高峰秀子の自伝的エッセイ(戦前編)である。高峰ファンが読んで楽しむのは当然だ。そうでない人も当事者が語る映画史として読むと、かなり楽しめる。
高峰ファンならよく知ってる通り、彼女はクールな人である。涙なんて、この人には似合わない。その人格形成がいかになされたかも、この本からわかり、実に興味深い。
高峰は北海道出身である。しかし貧しく東京に養子に出される。東京の養母の家も裕福ではなかった。
そこで松竹の子役に応募したら、見事合格してしまう。人気子役になった彼女は、東海林太郎夫妻から養子に欲しいと求められる。数年間共に暮らすが、結局彼らの溺愛を受け入れられず飛び出してしまう。
松竹時代は田中絹代に可愛がられる。しかし養母と松竹の折り合いが悪かった。
宝塚へ入ろうかと思った時期もあったが、1937年藤本真澄の誘いで東宝へ移籍する。東宝では黒澤明に淡い恋心を抱くが、スターと当時助監督の恋が実るわけはない。
戦争末期、慰問で軍を訪ね、「同期の桜」を歌う。目の前で共に歌った若い兵隊は、特攻隊として散っていった。
彼女がいかに爺さんたちのアイドルだったかは、有名人とのエピソードでわかる。谷崎潤一郎に新村出(広辞苑編者)を紹介され、彼女がお宅へ伺うと、新村は部屋中に彼女のグラビアやポスターを貼り付けていたそうだ。
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わたしの渡世日記(上) 高峰秀子 文春文庫