セルヴィアの魔女の血を受け継ぐ村に生まれた女性がアメリカに渡って起こす悲劇を描いた幻想的ホラー映画。
製作はヴァル・リュートン、監督はジャック・ターナー、脚本はダビッド・バディーン。
主演シモーヌ・シモン、ケント・スミス。
白黒スタンダード映像。
あらすじ
船舶技師オリヴァーは、ニューヨーク・セントラル・パークで黒豹のスケッチを描いていたデザイナーのイレーナと知りあう。彼女の部屋に行き、意気投合する。部屋にはセルビアの英雄ヨヴァン・ネナドが猫を串刺しにしている像があった。彼女の祖国セルビアでは猫は邪悪すなわち異教徒の象徴として知られているそうだ。
やがて二人は結婚する。結婚披露宴を近所のセルビア料理店で行っていると、猫のような容貌の女性がイレーナに近づいてきて「私の妹」と声をかける。魔女がかつて暮らしていた村で生まれ育ったイレーナは、セックスや嫉妬で興奮すると化猫に変身する言い伝えを信じていて寝室に新郎を近付けようとしない。オリヴァーにすすめられ精神科医師ジャッドの診療をうけるが、かえって彼女の状態は悪化する。
次第にイレーナに対するオリヴァーの気持ちは醒めていく。そんな彼を同僚アリスが慰め、二人の間に愛が芽生える。二人の関係をイレーナが気付いた。それ以来深夜の歩道やプールで、アリスはイレーナの存在を感じ始め、恐怖を抱く。
しばらくしてイレーナはジャッドに再び診察してもらう。ジャドから過去を忘れるよう勧められたイリーナは、自分を変える決心をする。彼女はその夜オリヴァーに報告するが、時すでに遅し。彼は彼女に離婚を持ちかけるのだった。彼女は受け入れようとしない。
オリバーとアリスがジャドに相談すると、イレーナを今、精神病院に入院させると離婚できなくなる(当時の法律は精神病の配偶者との離婚を禁止した)と忠告する。
オリバーとジャッドはイレーナを待っているが、彼女は現れない。諦めたオリバーがアリスと会社に戻り残業していると、どこからともなく巨大な黒豹が現れる。オリバーが「イレーナ、来ないでくれ」というと黒豹は去った。
一方イレーナに下心を持つジャドはオリバーの留守の間に家を訪ね、イレーナを誘惑してキスする。イレーナは凶変しジャドを殺す。近隣の人々が訪ねてくると、動物園に逃げ込んだイレーナは盗んだ鍵で黒豹の檻を開ける。黒豹は外に飛び出してイレーナを食い殺し、道路に飛び出すと車に轢かれて死んでしまった。
檻の前でイレーナの死体を発見したオリバーは「(彼女の言うことは)嘘じゃなかった」と呟く。
雑感
「キャット・ピープル」は、アメリカ版化猫譚だ。女は昔からいつも野生だから、用心しろと言っている。この映画はRKOの超低予算ホラー・シリーズの一つで、ホラー・シーンで特撮を全く使わず、影だけで表現している。なかなか知的な映画でヒットした。
しかし1981年のナスターシャ・キンスキー主演のリメイク版が酷い出来だったため、オリジナルも忘れ去られてしまった。
原作はアルジャノン・ブラックウッド原作の「いにしえの魔術」。20世紀幻想文学だから、公開当時は現代文学だったのだ。
製作者ヴァル・リュートンがおしゃれで幻想的なホラーを作ろうと思い、この作品の翻案を脚本家ドゥイット・ボディーンに指示したのだ。
シモーヌ・シモンはユダヤ系フランス人。20世紀フォックスに招聘されてアメリカで映画出演するがヒット作に恵まれず、フランスへ戻りジャン・ルノワールの「獣人」に出演する。第二次世界大戦勃発でアメリカに戻り、RKO作品に出演する。戦後はフランスに戻り、マックス・オルフュス監督、シモーヌ・シニョレ主演の「輪舞」に出演する。
猫目の女が結婚披露宴で登場する。確かにバットマンでキャットウーマンを演じそうな顔だったが、猫顔と呼ぶには普通の顔だったような気がした。猫顔とはミシェル・ファイファーのような顔を言うのではないか。
スタッフ
製作 ヴァル・リュートン
監督 ジャック・ターナー
脚色 ドゥイット・ボディーン
撮影 ニコラス・ミュスラカ
編集 マーク・ロブソン
音楽 ロイ・ウェッブ
原作 アルジャノン・ブラックウッド「いにしえの魔術」
キャスト
イリーナ シモーヌ・シモン
オリバー ケント・スミス
ジャッド氏 トム・コンウェイ
アリス ジェーン・ランドルフ
船長 ジャック・ホルト
プランケット嬢 エリザベス・ダン
猫目の女 エリザベス・ラッセル