サイレント映画になったことがあるオリーヴ・ヒギンス・プラウティの同名小説のトーキー化(共に製作はサミュエル・ゴールドウィン)。
主演はバーバラ・スタンウィック。
共演はジョン・ボールス、アン・シャーリー、アラン・ヘール。
監督はキング・ビダー、脚本はガートルード・パーセルとハリー・ワグスタフ・グリブルが担当し、脚色は「若草物語(1933)」のサラ・Y・メイソンとビクター・ヒアマン。
撮影は「孔雀夫人(1936)」のルドルフ・マテ。白黒映画。
あらすじ
スティーヴン・ダラスは銀行破産により父が自殺したので、許婚だったヘレンと結婚するのを断念して、一人ボストンに現れて職を得た。そしてステラ・マーティンという職工の娘と結婚して娘ローラが生まれる。
しかし結婚してから分かったことだが、スティーヴンが上流階級の出身であるのに比べて、労働者階級出身のステラはあまりに教養が無かった。事ある毎に夫婦は口喧嘩する。そしてスティーヴンがニューヨークへ栄転したときも、ステラはニューヨークの上流階級で窮屈な思いをしたく無かったので、故郷に留まり、実質的に別居状態に入った。
スティーヴンは十分な仕送りをしたため、ローレルは女学生になり、美しい娘となった。しかしステラが町の馬券師エドといつも一緒にいて馬鹿騒ぎをするために、ローラが誕生日パーティーを開いても、学校の友達は集まらなかった。
スティーヴンは偶然ヘレンと逢った。今はモリソン未亡人になって夫が遺した豪邸で子供たちを育てていた。ある日、スティーヴンはローラをヘレンの家に連れて行った。ヘレンには3人の息子がおり、ローラとすぐ仲良くなった。そして長男コンの友達のリチャード・グロスベナーとローラが出会い、互いに意識するようになった。
スティーブンとヘレンとは互いに愛情を忘れていなかった。ステラは、ローラがヘレンを褒めるのを聞いて嫉妬していた。
クリスマスにスティーヴンが帰ってきた。久しぶりに親子水入らずでディナーに行こうと話がまとまりかけたところに、エドが飲んでやって来たことから、水を注されてしまう。結局、スティーブンとローラ二人だけで遊びに行くことになる。
スティーヴンもステラも二人の愛が終わったことは重々承知していた。しかしスティーヴンの弁護士から離婚を申し込まれても、承諾しなかったのはステラの意地だった。
ところが避暑地にローラと行ったとき、ローラはカウンターバーでリチャードとデートしていたが、ステラは酒場女のように着飾って入ってきた。その姿は、たちまちに若者の嘲笑の的になってしまった。そして母親が無教養なためにリチャードと別れるだろうという噂を聞いて、ステラは娘の幸福の邪魔になってしまっていたことを悟る・・・。
雑感
高校(旧制中学)の大先輩で大映画評論家していた人が、大正末期頃、学生時代に数学をサボったのを先生から注意されると、サイレント映画の「ステラ・ダラス」(サミュエル・ゴールドウィン製作、ヘンリー・キング監督作品、ロナルド・コールマン主演)を見ていたからと言い、良い作品ですから先生もぜひ見てくださいと激賞した。すると三人の教師がその夜のうちに新開地で映画を見てきて感動してしまい、それから月一回午前中映画館を借り切って映画を見る会が学校行事に加わった。(我々の頃はすでに年一回のペースに縮小されていた)
サイレントとトーキー版は、大きな違いはない。しかしトーキー版の方が、フェミニズム批評の対象にされることが多いようだ。
個人的には、住んでいる世界が違うとなかなかうまくいかないものだと、身に染みて分かる。再び世界中で経済格差が大きくなり、結婚できる相手選びが難しくなる。上流階級と労働者階級が例え夫婦になっても、どちらかが譲り合って生きていかなくてはならない。
この映画について言えば、スティーヴンが一生ボストンの中産階級で生きていかない限り、二人が別れるのは決まっていた。ステラはどこも悪い点がないのに、スティーヴンがニューヨークに戻ってしまった時、娘を奪われる運命だったのだ。
もしステラがローラを学校にやらなければ、ステラの側についたかもしれない。でもステラの成金趣味がそれを許さなかった。
昔、親子参観でケバいお母さんが来たことがあった。水商売関係の人で娘を一人で育てていたのだ。でもその娘は何故か父方にもらわれ、もっといい学校に進んだ。おそらくステラはこのお母さんの気持ちがよく分かるだろう。そして娘もいつかはステラの気持ちがわかるのだ。
バーバラ・スタンウィックは、この映画の中で、メイクを手抜き、すっぴんに近くなり、さらに中年太りに見られるように食べて太って、それでも足りない部分は下着を重ね着したと思われる。この熱演で作品は、単なる御涙頂戴映画でなくなったのだ。この作品でアカデミー主演女優賞にノミネートされた。
アン・シャーリーは元の芸名をドン・オデイと言い、トーキーでR KO映画「赤毛のアン」(1934)のタイトル・ロールを演じたため、アン・シャーリーに芸名を変えた。この作品ではアカデミー賞助演女優賞にノミネートされた。
この原作は現代に翻案されて、「ステラ」(1990年作、ベッド・ミドラー主演)で三度目の映画化がされた。
スタッフ
製作 サミュエル・ゴールドウィン
監督 キング・ヴィダー
原作 オリーヴ・ヒギンス・プラウティ
脚色 ヴィクター・ヒアマン、サラ・Y・メイソン、ハリー・ワグスタフ・グリブル、ガートルード・パーセル
撮影 ルドルフ・マテ
音楽 アルフレッド・ニューマン
キャスト
ステラ・ダラス バーバラ・スタンウィック
スティーブンス・ダラス ジョン・ボールズ
ローレル(ローラ) アン・シャーリー
ヘレン・モリソン バーバラ・オニール
エド・マン アラン・ヘイル
母マーティン夫人 マージョリー・メイン
父マーティン氏(職工) エドモンド・エルトン
チャーリー(弟) ジョージ・ウォルコット
キャリー・ジェンキンス ガートルード・ショート
リチャード ティム・ホルト
グロスヴナー夫人 ネラ・ウォーカー
コン(義弟) ブルース・サターリー 、ジミー・バトラー(成長時)
ネタばれ
彼女はヘレンを訪れ娘のことを頼み、スティーヴンと正式に離婚する。そしてエドと再婚するふりをして、ローラを騙して実家から追い出す。
ローラは、再婚したダラス夫妻のもとで健やかに育ち、リチャードと華燭の典を挙げることになった。
ローレルとリチャードとの華やかな結婚式は雨の降る夜に自宅に神父を呼んで挙げることになった。母の気持ちがわかるヘレンは、外からもよく見えるように窓のカーテンを開けさせた。ステラは雨の中、ローラの美しい花嫁姿をかい間見て涙するのだった。