囲の人間がちっぽけに見えてしまう。
最近仕事で運転していても何故か勝手にカーブを切ってしまうようになる。ボストンから予定を早めニューヨークの家に戻ると、やさしい妻が待っていた。妻に不調を訴えるが、妻は長男が戻って来たと打ち明ける。ウィリーには息子が2人いたが、長男ビフはかつて有望なアメリカン・フットボール選手だったが、何故か高校を中退して定職に付かず放浪生活を繰り返していた。次男ハッピーも女しか関心がなかった。
テキサスから帰ってきた長男ビフは年老いた父の姿を見て、ショックを受ける。そこで弟とスポーツ用品店を始める計画を立てる。初期資金は昔の勤めていた会社の社長に借りに行くつもりだ。ウィリーも体調的に出張生活はもう続けられないと、内勤に変えて欲しいと会社に申し入れるが、若社長は業績悪化を責めて解雇を申し渡す。
隣人で実業家チャーリーから、滞納している生命保険掛け金を借り受けたウィリーは、息子たちが待つレストランへ出かける。しかしビフは勤め先の社長に無視され、代わりに万年筆を盗んで逃げてきたと言う。彼には昔から盗癖があった。
ウィリーは、洗面所でビフが高三のとき情婦と一緒にいるところを見つかったことを思い出す。ビフがはウィリーの言うことを聞かなくなったのは、この直後だった。不登校になったのだ。ウィリーが席へ戻ると、2人の息子は姿を消していた。
別々に家に帰り着いたウィリーとビフは顔を合わすなり、激しい口論をするが、最後に長男が父の胸に飛び込んで泣きながら別れを告げる。このときビフでなく、ウィリーが息子に対して壁を作っていたことを悟る。ウィリーは夜の高速を車で猛スピードでぶっ飛ばした。自分の偉大さを証明してやるぞ!次第に目の前は霞んできた・・・。
彼は交通事故を起こして亡くなり、遺族は2万ドルの生命保険金を手に入れた。
葬式の日に集まったのは、妻と2人の息子と隣人チャーリー、その息子でワシントンで弁護士になったバーナードだけであった。妻は人前で気丈に振る舞っていたが、自分一人残されると激しく泣き崩れた。
雑感
最近のアメリカ人はダスティン・ホフマンとジョン・マルコヴィッチのテレビ映画「セールスマンの死」(1985)以降の映像作品しか知らないが、1951年劇場作品も名作である。
セールスマンは媚をふってお得意先に売り歩かなければならないが、細かい商品知識は要求されていない。本人に対する信用だけで売っていく。年をとると、お得意様は死んでしまい売上が下がり、会社からのプレッシャーも大きくなる。
現代はネット販売、通信販売が盛んで、会社の営業マンにも専門知識が要求されることも多くなったが、依然として昔のセールスマンに近い営業マンもいる。手に職を持たないものは、そういう営業マンになって飛び込み営業して得意先を作っていかなければならない。歩合制のことも多いし、社会保険もつけられないことが多い。
アメリカのように大都市に会社がありながら別の州を回るセールスは、車が使えると言っても矢張りきついと思う。それを60歳まで続けているのはパワハラでないかと思ってしまう。それでも家のローン返済のため、ウィリーは文句も言わず耐えていたのだ。それを支えたのが、優しい妻とアメリカンフットボールで大学への推薦が取れそうな長男ビフだった。
しかし長男は父の浮気現場を見てしまい、自棄になり大学進学を諦める。長男が仕事を転々とするようになったのは自分のせいだと思い込む父は、遺産を家族に遺して偉大な父で思われたいと考えるようになる。そして60歳になり自殺して保険金を遺すのだ。
彼の葬式でチャーリーが、
Willy was a salesman. And for a salesman, there is no rock bottom to the life. (中略)And when they start not smiling back―that’s an earthquake. (中略)A salesman is got to dream, boy. It comes with the territory.
とリンダを慰めるシーンは、誰しもぐさっと来る。「士農工商」の儚さは陽の東西を問わない。
この作品は原作者のアーサー・ミラーに疎まれ20年以上の間、テレビ放送もビデオ化もされず、封印映画になっていた。
それはウィリーの回想シーンの演出を嫌ったせいだ。ウィリーは60歳の姿で回想シーンを演じている。まだ原作を知らない人は、これを見て単なる回想シーンだけでなくウィリーが精神異常を起こしたと思う。実際、最後の車で暴走する自殺シーンでも表情が「シャイニング」のジャック・ニコルソンそっくりだ。監督を擁護するならば、回想シーンは白昼夢であり、暴走シーンは自殺に対する恐怖のあまりおかしくなったのだと思う。
ちなみにピューリッツァー賞を受賞したブロードウェイの舞台は、エリア・カザンの演出でリー・J・コッブとミルドレッド・ダンノックが主役夫婦を演じた。
スタッフ
監督 ラズロ・ベネデク
製作 スタンリー・クレイマー
脚色 スタンリー・ロバーツ
原作 アーサー・ミラー
原作戯曲 カーミット・ブルームガーデン 、 ウォルター・フライド
撮影 フランク・F・プラナー
音楽 アレックス・ノース
音楽監督 モリス・W・ストロフ
キャスト
ウィリー・ローマン フレドリック・マーチ
妻リンダ ミルドレッド・ダンノック
長男ビフ ケヴィン・マッカーシー
次男ハッピー キャメロン・ミッチェル
隣人チャーリー ハワード・スミス
冒険家の兄ベン ロイヤル・ビール
ビフの友人バーナード ドン・キーファー
スタンリー ジェシー・ホワイト
フランシス嬢 クレール・カールトン