国際的な監督、俳優陣でワルツ王ヨハン・シュトラウスII世の半生を描いた、MGMの超大作伝記映画である。
というのは真っ赤な嘘で、実はこの「伝記」に事実はほとんど描かれていない。フェイクである。
 
昔は高評価されていたが、本当のことが浸透したせいか今では人気がまるでない。しかし単に当時のダンス・ミュージック映画として見れば、音楽的にもクラシックとポピュラーを融合させた、素晴らしい作品として再評価できる。
 

 

 

あらすじ

 
ヨハン・シュトラウス2世は銀行に勤めていたが、仕事中も作曲をしていたので馘になった。開き直った彼は恋人の娘ポルディの親が経営するパン屋の音楽好きを集めてオーケストラを結成し、当時のダンスミュージックだったワルツを指揮した。オペラ劇場のコロラトゥーラ歌手カーラは彼の音楽に興味を持ち、パトロンであるホーヘンフリート伯の晩餐会に招待する。その席で、彼女はシュトラウスが作曲したワルツを歌った。当時は、ワルツは民衆の音楽として貴族に馬鹿にされていたが、晩餐会に参加した人たちはその優雅な音楽に魅せられてしまった。
そうしてポルディとの結婚式の最中に楽譜出版者ホフバウアーが突然現れ、大金を払ってシュトラウスと契約し、ここに作曲家シュトラウスが誕生した。

1848年にウィーン三月革命が起き、シュトラウスは行進曲を指揮しながらホーヘンフリード伯の屋敷へ大衆と押しかけた。出てきたフランツ・ヨセフ皇太子に無礼を働いて彼は逮捕されるが、騒ぎに巻込まれたカーラと一緒に逃げ出し、一夜をウィーンの森に明かして、「ウィーンの森の物語」を作曲する。それ以来2人の間には愛情が生まれた。
間もなくシュトラウスはオペレッタの作曲に力を入れるようになり、カーラ主演で上演して大成功を収める。シュトラウスはますますカーラと深い仲になって行った。いよいよウィーン公演最終日の夜にホーヘンフリート伯がポルディを訪れた。彼はカーラとシュトラウスの仲を知っており、カーラはシュトラウスの才能を浪費するだけと訴え、ポルディに二人を引き離すように説得する。シュトラウスとカーラはその夜一緒にブダペストへ演奏会ツアーに出発する予定だ。演奏会後のカーラを楽屋に訪れたポルディは、意外にもシュトラウスの一緒に暮らす上での注意を一つ一つ教えて、最後に夫をよろしくと気丈にお願いする。シュトラウスとカーラは出発し、ドナウ河岸へ馬車を走らせるが、何か気不味かった。結局、船着場で2人は別れる。ポルディの作戦勝ちである。

それから歳月が流れて、老いたシュトラウスはフランツ・ヨゼフ皇帝に拝謁する晴れの日を迎える。宮殿の窓から歓喜する群衆を皇帝と見ていると、かつてのカーラの歌が聞こえるような気がした。

 

 

雑感

三月革命でヨハン・シュトラウス二世が革命軍側に付いたことは間違っていないが、事実はそれだけだ。彼は三度結婚している。最初は年上の歌姫ヘンリエッテである。彼女は、映画「グレーテスト・ショーマン」でP.T.バーナムによってアメリカに招聘されたジェニー・リンドと当時競い合うほどのディーヴァだった。シュトラウスにオペラを教えたのも彼女であり、彼女がいなければ彼独自のオペレッタは生まれなかった。ヘンリエッテは先に亡くなり、若い美人と再婚するが、夜毎の欲求に耐えかね、カトリックからプロテスタントに改宗してまで離婚してしまった。そして晩年は幼馴染みと再婚して余生を送る。この三番目の妻から、映画における正妻像のイメージが湧いてきたようだ。
 
この映画は、監督も俳優陣もかなり国際色豊かだった。
唯一の映画出演でアカデミー助演女優賞にノミネートされたミリッツァ・コージャスは、もともと「ベルリンのナイチンゲール」と言われた名歌手だったが、ポーランド系エストニア人だったため大戦直前にアメリカに逃げ出して、MGMと契約する。次回作撮影中に、事故に遭い映画女優を諦めるが、アメリカから離れなかった。彼女の生年は不詳だ。本来コロラトゥーラ・ソプラノだが、映画の時期は既に歌手としてのピークを過ぎていたのだろう。コロラトゥーラの特徴である、コロコロと声が転がる感じがあまりしなかった。

 
シュトラウス役を演じたフェルナン・グラヴェはフランス人の有名俳優だ。フランス、イギリスそしてアメリカと股に掛けて活躍した。
本妻役を演じたルイゼ・ライナーはユダヤ系ドイツ人である。渡米して1936年37年と2年連続でアカデミー主演女優賞を受賞している。

 
監督はフランスの名匠ジュリアン・デュヴィヴィエだ。ジャン・ギャバン主演のフランス映画「望郷」を撮ったばかりの彼はMGMと契約して、アメリカに渡って撮ったが、途中でフランスに帰ってしまう。そこで残りのカットは、「風と共に去りぬ」のビクター・フレミングと「モロッコ」のジョセフ・フォン・スタンバーグという、まるで野球で言う「勝利の方程式」のような超豪華リレーで撮り終えた。

 
音楽は全てヨハン・シュトラウスII世の名曲ばかりだが、ディミトリ・チョムキンが現代風に編曲し、さらにオスカー・ハマーシュタインII世が英語の歌詞をつけている。

スタッフ・キャスト

 
監督 ジュリアン・デュヴィヴィエ、ビクター・フレミング、ジョセフ・フォン・スタンバーグ(後の二人はクレジット無し)
製作 バーナード・H・ハイマン
原作 ゴットフリード・ラインハルト
脚本 サミュエル・ホフェンシュタイン 、 ワルター・ライシュ
撮影 ジョセフ・ルッテンバーグ (この作品でアカデミー撮影賞受賞)
音楽 ヨハン・シュトラウスII
音楽監督 アルツール・グッドマン
作詞 オスカー・ハマースタイン2世
編曲 ディミトリ・ティオムキン
 
配役
正妻ポルディ   ルイーゼ・ライナー
ヨハン・シュトラウスII フェルナン・グラヴェ
歌手カーラ・ドナー    ミリッツァ・コージャス
楽譜商ホフバウアー    ヒュー・ハーバート
ホーヘンフリート伯爵  ライオネル・アトウィル
キーンツル    クルト・ボウワ
ドゥーデルマン   レオニード・キンスキー
テノール歌手シラー      ジョージ・ヒューストン
母シュトラウス夫人     アルマ・クルーガー
皇帝フランツ・ヨゼフ   ヘンリー・ハル
 

グレート・ワルツ The Great Waltz 1938 MGM作品 ヨハン・シュトラウス2世の偽伝記映画

投稿ナビゲーション